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クルーズンでの何となく不安な日々

フェリス視点に戻ります。

 クルーズンに戻ってきた。まったく株式の争奪などなかったかのような日々が続いている。マルクに聞いてみるが子爵領府は何も言ってこないと言う。伯爵領府の商務部長のアンドレアン氏に聞いても同じだ。


「まさかもう彼らが株を取り上げようなどとは言ってこないでしょう」


 確かに常識で考えればその通りだ。子爵より強い、伯爵と司教に譲渡されている。領土での主権を主張したところでしょせんは財産争いになる。


アンドレアン氏によると貴族院で審理されるという。その際に調査が入り、子爵領の政策が王府にばれればかなりまずいことになるというのだ。


だから子爵側は露骨に争えそうにないと言う。もともと無茶苦茶な政策ばかりしていたつけだろう。



 こうやって心配事がないのはいい。心配事というのは困ったものだ。実際にそれにかかる時間は短くても、他の仕事をしているときまでその不安が頭によぎる。


しかもだいたい心配事の種というのは、あまりにもつまらないとか下らない人たちの思い込みが元になって作られたりするのだ。


今回だって子爵がかってに俺を敵視してしかも彼のものでないものをかってに彼のものだと思い込んで無茶な押収をした結果だ。気が付くとあのくだらないことを考えてしまって嫌になる。



 この前もちょっとその件でシンディと揉めてしまった。

「フェリス、大丈夫? ジラルドが取引関係の決定をして欲しいみたいなんだけど」

「わかったよ。何とかするよ」

「本当に大丈夫なの?」

「例の件でうんざりなんだ。俺がいない時くらい誰か代わってくれてもいいのに」

「わかるけど、フェリスは主人なわけだし……」

「そうなんだけどね。だけど俺が病気することだってあるし不在の時もあるからね。君だってそう言う準備をしてもいいんじゃない?」


そんな言い合いで、雰囲気が険悪になってしまう。こうなると家でも顔を突き合わせるのはちょっと気まずい。もしかすると仕事も家も同じ場所にいるのはちょっとまずい気もする。



 食事を終えるとすぐに自室に引きこもる。あとはクロを引っ張り出す。


ただクロの方もいつおと反応が違う。もしかしたら俺の方の様子が違うのかもしれないと気づく。


それでも一緒に寝てくれるのはいい。猫は寝ているだけでこちらの嫌なことをその場だけは忘れさせてくれる。


あんなこと気にしなくていいとわからせてくれる。いやたぶん一緒にいることは偉大なことなんだろう。


それに人だと一緒にいても、相手が何を考えているかと思い悩んで気疲れするが、猫はたぶん自分の幸せしか考えていない。


膝の上に乗ったり、ベッドに寝てしても平気で足の間に寝てこちらに気を使わせたりしている。


猫だとこちらが一方的に気を使っても嫌な気分でもない。これが人間相手だとちっとも優しくなれないのはなぜだろう。よくよく考えると、神さえもクロ相手には下僕になり果てている。



 また伯爵領府の方では商務部長のアンドレアン氏が株式制度の導入についていろいろと聞いてくる。


ある程度は前世の知識とクラープ町での契約内容や経験から答える。ただいろいろ詳細について聞かれるとわからないことも多い。


だいたい前世で株主関係の実務をしていたわけでもない。それに人は金がからむと、いや絡まなくてもそうだが絡むととくに信じがたい要求をしてくる者もいる。


だから詳細を詰めておきたいようだ。そうは言ってもそこまでのことはまだドナーティ商会では起きていない。あえていえばウドフィの介入はその1つだ。


たぶん前世でもとんでもない事件がいろいろ起こって細かい規定や慣習があったのだろうとは思う。


そう言うことを聞いてくるアンドレアン氏の質問に対応するのも面倒と言えば面倒だが、気晴らしになっていい部分もある。



 クラープ町の方からは何も新しい事態はない。俺のすぐに移動ができるギフトのホールは一カ所としかつなげられない。


別の場所とつなぎたければ実際にそこに馬車や足で行かなければならない。その際には元の場所とのつながりは切れてしまう。だからクラープ町の情勢が不安なうちは他とつなげることはできない。


マルクともしょっちゅう会って話すが、領府の方は何も言ってこないと言う。こういう生殺しに近い状態は面倒で仕方ない。


もう何もしないのか、それともまだ取り上げるつもりなのか、はっきりしてくれればいい。不安が続く状態ではとにかく仕事がはかどらなくなる。こんな調子だから子爵領は商業が全く栄えないのだろう。



 そうして数週間が過ぎ、何となく不安ながらも、だんだん新たな日常の方に意識が向きつつあった。


そういうときだった。夕方に一人で人気がないところを歩いていると、とつぜん3人くらいの男に囲まれる。


とっさに逃げないとと思ったが、次の瞬間にはとびかかられてしまう。そして俺は気を失った。

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