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医師に診てもらう

 子爵に捕らえられ散々痛めつけられたが、その手下にうまいことを言って足の鎖を取らせ、ギフトを使って命からがら逃げてきた。このまま死ななければ俺の勝ちだ。


 クロが飛びついてきた。それにシンディも近寄ってきた。


「どうしたの、フェリス! どこに行ってたの?」

「ああ、あの子爵に拉致されて捕らえられていたんだ」


「何てこと!」

「それより医師を呼んでくれ、けっこう痛めつけられたんだ」


「こ、こういう時は、治癒魔法を……」

そういうが、シンディは魔法が得意でない。それに被害を医師に見せて記録を取っておきたい。


「被害の記録を取りたいからとりあえず医師を呼んでくれ」

「わかったわ。すぐ呼んでくる」


シンディはとりあえずマルコを起こして、外に出て行った。ただいま夜中だから呼ばれる医師もつらいとは思う。とはいえ、医師はある程度は夜中でも呼ばれるのは織り込み済みだろうとは思う。


 マルコが起きて来て俺の顔を見て仰天していた。とりあえず子爵に拉致されていたことを話す。

「何か痛そうだけど、治癒魔法をかけようか」

「いま医師を呼んでもらっている。とりあえず被害を記録しておきたい」

「こんな時でも君は冷静だね」


確かにそうだ。ただ一つには治癒魔法という考え方に慣れていないのかもしれない。


確かに便利には使っているが、前世で物心ついたときからの習慣としては、重大な傷害は医師に診てもらっていた。



 しばらくしてシンディが医師を連れて来てくれた。夜中だというのにかなり無理に頼んでくれたらしい。俺のせいだがありがたい。


「どうしたんです?」

「ろくでもないやくざ者に捕らえられて痛めつけられてしまいまして」


「じゃあ診断書も必要ですか?」

「ええ、お願いします」


 医師はすぐに理解してくれる。つまり診断書を取って官憲に報告するためだ。すぐに彼は魔法を使って体のすみずみまで調べる。


いくつか問診して、それからいくつかメモをする。さらに痛み止めの魔法や治癒の魔法をかけ、ポーションなどもくれた。それですぐに治るわけでもないが、けっこう楽になった。


「それでは後は安静にしていてください。後々まで残るようなことはなさそうです」


 それで安心した。医師が診断書を書き上げ、謝礼を受け取り帰る。診断書については子爵を責め立てるために取ったがちょっとまずい点もある。


日付が今日の日付だ。だが俺が向こうから逃げたのも今日だ。子爵領都ゼーランからここ伯爵領都クルーズンまで4日かかる。


だからきちんと調べたらつじつまが合わないことになる。ただ一方で俺を拉致したことについては表の人間が関わっていない。


しかもあちらもいろいろな事実を表には出しにくい。だからうやむやで調査が進むような気がする。ともかく後への仕込みとして診断書を取っておく。




 医師が帰った後はシンディとマルコに質問攻めにされる。


「いままでどうしていたの?」

「商会からの帰り道に暗がりを歩いていたら、とつぜん男たちに囲まれて、そこで気を失ったんだ。気づいたら荷車の上で縛られていた」


「ギフトでは帰れなかったの?」

「今回わかったんだけど、あれって歩かないと使えないんだ。脚を縛られていたから全然歩けなくて」


「本当に心配したんだからね。だってすぐに帰って来れるはずのフェリスが帰ってこないんだもの」

「ありがとう。俺の方もギフトを使えばすぐに逃げられるって油断していたと思う」



 確かに油断していたと言えば油断していた。前世ではさすがに突然襲われて拉致されるような心配はなかった。


おやじ狩りだの北朝鮮の拉致などと言っても、身近でそういう目に遭った人はいない。確率がごくわずかなら意識に上がってくるはずもない。そんな心配をしていたら心配事が多すぎて身動きが取れなくなるからだ。



 だがいまはそれなりの規模の商会の主人だ。別に不当なことをして人を陥れているわけではない。


それでもうちに負けて財産を失った者もいる。向こうが不当な仕打ちをしたのを返り討ちにしたとしても相手は恨むに決まっている。


だから前世より格段に危険なのだ。しかもやくざ者が自由にできる幅だってずっと大きい。もしかしたら前世も戦前やもっと昔などはそうだったのかもしれない。




 考えないといけないことは2つある。まず子爵への対策だ。これはもう伯爵と司教に願い出て、報復するしかない。


さすがに平民相手とは言え拉致はやり過ぎだ。何十年も前ならそう言うこともあったらしいが、今どきそんなことは許されない。


それにもう一つ重大な問題がある。拉致を行ったのが伯爵領ということだ。領内であれば多少の横暴は許される。だが他の領で行うのはいくらなんでもまずい。おそらく王府に付されて子爵はただでは済まないだろう。



 もう一つは警備のことだ。子爵以外だって俺を恨んでいる人間はいる。こちらからすると逆恨みだとしか思わないが、向こうは俺に不当にされたと思っているかもしれない。


クラープ町の領都系商人たちも没落したし、クルーズンでも観光案内のコピペ業者やら、冷蔵流通の競合業者だのを没落に追い込んだ。


だから馬車で移動したり警備もつけたりしないといけないのかもしれない。ああ、面倒だ。なんでこんなに面倒なんだろう。猫だけ触っていられれば良かったのに。



 ところで例の財産献上の通告は商会に来ていたらしい。金を払ってなければいいと思う。もちろん俺は逃げられたのですでにほぼ勝ちだ。


とは言え、金を払っていたとしたらやはり悔しい。あとから伯爵とともに責め立て、取り返せるかもしれないが、その前に浪費される可能性も高い。


それでどう対応したか気になったが、聞かされたのはやや意外な事実だった。


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