シャンプの馬車業者と話をつける
シャルキュの商人のオルソン氏と一緒にシャンプに来ている。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
馬車業者に紹介してもらうことにした。
「こんにちは。親父さんいる?」
「はい」
「どうも」
「これはオルソンさん、何の御用で?」
「ちょっと紹介したい人がいてね」
「はて、どなたで?」
「こちら、クルーズン市で商会を経営しているシルヴェスタさん」
「はじめましてシルヴェスタ商会のシルヴェスタと申します」
「若主人さんですかい?」
また主人の息子だと思われているようだ。
「いや、親父さん、こちらが商会を創業したご主人だよ」
「はあ、こんなかわいい坊っちゃんがねえ」
「こちらはクルーズンではけっこう手広く商売しているんだよ」
「ほうどれくらいで」
「クルーズン市内は多業種があり多数の支店があります。市外にも北はレーヌまで、南はマルポールまで支店があり、東もクラープ町と交易しています」
「はあ、こりゃ驚きだ」
「手広いのは聞いていたけどあらためて聞くとすごいですねえ」
「それはそうとちょっと前にうちのアランがご挨拶に伺いまして」
「えっと、あ、そう言えば半月くらい前にクルーズンの商会の手代さんが来ていたっけ」
「ええ、彼は実は番頭でして」
「はあ、ずいぶん若い人だったけど」
「ええ、まだ20にもなっていません」
「まあご主人がこんなに若いんじゃ、彼が番頭でも不思議はないか」
「それでですね。アランからもお話があったかと存じますが、いろいろと馬車を出していただきたくて」
「そんな話でしたね。どれくらいで」
「数十人の客の旅行です。シャルキュからここに連れてきたり、グランルスまで連れて行ったりなどを考えています」
「協力はしたいんだが、ちょっとそれだとうちは扱いきれそうにないね」
「ええ、必要でしたら出資でも融資でもします」
「はあ、大商会さんは言うことが違う」
「それからうちで月1回こちらの町に商人を出すのでそちらの手伝いもしていただけるとありがたいです」
そう言うと馬車業者は少し怪訝な顔をした。
「オルソンさん、こんなこと言っているけど大丈夫なの?」
「ええ、それは相談がついていて、うちとは別の商品を扱うそうですよ。この町にもクルーズンの新しいものが来ますよ」
「それならいいですが……」
「それではシルヴェスタさんのご商売にご協力いただけることでよいですか?」
「ええ、それで結構です」
「ありがとうございます。それでは詳細はシャルキュの係りの者をよこしますので、改めて相談で決めましょう」
「はい」
シャルキュにも支店を置くことになっている。そこでこまごましたことは調整すればいいだろう。
郵便の方についてはシャンプの東の峠からグランルスの西の峠まではほとんど狭い回廊にしか人が住んでいないので馬車で運ぶようなこともなさそうだ。
山がちで川が流れているところだけ少し低地になって人が住めるようになっている。
二人で馬車業者を出て話をする。
「さっきはああいったけれど、本当にうちとは競合しませんか?」
「ええ、商売の規模もあまり大きくありませんし、何かあってもすぐにクルーズンから来づらいですしね」
「なるほど。今後はどちらに商売を広げるお考えですか?」
「実はいま、子爵と争っています。それが片付けば東の方でもう少し商売を広げたいですね」
「えっ? 貴族と争いですか? それは大丈夫なんですか?」
正直言うと、大丈夫でもない。一度は殺されかけて、いまも逃げている。だがそんなことを彼に知らせても仕方ない。
「ええ、伯爵様も司教様もうちを支持してくださっています」
「伯爵様と司教様の支持とは……、それは大丈夫なものですか?」
「ええ、何度もお会いしていますし、献上品も都度都度差し上げています」
そう言うとオルソン氏は少し驚く。
「はあ、クルーズンの大商会の方は商売の仕方が違いますな」
いや、うちだけ特異なだけだ。実はクルーズンではもっと大きい商会もあるが、そこまで貴族とは関わっていそうにない。
うちはいろいろと前世由来の新しいものがあるために目立つのだ。
「なにかいつの間にかそうなってしまっていたということです」
「それでも大したものです。それに比べてうちの商売のささやかなこと」
そうは言うが、彼の商売はきちんとこの回廊の人々の役に立っている。クラープ町やゼーランの領都系商人たちは彼より大規模だったが、人々からろくでもない収奪をしていた。
彼の方がよほど上等だと思う。
「オルソンさんの商売でこの回廊の人たちは助かっているわけですし」
「ええ、そうですね。まだまだ続けないといけませんね」
そんなことを話しながら、シャンプで一泊する。もちろん少しだけクロの元に帰る。




