伯爵にはクロのことはごまかしギフトを見せる
子爵に拉致され無事に逃げてきた。ただ今後の安全を考えると伯爵と共同して子爵の罪を追及しなくてはならない。
そのためにはギフトのことについても話しておかないと、今回の事件についていろいろつじつまが合わない。
そこで伯爵に対しては俺がギフト持ちであり、どこからでも移動できることを話した。それに対して伯爵からはどこに移動できるのかを聞かれる。
実はそちらの方もかなり答えにくい。クロを取り上げられたりしたら困るからだ。そこでクロのことは言わずに少し嘘を交えて話すことにした。
「それが帰るのは常に家なのです」
「ほう、そうか。他のところには行けないのか?」
「ええ、他のところに行けないかといろいろ試してみましたが、どうしてもそれはかないません」
「ギフトはよくわかっていないことが多いからな」
「はい。私としても自由に行き先がコントロールできればうれしいのですが」
それができないことはわかっている。だいたいこのギフトはクロの面倒を見るためと称して神からせしめたのだ。
あのドケチの神はクロにいいことがない限り、人になど何かくれることはない。
だからあの神より力の強い者にでも会わない限り、どこにでも行けるようなギフトをもらうことはできそうにない。
「ところでそのギフトを見せてもらえるか?」
そう言われることは想定していた。別にここまで話してしまえば特に問題はない。
確かに歩かなければならないことを見せてしまうが、まさか伯爵はあの馬鹿子爵と違い俺を拉致・拘束するようなことはないだろう。
「わかりました。それでは今から伯爵様の前から消えます。そして数分後に戻って参ります」
そう言って俺はホールの中に入りつつ、始めは足だけ残す。それもゆっくり引いてひとまず消える。
あまり待たせるのもどうかと思うので、高速でクロをなでると、すぐに戻ってまた伯爵の前に姿を現す。伯爵は目を見張っている。
「この通りでございます」
「驚いたな。確かに目の前から消えた。家に戻ったのか?」
「はい。確かに家に戻りました」
「うむ。お主の言うことに間違いはなかった。よくぞ打ち明けてくれた。こちらもできる限り協力しようぞ」
クロの存在のことは隠したまま説明することができた。帰る先は家だから間違いはない。
もし今後何かの都合でクロを移したとしても、俺の精神に変容があったことにでもすればよい。
とにかくクロが今のままでいられることが最優先だ。伯爵がクロに興味をもってどうこうしようとすればそれこそ神の呪いが降りかかる。
むしろ存在を隠して、伯爵を守っているのだ。そう言う言い訳があった方が精神衛生上いい。
それはともかく、今後のことを話さないといけない。
「ありがたき幸せに存じます。ところで大変恐縮ですが家宰様や騎士団の方々とてご内密にお願いいたします」
「うむ、それは約束だ。もちろんそうしよう」
「たぶん今後この事件の取り調べの中でつじつまの合わない場面も出てくるかと存じます」
「ああ、騎士団の方にもあまり詰めるなと言っておこう」
「お手数頂いてありがとうございます。さてそこで改めてご相談があります」
「なんだ?」
「ご存じのように私は子爵に狙われております」
「確かに疑う余地があるようだな」
残念だがまだ証拠がない。俺が子爵に対面したと言っているそれだけであり、伯爵はまだ判断できないだろう。
「確かに子爵を主犯とする証拠は私の目撃証言だけです。しかしあのウドフィの持ってきた献上の書類はきわめて怪しいものと言えましょう」
「その通りだ。あれは実に怪しい」
「今回は無事に逃げられましたが、次はいきなり始末してくるかもしれません」
「それはありうることだな。騎士団によると今回すら始末される恐れもあったとのことだ」
やはりそうか。そう考えるのが妥当だろう。ギフトがなければ今頃俺は生きていなかった可能性が高い。
「このまま放置すれば私は破滅です。どうか伯爵様のお力を持ちまして、お救いください。このままではまともに商売もできません」
「うーむ。なるほど。確かにその方の懸念はもっともじゃ。ただなにぶんにも証拠がなくてな。その方をさらったときにでもわが領に何か残してあれば介入もできたのだが……」
「介入するための口実が必要ということですか?」
「まあありていに言ってしまえばそう言うことだな」
「あの献上の書類だけでは足りないということですか?」
「あれもそうとう怪しいが、それだけで子爵領に対して王府の調査を要請するのは難しい。そうとう怪しいことは王府に伝えておくが、それだけで介入は無理だろう。もっとはっきり当領の不利益を図ったことが分かればよいのだが」
確かにいくら財産が庶民より多めとは言え、一私人の財産くらいで王府が動くのは難しそうだ。やはり伯爵領の不利益を図るくらいでないとうまくなさそうだ。
ただそれなら心当たりがないわけでもない。




