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保険(下)

 任意でも保険が導入されて、いちおう小さな一歩だと思う。これまでは冒険者はけがをしても泣き寝入りだった。自己責任と言えば聞こえがいいが、仕事をさせた方の責任だってあるはずだ。


けがを克服するには本人の資力や身近の助け合いによるしかなく、それがないものは苦しみの日々を送るしかない。


その間働けないことだって社会の損失だ。その残酷な状況を抜け出すための一つの足掛かりを作れた気がする。




 日本でさんざんブラックにいじめられて、こちらで1つましにできたように思う。


そういえばあのろくでもない会社は労災に入っていたのだろうか。

あのバカ経営者どもではその分を着服していた可能性もあるなと、久々に不愉快なことを思い出した。


だいたい経営者に値しない人間が経営をしているのが悪い。最低限度である労働基準法も守れない会社など社会の害だから存在してはならないのだ。


「労働基準法をうちではやってない」だと? バカ! 労基法は強行法規だ。契約内容に関わらず労基法が適用になる。そんなことも知らずに経営者しているのか。


労働者を使いつぶせば、使いつぶされた労働者は社会の負担になる。けっきょく無能な経営者が社会に寄生しているだけだ。あんな会社早くつぶれた方がいい。


……ちょっと熱くなってしまった。俺がいなくなってあの馬鹿どもはどうしているのだろう。まあバックレなど何度もあった会社だから、もう気にしていないかもしれない。





(スコット視点)

あの子は恐ろしい子だな。いや別に何か危険なことをしているわけではない。だけど他の人が考えつかないことを考える。しかもけがをした冒険者を助けるべきだと確信があるようだ。


自分自身がけがをした俺でも自己責任だと思っていたのに。けがをしたやつが間抜けなんだと。


彼の言っていることは正しい。たぶん使用者が払って強制的に入れるというのももっともなんだろう。


そこまでは他の奴には理解されないが。とりあえずはいまは保険をどう運営していくかだ。


治療費の支払いがかさんでギルドが大損するかもしれない。


だけどフェリスの言い分だと、それはそんな仕事を任せたギルドの方が悪いということだったな。


冒険者と依頼に等級をつけて、マッチしないとさせないのだから、ギルドの見積もりが甘いのかもしれないな。


ギルドは同業者の助け合いなんだから、治療費くらいは持つのももっともといえばもっともだ。


ただ詐欺まがいの治療費を請求する連中だって出てくるかもしれない。その対策も考えないと。






 さらに数か月後、スコットから話しかけられた。

「あの保険の件な。すでに始まっているぞ」

「どう、うまくいっている?」


「ああ、いろいろいいことがある。加入するのはそんなに多くないが、大けがして治療費もらえて感謝しているのもいるよ。

おかげで何とかやっていけますと。先輩の中には借金奴隷になった人もいるけど、そうならずにすんだと。

10万くらいの金が払えずに坂道を転げ落ちるようにもだめになるのも若いのにはいるんだな。考えないといけない話だよな」


「そうかあ、うまくいっているならよかった」


借金奴隷になるなんてうわさがたったら、冒険者になる人が減りそうなものだが。人があぶれていてブラックOKなのかな。それともこの社会は自己責任真理教で、みんなそう思い込んでいるのかも。


「ただ問題も起こっている。やはり嘘をついて高額の治療費をだまし取ろうとするのは出てきた」

げっ、やっぱり出て来たか。どこにでも悪い奴はいるな。

「それにはどうしたの?」


「さすがに高額の請求には調査を入れることにした。それから低額の請求は面倒なので、ギルドで回復魔法が使える魔術師を雇って、保険を掛けた冒険者は簡単な治療ならそこでタダで治療することにした。それで加入者が少し増えた部分もある」


調査は元の社会でもしていた。治療は企業内の医務室を作って、医師や看護師を置いているようなものかな。


「あとはやっぱり料率だな。安すぎてギルドの持ち出しが多すぎても困るし、高すぎて加入されなくても困る」


それは難しそうな話だ。日本での保険の設計は事故率の統計を取って、支払いで保険が破綻はたんしないようにしかも保険料が高すぎないように料率を決める保険数理士アクチュアリーという専門の仕事まであるくらいだ。


今回はギルドがバックにいるから、すぐには破綻しないだろうし、だんだんと落ち着くところに落ち着いていくと思う。


あとは支払いが多い場合には掛け金が上がる制度もありうるが、すぐには難しい気もする。

上がりすぎて加入を嫌がったらよくないし。日本でも若年層の自動車の任意保険が高く未加入が見られた。


「強制加入の方は?」

「そちらはまだ難しいと思う。いまだって『俺はけがをするような間抜けではない』とうそぶいて、保険を嫌がるのも多いからな」


事故というのは技術があっても起こる確率が低くなるだけで、だれでも起きうるんだけどな。

むしろ実力のある人の方が、事故が起こるかもしれないと警戒していることが多い気がする。


「ギルドの手数料の方を値上げして、軽いけがをした時のギルドでの治療を全員にしたらどう?」

「あ、それは行けそうだな。値上げしたら文句言うのも出てきそうだからその対策は考えないといけないけど」

「事故率にもよるけど1日100ハルクくらいなら、なんとかなるんじゃない?」

「それならいけるかもな」




 とにかく世の中からブラック企業がなくなってほしい。猫は黒くてもかわいいけれど。


黒い猫でも赤い猫でもブサでもモフモフさせてくれる猫はかわいい猫だ。


家に帰ったら、思いっきりモフモフしてやろうなどと思いながら、帰り路についた。



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