商会の名が通っていないのでいろいろ苦労する
クルーズンの西側の町の商売を進めている。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン ---- クラープ町 ---- ゼーラン(東)
いまはグランルスに来ていて、シャンプの町はアランに任せている。
定期的な郵便をこちらにも広げたいが、なかなか難しいところがある。郵便だけで馬車を出すと採算が合わない。
商品も一緒に持って行けばあいそうだが、既存業者と競合になる。それで既存業者を探して協力を依頼することにする。
宿場町の商店で聞いてみると食料は近隣から調達するが、月に1回シャルキュの方から商人が来て仕入れをしていると言う。
それ以外は年に1度来るか来ないかの商人だそうだ。年1の商人は考えず月1の商人に依頼すればいい。
ただ月に1回だと少し頻度が少なすぎる。だいたい手紙を書いて返事をもらうまでに2か月かかってしまう。2週に1回くらいなら1か月で何とか我慢できる程度だ。
いまの商人との交渉次第だが、うちでもその商人と半月ずらして月1で商人を出せばよさそうだ。そちらは既存の商人とは商品を変える。
既存の商人はわりと量のある生活必需品を運んでいるようだ。うちは服やら装飾品やらあるいは工具などを運べばいいかもいしれない。
それだけだとグランルスには多すぎるかもしれないが、東のシャンプや西のカンブル―それに南のモンブレの町にも持って行けばいいだろう。そちらだって郵便は必要なはずだ。
そう言うわけで地元の商店主にシャルキュの商人宛ての手紙を託しておいた。シャルキュとクルーズンの間はすでに郵便が通っている。
そうしているうちに6日たったので、クルーズンからアーデルベルトを連れてくる。前に馬車業者に俺が子どもだから交渉できないと言われたので、連れてきたのだ。2人で馬車業者に向かう。
「こんにちは」
「こんにちは、あ、この前の小僧さん」
「ええ、今日は番頭さんに来てもらいました」
正確には取締役だが、こちらの世界では番頭と言っておいた方が通りがいい。そして2人で自己紹介し合っている。
「この前はこちらの小僧さんが、とつぜん商売の話を持ってきたので仰天しましたが、番頭さんとならお話しできます」
「いえ、こちらは私どもシルヴェスタ商会の主人でして」
「へ? いや、若主人さんですか? 先代に何かご不幸でも?」
どうやら俺の父親が死んで、代わりに俺が若すぎるが継いで番頭が補佐しているように聞こえたらしい。
「いえ、そもそもシルヴェスタ商会は、こちらのシルヴェスタが4年前にクルーズンの東のクラープ町で起こした商会です」
「へ? そんな、だって4年前じゃまったくの子どもじゃないですか?」
「ええ、それが全くの斬新なアイディアで創業1年ほどでクラープ町で一番の商会になっていました」
「ちょっと想像がつきません」
確かに子どもがいきなり商会を作って大きくしたなどと信じがたいかもしれない。
「申し訳ないんですが、私どもクルーズンの事情には疎くて、お宅さんがどういった商会かわかりません。ですからちょっと大きな取引は致しかねます。どなたかのご紹介はありませんか?」
どうにもわけのわからない商会に思われたらしい。確かに子どもが商会を起こして大規模になったなどとは不自然かもしれない。
ただ嘘をつくならもっともっともらしい嘘にするだろうけど。とは言え、一度不信になったら、それを取り除くしかない。
仕方なく、いったん休みを入れ、家に戻って司教の書付を持ってくる。しばらくしてまた馬車業者に向かい、それを見せる。
「先ほどの件ですが、実はこの通りクルーズン司教様からお墨付きをいただいております」
ところがこれには相手はびっくり仰天してしまう。
「いきなり司教様の書付と言われましても。これが本物かどうか私どもにはわかりませんで」
うーむ。いろいろアウェイだと勝手が違って困る。この辺の町長あたりの書付の方がよかったらしい。だが領主も町長も知らない。
司教か伯爵に紹介してもらえれば何か便宜を図ってもらえるかもしれないが、それも面倒だ。もう面倒だから俺がここで馬車業者をしてしまいたいくらいだ。
とはいえ、そんなことをするとまた後が面倒そうだ。そこでアーデルベルトが思いついた。
「シャルキュの商人の紹介ならお取引いただけますか?」
伯爵領の西の果ての町シャルキュからここに定期的に物資が運ばれてきている。その商人なら俺のことをも知っていそうだし、こちらにも名前が通っている。しかも近く彼とは取引しようとしている。
「ええ、そちらのご紹介なら安心できます」
というわけでシャルキュの商人と連絡を取らなくてはならなくなった。町の商店は彼から仕入れているというので、いつ来るかを聞いてみると10日後だという。
俺自身はギフトで移動すればいいから、別に来るのに手間はない。すでに彼に連絡を取ろうと町の商店に手紙を託したが、それより先に会うことになりそうだ。




