アンドレアン商務部長と介入の糸口について話す
子爵に拉致され、ギフトを使って逃げてきた。いまの居住地の為政者である伯爵に、隠していたギフトのことを知らせた。
子爵を追及できないかと聞いてみたが、俺の証言と子爵麾下のウドフィの持ってきた怪しい書類だけでは難しいらしい。そこで他に介入するための口実が必要だが、心当たりがある。
「伯爵様、王府が子爵領に介入する口実に心当たりがあります」
「ほう、それはなんだ？」
「クラープ町のドナーティ商会の株式の権利についてでございます。子爵は伯爵様と司教様の保有について何か言って来たでしょうか？」
「いや、特に何も言ってきていないな。アンドレアンの話では向こうの家宰殿が我々が保有するということで納得されたとのことだったが」
「株主総会では子爵配下のウドフィが命令書を示しつつシルヴェスタから譲渡された者は財産隠しの協力者だから、その者の株式もすべて取り上げると言っておりました」
「そのようだな。アンドレアンから聞いている」
「あのことについて何か正式な決定が子爵領から通達されたのでしょうか？」
「いや、それについてはまったく聞いていないな。とりあえず家宰殿が納得したからそれで問題ないと思っていたが……」
家宰は物事がわかっているからそう判断するだろう。ただそうは言っても、それについて子爵が納得するとは限らない。
いやむしろ納得していないから今回の拉致のような暴発に至ったのだろう。ということは株式の保有について正式な決定がなされず宙ぶらりんになっている可能性は高い。
「大変に恐縮ですが、それについて明らかにしていただけないでしょうか」
「それについてはいずれそうする必要があるだろうな」
「さいわい、株主総会に子爵領を代表して出席していたウドフィ氏が現在クルーズンに滞在しております。彼に照会してはいかがでしょうか？」
「なるほどな。それでクラープ町のドナーティ商会の株式の帰属について当領と見解の相違があれば王府に入っていただくということか」
さすがに伯爵は賢明で打てば響くようだ。どこぞの馬鹿子爵とは全く異なる。もちろん子爵領だって家宰やスミス氏はわりとまともだ。
ただそうは言っても彼らは実権をふるうことができない。こうして差がついて行くとしか言いようがない。
「私の身の安全のために伯爵様のお手を煩わせて申し訳ありませんが、なにとぞよろしくお願いいたします」
「なに、子爵殿が万一わが領で拉致など行っていればそれこそ許しがたい主権の侵犯行為だ。証拠はないが良い介入の口実はできた」
「そう言っていただけると大変助かります。ウドフィへの照会をどうかよろしくお願いいたします」
「ウドフィと申す者は子爵殿の委任状を持っているわけでもなく、私自ら引見するのもことが過ぎるだろう。アンドレアンに任せるので、彼と連絡を取ってウドフィへの照会をしてもらいたい」
そんな相談がまとまり、伯爵との会見を終えた。
家に戻りアンドレアン氏と連絡をとり会見することになった。その間、街を歩くときは常にシンディと一緒で暗がりなどには近づかないことにした。
さすがに拉致事件の疑いがあったため、伯爵領としても警戒を強めてパトロールなどを行っているが、念には念を入れている
なおその間ウドフィは馬鹿みたいにクルーズンに滞在している。俺が脅された書いた財産の献上の書類をもとに、うちの商会に財産を差し出せと迫ってきたのだ。
シンディを中心にうちの役員はバカにしきって、足止めとして財産を精査するまで待つようにと言ったのを真に受けて滞在しているのだ。
どうせろくな仕事もできず役所でも持て余されているようだし、領府の金で遊び歩いているのが楽しいのだろう。
アンドレアン商務部長と会見の日が来て、また政庁に向かう。
「この度はお時間をいただきありがとうございました」
「いやずいぶん大変な目にあわれたようだ。本当によくご無事で帰ってこられました」
「はい、皆様のおかげ様で何とか生還しました。商務部長様にもご尽力いただいたそうで感謝いたします」
「いやいや、領民の保護は領府の勤め。当たり前のことですよ」
それが当たり前なのは伯爵領だからだ。子爵領なら領民など収奪するための対象でしかない。
「株主総会のときはお世話になりました。商務部長様がウドフィを泳がせてくれたおかげで、今回の子爵領のしっぽがつかめそうです」
「あれはどうせ最後はうちのものになることはわかっていたので、子爵側の出方をうかがったまでですよ」
「それにしても今回の介入の糸口となりましたこと感謝の申し上げようもありません」
「あのウドフィという者もずいぶん簡単にこちらに弱みを見せてしまって拍子抜けでした」
やはり格が違いすぎる。
「今回もまたウドフィですが……」
「あの者が何を言うか楽しみですね」
