トラベルのトラブル対応
西部ツアーを考えている。旅行対象者をどうしようかと相談になり、2回にわたる役員の視察を経て若い人で割と庶民向けにすることにした。
そうだとすると少し楽になる部分もある。高額ツアーだと何がなんでも完璧を期さなくてはならないが、格安ツアーならそこまでは求められない。
また高齢者だと人を多くつけてお世話しないといけないところもあるが、若年者はむしろ自分で勝手にすることを好むことが多い。
高齢者はわからないことを恐れるが、若年者はわからないことだらけで恐れることも少ない。
さすがに明らかなトラブルは困るが、基本的なことを整備しておけば、些細なことまでは気を張らなくていいように思う。
「ツアーのことだけど、あまり細かいところまで詰めなくてもいいような気がするよ」
「どうして? 失敗したらまずいじゃない」
「割と格安のツアーにするし、若い人相手だからね。全部手取り足取りはしなくていいよ」
「確かにそうかもね」
「それはそうですが、トラブルはなるべく起こさないようにしないといけないし、起きたときの対応はしないといけませんよね」
ジラルドが発言する。相変わらず慎重だ。
「それはその通りだ。もちろん生死にかかわるとか大けがするとか旅行が台無しになるようなトラブルは絶対に避けないといけない。
だけどそれよりずっと小さなトラブルについては引き受けるくらいの気持ちの方がいいよ」
「その線引きが難しいですね」
「それで高級高齢者向けだとかなり小さいトラブルでも避けた方がいいけれど、格安若年者向けだとそこまで気を張らなくてもよさそうだ」
「それはなんでですか?」
「まず格安の場合はそこまで完璧は求められない。それに若い人の方が不測の事態に鈍感だ。それで動じないことが多い」
「なるほど」
「そうは言ってもやっぱり大けがとかは避けたいからそれは十分注意しないとね」
小さなトラブルでも絶対に起こらないようにするとなると、行動があまりに制限されるし、コストもあまりにかかってしまう。ほどほどが肝心だ。
ただもしトラブルが起こっても人が住んでふつうの社会生活を行っているような場所であれば、金さえあればたいていのことは解決できる。
なおはじめは格安で若者向けだが、そこでいろいろと情報やノウハウがたまったら、それ以外へのツアーも考えようかと思う。
その時には従業員も育つだろうし、たまった情報でいろいろな予測や制御がしやすくなると思われる。
「はじめは権限のある人が行った方がいいかもね」
そう指摘される。確かに何かトラブルの解決となると権限のある人間の方がよい。それで俺が行くことも考えたが、さすがに店主はあまり出歩くなと言われてしまう。
それこそトラブルに巻き込まれたときに帰れなくなると商会の判断に困るということだ。そう言うわけで役員のアランに行ってもらうことにした。
「じゃあ、アランが最初のツアーの添乗をしてくれるか」
「お任せください」
ただいつまでも役員のアランにさせるわけにもいかない。そこで初めのツアーでは将来ツアーを任せる従業員を下につけることにした。
そんなに人をつけると初回は儲からないどころか赤字になるかもしれないが、初回だけで採算を考えるべきではない。
従業員の教育も含めてあるので複数回のツアーで考えるべきだ。それにはじめはやはり予期せぬトラブルが起こりがちだから人は多いに越したことはない。
この辺の人数というのも金次第だ。前世でも高級レストランや高級ホテルなんかは客当たりにかなり多くの人を割いていた。それですぐに客の希望や異変を察知してなるべく早く対応できるようにしていた。
これが格安となると、人が少なく、そもそもトラブルになかなか気づかず、気づいてもおざなりの対応となる。
それはそれで仕方ない。安いのに素晴らしい対応となると、それは従業員のブラックでしか対応できない。
実施前に実際に従業員に行ってもらうことにする。もちろん費用は商会持ちだし、時間外の勤務手当も出す。
トラブルというのは経験が少ないために想定していない状況で起こるので、できるだけ下見は行った方がいい。
ただそれも程度問題もあっていくらでも下見していたら、費用も掛かる上にいつまでもツアーが開始できない。
従業員たちに行ってもらったところ、やはりトラブルが起こった。道が混んでいたとか、危険な動物が出て足止めされたとか。
予約してあったはずの店が別の客を優先してしまったこともあったそうだ。。いちいち対応を考える。
道の混雑についてはいつ混雑するかの情報を集めておく。動物については仕方ない。ただ安全は確保することと、ツアー客にそれで遅れが出る可能性があることを説明しておくまでだ。
予約については確定している場合には内金を入れておく。それなら相手もおいそれとは反故にしないだろう。もしすれば倍返ししてもらうまでだ。
とは言え何も食べられないのは困るので、商会の持っている建物に備蓄をしておく。
そんな感じでツアーについてもだいたいめどがついた。あとは募集するまでだ。募集はうちの店がらみであちこちにポスターを貼る。
ただ高級店の方は少なめだ。あまり客層に合っていないし、むしろ金持ちなどに来られると面倒な気もする。
物珍しさもあるし、うちは観光ガイドとかシーフードとか何かと話題作りをしてきたので、けっこうな評判となった。




