モンブレ中腹まで登る
クルーズンの西の方のツアーを企画している。役員の俺とシンディとジラルドとリアナとカミロで下見に行っている。
リアナはシャンプの町に残り、地場料理の調査をしている。俺たちはグランルスから道を南に取り、高峰モンブレのふもとの町モンブレビルまで来た。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
信仰も伴う高峰の入口の町だけあってモンブレビルはグランルスよりにぎやかな感じだ。
「さて、せっかくここまで来たんだからモンブレに登るんでしょ」
相変わらずシンディは体を動かすことが好きだ。モンブレに登るにはやや季節がよくない。もし季節がよかったとしてもかなりの苦労でちょっと遠慮したい。
だいたいジラルドもあまり乗り気ではなさそうだし、カミロなどは露骨に嫌な顔をしている。
「モンブレはちゃんと準備しないと危険だよ。また今度にしておこう」
「今度っていつよ?」
「準備が整ったらで」
「準備はいつ整うの?」
「さあ、いつになるやら」
「それじゃ永久に登れないじゃない?」
まあ確かに永久に登りたくないわけだが、どうしたものか。
「とにかく今はまずいよ。季節もベストではないし、4人で遭難したら商会は大打撃だよ」
「そう言われるとそうね」
「ねえ、また今度にしよう」
「でもね。ここも観光客は多いわけでしょ。まったく登らないのもまずいんじゃない?」
そう言われるとそうだ。
「まあ、そうだね」
「じゃあ、中腹の町まで登ったらどうでしょう」
ジラルドが提案する。モンブレビルの町自体はモンブレのすそ野にあるが、さらに上の方にも宿や寺院や観光客向けの建物が集まった小さな集落がある。
そこまでならさほど危険でもない。だいたい馬車で行けるのだ。
「そうだね。じゃあ中腹まで馬車で行こう」
「そこは歩いてでしょ」
すかさず反論される。
中腹までも歩いて行くと半日ほどはかかる。中腹で街を見て、下りはもっとペースが速いだろうが、丸1日かかりそうだ。
明日の早朝に出たとしても帰りは夕方だろう。いまからくたびれそうだ。だいたい早起きもしたくない。
「どうしても歩いて行くの?」
「どうしても歩いて行くの!」
こうなるということを聞きそうにない。カミロは嫌そうだが、ジラルドは半ばあきらめている。
仕方なく歩いて行くことにする。そうすると履物や衣類なども整えないといけない。
今日はまず街の一番南側であり、いちばん高いところにある寺院に言って参拝する。実はここはあの神ではなく、その眷属が祭られている。
少しはありがたいような気もして、明日楽ができますようにと少しまじめに参拝した。
「あら、フェリスはいつもいい加減な態度で参拝しているのに今日はまじめね」
「いつもまじめだよ。明日は無事に登れますようにと祈っているんだ」
「中腹まではそんなに大変じゃないと言うわ」
「それでも山だからね」
参拝を終えるととりあえず宿に行き、それから装備を整えに行く。
終わった後に持って帰るのはギフトのホールでクルーズンに運べばいいからさほど大変でもない。それだけは少し気が楽だ。
シャンプで別れたリアナとの合流については、取引先との交渉次第でいちおう長引くかもしれないとは言ってある。取引先じゃなくてシンディのわがままのせいだけど。
多少は予算も渡してあるし、家もあるから大丈夫だろう。居場所と金さえあれば世の中何とかなる。
グランルスで食べたすいとんと似たようなものを食べて寝る。翌朝は5時起きで簡単な朝食を澄ますと、暗いうちから歩き始める。
きのう参拝した寺院の横が登山道になっている。
途中にはいくつか神像などがあるが、木々に囲まれて展望がよいわけでもない。ベンチがあったりするので座り込む。
空気が薄いためか少し疲労が大きい。ところがシンディはケロッとしている。ジラルドも比較的平気で俺とカミロはへとへとだ。
途中で何度も休み、最後の方は坂が急になってうんざりする。そろそろ涼しくなる季節なのに汗が出る。
シンディは平気そうだが、俺とカミロは息切れしている。登山道の途中にはあとどれくらいで目的地に着くかの看板があった方がいいと思う。
何度も途中で休んで、あと少しだと自分に言い聞かせて脚を動かし、ようやく中腹の街につく。そのあたりは木も切られていて展望がよい。
開けた場所で周囲を見渡す。それから街中に向かうと、茶屋や宿屋や食堂や寺院などがある。ここは馬車で来れるので、それなりに人が多い。
せっかく来たので、あちこちの店の主人に顔つなぎだけはしておく。まあそれだけは来たかいがあった。
食事をしたりして休んでから下りに向かう。




