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子爵の手下を避ける

 伯爵領府の商務部長のアンドレアン氏が子爵手下のウドフィと会談して言質を取った。俺が伯爵や司教に譲渡した株式を子爵が押収すると主張していたことについてだ。


これをもって王府に対し、貴族領同士の紛争があるとして訴え出ることになった。



 この後の手続きがどうなるのかアンドレアン氏は担当でも専門でもないため、伯爵領の家宰から説明があった。


「言質を取りましたが、この後はどうなるのですか?」

「王府に届け出て、それから調査が入る形になりますな」


「王府というとやはり王都ですよね」

「基本的にはそうですな」


 王都は遠い。水運で北に向かいその後に陸路を取るのが一番速いがそれでも20日ほどはかかる。早馬を飛ばしたとしても2週間を切ることはなさそうだ。


「そうすると往復で40日ほどかかるということですか」

「そうですな。さらに向こうでの受理にも時間がかるでしょうから調査の着手まで60日ほどはかかるかもしれませんな」


「ということは60日間はいまのままですか」

「途中の商都に王府の出先機関があるので、そこで受理してもらえればもっと早いかもしれませんな」


王都に行く途中の水運で北に向かった先に商都がある。そこまでなら水運で10日ほどで行ける。


とは言え、そこで受け取ってもらえるかどうかはわからないし、受け取ってもらうにも時間がかかる。


しばらくは子爵の影におびえないといけないらしい。


「なかなか難しいものですね」

「ご心配はわかります。ただ拉致についての警戒は騎士団の方で十分にしているのでご安心なさるよう」


「わざわざご配慮いただきありがとうございます」

「いえ、他領のヤクザ者が領民を拉致するなど当領としても大問題ですから。もう一度起こるようなことは決して許容できません」


確かにその通りだ。子爵のしたことは領土侵犯レベルのことだ。今回訴えるのも、株式の帰属のためだけではない。


それだけなら子爵領府と連絡を取りつつ、子爵領の家宰に運動すればいい。おそらく子爵領は無理筋とあきらめて伯爵の所有を認めるだろう。


だが拉致の方は証拠がなく、介入するとなれば別の理由をつけなくてはならないから、そのままでも解決する株式の所有権問題を持ち出したのだ。


そう言うわけで、しばらくこの問題については伯爵領府に預けておくしかない。だからこちらはこちらでふつうに商売の方をするしかない。




 それはいいとして、ウドフィの問題がある。俺に無理やり書かせた献上の書類を持ってきて、商会に対して財産の献上を求めている。


クルーズン領府としては書類が正当なら、認めるとしている。もちろん彼らは正当だとはつゆほども思っていないのだけれど。


その状態で商会がウドフィの要求を突っぱねれば、俺がクルーズンに帰ってきていることを子爵に知らせるようなものだ。


また俺の身を狙ってきかねない。放っておいてもどうせ子爵領の金がかかるだけだし、放置することにする。




 伯爵領府は警備レベルを上げてくれているが、向こうはどんな手を使ってくるかわからない。


子爵側に俺が帰ってきていることを知られない方がよさそうで、どのような工夫をすべきかいろいろ考える。


そこでしばらくは俺は馬車で行き来することにして、クルーズンでは外に出ないことにした。


外部の商会との折衝も、俺が外出していることにして、しばらくはマルコを中心にしてもらうことにする。


それはそれでよかったように思う。俺がいないときでも紹介流行っていけることが望ましい。


拉致されたときはシンディのリーダーシップで上手く行ったが、そういう偶然がなくても上手く行くに越したことはない。



 子爵が子飼いのヤクザだけ使って俺を狙い、子爵領府は関わっていない推測が正しければ、俺についてそこまで念の入った調査はできないと思う。


形式がまったく不備の書類でもわかる通り、まったくまともに仕事をする能力がない。行き当たりばったりの素人仕事だ。


もしかするとヤクザ者は俺が外出中との話を耳にするかもしれないが、単に商会が隠しているだけと判断する気がする。


そもそも俺がまだ子爵領の中で潜伏していると疑っているかもしれないのだ。


たまたま俺にギフトがあったから逃げられたが、そうでなければケガもあったしそうそう逃げられるものでもない。



 だが馬車で家と商会の間を行き来するだけであまりにも退屈だし息がつまる。そこで子爵領のある東側ではない西側の町に足を延ばすことにした。


さいわい俺はギフトのホールが使える。さすがに子爵の手下はクルーズンの西側までは来そうにないと思い、そちらでは平気で出歩いた。


クルーズンの南北は大河が流れていてレーヌやマルポールのような大都市もあるが、西側の方はやや山がちであまり大きな都市はない。


それでも馬車に乗って宿場町などをめぐる。特産品なども調べてクルーズンに持って行けないかも調べてみた。


子爵に狙われて避難しているときでも商売のことは忘れず、働き過ぎでブラック体質なのか、金儲けが好きなのかよくわからない。



 それはともかくもちろん毎日家に帰ってクロをモフモフしている。


あの猫も何がしたいのかよくわからない。なでられるのは嫌いではないようで期待しているようだが、この前は少しなでたらもういいとばかり歩いて離れて行った。


ところが今日は、いくらなでてもまだやってと言う顔をしている。いい加減疲れて離れると恨めしそうな顔で見る。


猫なんてそんなものだとはわかっているのだけれど。

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