取引で子ども扱いされる
子爵の犯罪の方は王府に任せてある。とはいえ、決着がつかないとあまり安心して出歩くことができない。
そこで子爵領とは反対側の西側の方に目を向けている。伯爵領であるシャルキュの町まではわりと平坦な道だ。そこから山がちになる。
クルーズンから東や南北は割と開けているので行きやすいが、西の方はそうではない。
ということは東や南北はすでに他の商会が開拓してしまっているが、西の方はそうでもないということだ。せっかく西に行く機会なので、この際、そちらでの商売を考えている。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
クルーズン市から西に行くとシャルキュの町までは伯爵領で割と平地が続く。そこから山がちで途中いくつか宿場町があるがシャンプとグランルスが割と大きい。
グランルスでは西と南に道が分かれ、西は峠を越えてカンブル―、南は国内最高峰のモンブレに至る。
アランと一緒に来ていたが、アランにはシャンプの町の調査を任せ、俺はグランルスを担当することにした。
見どころと宿屋と飯屋と馬車業者を押さえないといけない。とはいえ、すでにガイドブックを作っているのでどこにあるかはわかる。
あとはツアーで多数で来た時にスムーズに使えるかどうかだ。
見どころは古戦場と寺院だ。古戦場の方は誰も管理しているわけでもない。ただ道が狭いのでそれだけ気を付ければよさそうだ。自警団にその辺の事情を聴いた。
寺院の方は多数で来るときは事前に連絡をしてくれれば対応するとのことだった。
宿屋と飯屋も数日前に予約してくれればいいとのことだ。それより前にふさがることはめったにないが、ツアーを組むなら1月前には予約できる。
それならかち合うこともないという。ただ祭りの時だけはちょっとうまくないという。それはそうだろう。祭りを見るツアーのときはちょっと考えよう。
ところが問題だったのが馬車業者だった。
「こんにちは」
「はい、何でしょう?」
「馬車のことでご相談が……」
その辺で向こうはけげんな顔をする。
「はあ、どんなことで?」
「実は半年後くらいに馬車を出してもらいたいんです?」
「え? ちょっと話がよくわからんのですが」
「実はクルーズンから30人くらいのお客さんを連れて旅行に来ようかと考えておりまして」
「はあ」
「それで馬車を出してもらえないかと……」
相手はこちらをじろじろ見てくる。
「何かよくわからない話ですが、どこかの商会ですか?」
「はい、クルーズンのシルヴェスタ商会です」
「ふうん、それにしてももう少し上の人に来てもらえませんか? いくら大都市の商会でも小僧さんじゃちょっと困りますよ」
「え、いえ、私は主人です」
「へっ? こんなめんこい子が主人と言ったって信じられませんや。手代さんか誰か連れて来て下せえ」
クルーズンだと俺はガイドブックとか冷蔵庫とかシーフードで話題になってしまっているので、14歳で店主の仕事をしてもみんなわかってくれている。
だから俺が1人で商売の交渉をしようとしても相手してくれる。ところがこちらのグランルスの町では俺はちっとも有名ではない。
だから交渉しようとしても小僧さんくらいの扱いしかしてくれないようだ。
仕方ないので誰か別の人を連れてくることにする。とはいえ、うちだと役員でも若い人だらけだ。ジラルドくらいなら手代に見えないことはない。
ただアーデルベルトなら年も行っているし、もともとクルーズンの別の商会で番頭くらいにまでなっていたはずだ。彼に来てもらえばいい。
それでも面倒はある。クルーズンからここまで来るのに3日はかかる。ということは俺がここから向こうに知らせて来てもらうなら往復6日だ。
実際はギフトのホールで連れてくるが、それを相手に悟られないようにしないといけない。というわけで馬車業者との交渉はそれまで先延ばしになった。
その間にカミロとまた郵便について相談する。伯爵領内では郵便網を構築しつつある。だいたい商売をするにはそう言った通信が欠かせない。
ツアーだって寺院や宿屋や食堂と連絡を取るのに毎回は来ていられない。郵便網がないと飛脚に依頼するか商人についでに持って行ってもらうしかない。
飛脚は金がかかるし、商人の方は不安定だ。やはりきちんとした郵便が欲しい。
ただ郵便だけ運ぶのに人を出すにはちょっと金がかかりすぎる。こちらの方は山がちで移動にも時間がかかる。それに道沿いの人口は多くない。
そうするとやはり商品を持って行くついでに郵便を持って行くしかない。
実はそれにも問題がある。すでにこちらの町に商品を運んでいる行商人たちがいる。こちらが商品を持って行くと彼らと競合してしまう。
気ままに来ているだけなら構わないのだが、定期的に来ているとなるとこちらが商売を奪い取ってしまうのもはばかられる。
彼らもこの辺の業者とも付き合いがあるだろうし、いらない軋轢を起こすこともない。むしろ彼らに郵便を依頼すればいい。
そう言うわけでどういう商人が来るかも調べることにした。




