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王府の役人との面会

 俺が子爵に拉致されてギフトで逃げ、伯爵領府に保護を求めた。残念ながら証拠がないためそれだけでは王府に上申して問題にはしにくいらしい。


ところが伯爵領では前に財産関係で子爵領とトラブルがあった。そのトラブルは完全に解決されたわけではないが、大きな問題になりそうになかった。


それでもそれを蒸し返して、王府に上申した。けっきょく王府から役人が来ることになり、近く俺も聴取されるらしい。




 王府が子爵領への介入を行う理由として、一つには王権を拡張して貴族の権限を取り上げたいことがある。


ただそこまで考えるのはうがち過ぎで、単に領民が流出することが好ましくないと思っているのかもしれない。


移住が可能になったのは最近で、さすがに移住が多すぎるのは社会不安につながりかねない。



 もちろん前世の日本でも地方から人が流出して都市部に出ていくことが多かった。ただそれは単に条件のいい仕事がないという経済的事情が多い。


露骨な悪政で流出するというのは、まったくないわけでもないが、あまりなかった。それほど地方に権限がなかったからかもしれない。


こちらの世界では領の権限が大きく、領から領への移動というのは地方から地方というよりむしろある国から国へ移住するようなものに近いと思う。





 伯爵領府とは連絡を取り合っているが、それだけに話を聞くのも見方が偏りそうなので司教座の司祭にも話を聞いてみた。


ちょっとあの司教殿とは会いたくない。話が面倒だし、お布施が必要だし、伯爵にはギフトのことを話したが、司教には話していないのも気にかかる。


そこでもう少し気軽に会える司祭と話す。


「王府は子爵の排除を希望しているのでしょうか?」

「それはなんともわかりません。王府にも2つの考え方があります」


それは聞いている。一つは現状維持であり、一つは王権を拡大しできるだけ貴族の勢力を削ぐことだ。


「現状維持派と王権拡大派ですか」

「ええ、王府には有力貴族がいて彼らは従来の貴族中心の政治を好みます。一方の王権派は大商人や有力町人らで貴族の権限を制限するために王権の拡大を望みます」


「しかし今回は伯爵が王権拡大につながりかねない子爵排除を進めていますね」

「それは仕方ないでしょう。他領にヤクザ者を入れて拉致するなどほとんど戦争を仕掛けているようなものです。武力侵攻されても文句の言えた義理ではありません」


確かにその通りだ。武力侵攻しないだけまだソフトなのかもしれない。


「なるほど。それで別の理由をつけて介入させたということですか?」

「まあそうでしょうが、また別の意味もあるのかもしれません」


「といいますと?」

「本当に領土侵犯ならあまりに大事になります。財産争いだけなら途中で妥協することもできるでしょう」


「つまり妥協が前提だと?」

「確かなことはわかりません。ただ本当に伯爵殿が子爵の排除まで求めているのか疑問だということです」


「つまり排除までは求めないと。貴族ならたとえ相手が有害な貴族でも王府が取り潰すこと自体を好まないということですか」

「ええそれは一般にはそうです。一度すれば前例となります。それが増えればますますその手段は取りやすくなります。貴族にとっては悪夢です」


他人事のように言っているが、実は教会だって貴族制力のようなものだ。


それはともかく話を聞いてみると、本当に伯爵は子爵を排除するのかどうか心もとなくなってきた。


だがあれが排除されない限り俺の平穏はない。どうしても排除してもらわないと困るのだ。





 数日して王府の役人との面会の日になった。少し肩意地を張った感じの40代くらいの中年の男とその部下なのか30代くらいの小太りの男が2人組でやってくる。


伯爵領府の政庁の一室で面会する。質問するのは主に上役とみられる年上の男だ。


「その方はクルーズンにいたときにヤクザ者に拉致されたと聞くが、それはまことか?」

「はい、その通りでございます。確かにヤクザ者に拉致されました」


「それが子爵の手の者だとその方は主張しているようだが、なぜわかったのだ?」

「はい、私を尋問し虐待したのが子爵自身だったからです」


「なぜ子爵だとわかる?」

「子爵領ではときどき子爵の似顔絵が掲げられています。それによく似ていました。また衣装は貴族の者でした。それにヤクザ者は彼を御館様と呼んでいました」


俺がそう答えると二人で顔を見合わせている。

「信じられん」

「領主自身が尋問や拷問に加わることなんてあるのでしょうか」

「いや、前例がないわけではない」

役人同士で話している。確かに貴族自身が加わるなど異常だ。ふつうは下の者に任せる。それだけ子爵が嗜虐的だったということだろう。


その後も牢での様子など細かく聞かれた。そして少し警戒すべき質問が来る。


「なんで逃れられたのか?」


確かに疑問を持つはずだ。子爵領の牢から俺のような子どもにしか見えない者が逃れられるのが不思議に思っても無理はない。


とは言えここは上手く答えないと危ない。下手に答えるとギフトのことがばれてしまう。俺のギフトのことは最小限の人間にしか伝えてはならない。


「はい、牢番を買収しました。ヤクザ者だけに金銭的な利益をちらつかせたところ、拘束を外されました」

「ふむ、なるほどな。しかしそれにしても奇妙だな」


すべて話したわけではないが、話したことは事実だ。ところで少し話が微妙になってきた。何とかして乗り切らないといけない。

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