グランルスに家を借りて本格的に調べる
子爵による拉致から逃げかえり、伯爵に保護を求め、いま子爵領には王府の調査が入っている。
伯爵は警戒を強化してくれているが、また子爵による拉致があるかもしれないと思うと、平気で出歩くことができない。
そこで東側にある子爵領とは反対側の西側の町に繰り出している。やや山がちでいまは観光ツアーができないかと企画している。
まずは実施する日時だ。馬車の予約や宿の予約があるから日時は決めないといけない。さらに参加者の募集もしないといけない。
そうするとそれなりに先でないとまずい。それで初めての企画だ。最低でも3か月。実際は半年くらいは欲しい。
「半年先でいいかな?」
「その時期で人が集まるかどうかね」
「あと宿が取れるかどうかも考えないと。祭りなんかあると全く取れなくなる」
「あ、そうか。いまは8月で半年先だと2月になる。寒いとあまり行かないかもしれない」
「4月頃の方がいいかもね」
「その頃に祭りがあるとやりにくいかもね」
「それは調べてもらおう」
そんな風に相談が整っていった。ちなみに調べに行くのは俺とアランだ。
俺が行くのはあまりクルーズンにいたくないし、ギフトがあるからいくらでも向こうに行けるからだ。
アランは慣れた仕事より新しい仕事の方が好きらしい。しかも外を出歩くのが好きなようだ。
「西の地方の人々にも私の歌を届けないといけません」
まだ売れない歌を歌っているらしい。下手ではないのだけれど。儲かりそうにないが、お金のためだけに人生があるわけではないから、それもいいかと思う。
そんなわけで2人で西の地方に繰り出す。基本的に俺がギフトで一度行っているので、それでアランも連れて行く形だ。ついでに他の役員たちもときどき連れて行ったりする。
俺だけでない理由は、1人だとやはり見方が偏ること、それにやはり俺は店主として中の仕事もしなければならないからだ。アランを向こうに連れて行って十分に調べてもらえばいい。
西の方はクルーズン市を出てもしばらく伯爵領が広がっている。クルーズン市から伯爵領の西の果ての町シャルキュまで10里ほどで馬車なら1日で行ける。
シャルキュまでも見どころがないわけではないが、非日常の感覚はない。伯爵領を出ると山がちの地形となる。
いくつか宿場町があるが、シャンプやグランルスは比較的大きい。シャンプを通り追分の町グランルスまで8里ほどだが山道なので1日とはいかない。
グランルスから西に行くと途中で峠を越えて都市カンブルーまでやはり8里ほどだ。カンブル―はワインで有名でセレル村のアンナがいま留学に行っている。
彼女に向こうであってみるのもいいかもしれない。グランルスから南に行くとこの国の最高峰であるモンブレがそびえる。こちらは信仰で向かう人が多い。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
いま俺はアランとグランルスの町まで来ている。グランルスでは宿を取っていたが、思い切って家を買うことにした。
古い家だがさほど高くなくて300万ハルクほどだ。クルーズンで買うのの数分の1ですむ。
物も置いておきたいし、ギフトで出入りするにしても宿より安心できる。これからこちらも開拓するとなると必要だと思う。
グランルスに来るには手前のシャンプの町で一泊するのがふつうだ。ということは視察しなくてはならない。俺は通り過ぎてきてしまった。
そうなると戻る形になるのでちょっと億劫だ。俺のギフトのホールは1カ所と自宅のクロの間しか結べない。シャンプに戻るとシャンプとしか行き来できなくなる。
いろいろ面倒なのでアランに任せてしまおうと思う。
「クルーズンからグランルスまで行くとなるとシャンプの町も一晩は泊まらないといけないんで、どんな町か見て来てくれない?」
「ここからシャンプだと1日かかりますね」
「シャンプで数泊してもいい」
「何を調べておきましょうか」
「宿屋と食事処と観光地について多数の人を連れて行けるかどうか、それから馬車の手配ができるかどうかも調べて欲しい」
「わかりました」
いちおうガイドブックも作ったのである程度のことは知っているが、個人旅行と団体旅行はやはり異なる。団体向けの調査をしないといけない。
「7日くらいでいい?」
「5日もあれば十分かと」
「いや休みの日も必要だろ。それに歌の披露もしたいんじゃない?」
「わざわざお気遣いありがとうございます」
「その宿代も商会持ちでいいからね」
「ありがとうございます」
「じゃあ7日後に」
そう言ってアランとは別れる。アランに任せたとはいえ、ギフトのホールの維持に毎日こちらに来なくてはならない。俺の方は俺の方でグランルスの視察をしようかと思う。
本格的に西側の町を開拓するとなると郵便も整備しなくてはならない。誰か人を置くだろうが、その人とのやり取りも必要だ。
そうなると馬車業者なども調べないといけない。けっこういろいろすることが多いことに気づいた。




