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45. オーク出没(上)

また事件が起こります。

 クラープ町とセレル村の間には田舎道が通っている。セレル村民からすると外からの物資を得るための重要な道だ。


一応自給自足で生活できるとは言え、外からの産品も捨てがたい。ついでに医者に掛かりたいとか、生活必需品以上の買い物をしたいとなると町に行かないといけない。


ここに最近オークが出没するといううわさが出ていた。はじめは遠くに大型の魔物を見たというくらいだったが、そのうちに雄たけびを聞いて逃げて来た者が出たり、けがをしたものが出たりとエスカレートしていった。さいわい死者はまだ出ていない。


仔鹿亭ではどうしたものかなどと話し合うふりをしたおっさんやじいさんたちの飲み会が開かれる。


はじめはみんなそのうちいなくなるだろうと気楽に構えていたが、とうとう身近でもけが人が出てしまう。シンディの両親のレナルドとシルヴィアである。




 2人が町に買い物に行って戻ってくるときに運悪くオークに遭遇してしまう。しかも3体いたのだ。

レナルドはもちろん帯剣していたが、武術の心得があるわけでもない妻をかばいつつではまともに戦うことはできなかった。


シルヴィアに逃げるように言い、レナルドは剣を振るってオークの足止めをする。すると別のオークがシルヴィアを襲おうとする。


レナルドは今まで相手していたオークから逃れそちらに駆け寄って間に入り、またフリーになったオークがシルヴィアを襲おうとしてレナルドが邪魔をする。


その繰り返しをしつつ少しずつ村の方へと後退していった。


幸い先に逃げたシルヴィアが村人に急を伝え、自警団と猟師が槍を持って駆け付けたためオークは分が悪いと逃げ出し、レナルドも撤退することができた。


しかし代償は大きく、利き腕である右腕の骨折でしばらくは剣を振るのが難しくなってしまった。




 酒場では俺ならオークを斬りつけて1体くらいは退治できたなどと吹いているものもいたが、実際にはそれは難しい。


オーク1体相手に少なくとも2人できれば3人以上の人間で対処するのが通常だ。また日本の刀と違い剣はそれほど切れるわけでもなく、まして分厚い毛皮のオークの皮膚では傷つけるのも困難と言われる。


1人で3体のオークを相手にして、妻を無事に逃して死なずに戻ってきただけでも常人をはるかに超えている。




 村としてはオークを退治しなければならないが、猟師はまだしも自警団の方はかなり腰が引けている。


だいたい村あたりでは自警団と言っても専業ではなく、農家の兄ちゃんの兼業なのだ。


大した訓練を受けたわけでもなく、イノシシやゴブリン程度であれば相手できるが、オークというと手にあまる。人より大きいのだ。さすがに恐れるのがふつうだ。


状況が悪かったとはいえ、村でも最強のレナルドが撤退したこともあって、積極的に打って出ようというものはいなかった。


レナルドの弟子たちも腕に覚えがあるようなものはとっくに村の外に出てしまっている。


村の老人たちは情けねえなあとか俺が若かったらなどと調子のいいことを言うが、自分の息子にはけがをしても損だから出るなと言っている始末である。




 フェリスとしては退治に行きたくない村人の気持ちがあまりにもよくわかる。それは志願して危ないところになど行きたくはない。


こういうのはやはり専門家に任せた方がいい。そう思いつつも、村人より少しは考えがましなのは、専門家に任せるにはそれなりの謝金を用意しないといけないというところまで考えが及ぶところだ。村人の中には、冒険者は何をしていると文句を言っているのもいるのだ。


そりゃこの世界の冒険者は職業だからそれなりの謝金がなければ来ませんよとしか言いようがない。




 なおシンディは案の定というか、絶対にオークを退治してやると息巻いている。母親は危ない目に会い、父親はけがをして撤退である。


見る人が見れば立派な戦いだが、俗には不名誉な敗退にも見られている。シンディは報復して父の汚名をそそぎ、さらに名を上げるつもりだった。


もちろんレナルドからは止められる。


「己の力量を知ってできることを探るのも実力のうちだ」

そう言われると、シンディは何も言い返すことができない。


一か八かでオークに勝てるかもしれないと勝手に妄想していたが、もともとシンディはレナルドにとても敵わないのだ。オーク3体になど敵うはずもない。




 シンディは一部の者が言うレナルド敗退の世評が悔しくフェリスにもこぼしていた。フェリスもシンディの悔しさがわからないわけではない。


「1人でオーク3体を相手にするのは無理だよ。むしろシルヴィアさんをほとんどけがなしに守ったことの方がすごいくらいで」


実際にそうなのだ。フェリスなどオークに一太刀浴びせたことより、うまく逃げられたことに感心している。


できるだけけがしないようにうまく逃げる術を身に着けたいと思ったくらいだ。そんなことをシンディに言ったらどやされそうだけど。


「わかってる、わかっているんだけどね」


いまシンディが行っても退治などかなうはずもない。けが人が増えるか下手をすれば殺されるだけだ。

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