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冒険事始その後(下)

 テントを張り終わって焚火の近くに座りとりとめのない話をする。


「スコットさんはB級だと聞きました」

「元B級だな。レナルドから聞いているかもしれないが、大けがしてな。今は降級して、危ない仕事は受けていない」


実績と実技試験で昇級するところ、実績が足りないと降級もあるそうだ。それは冒険者の級により引き受けられる依頼が変わってくるのだから仕方ない。


もちろん冒険者の能力は知識や感覚や経験にもよるため身体能力だけで降級とはならない。

ただスコットさんの場合はけがをしたときに自己申告で降級したとのことだった。


「B級にはなかなかなれないんじゃないですか」

「B級はそれなりにいるよ」

「1割くらいしかなれないって聞きました」

「ああ、それくらいだったかな」

「A級も間近だったとか」

「A級だとB級の1割くらいしかなれないから難しかったかな。ありゃバケモノだ」

「このクラープ町にはほかに冒険者はいないんですか?」

「活動している冒険者はいないよ。このクラープ町じゃ冒険者の仕事はほとんどないからな」




 ロレンス司祭相手だとお互い丁寧語を使うが、スコットはそれがあまり好みでないようだった。


年長者だと思って丁寧語を使っていると

「そんなのは冒険者の話し方じゃない」

と言って、言い直させる。貴族相手にも同じ調子で話すらしい。相手に合わせて話すようにしよう。




「あ、そうだ。荷物がたくさんあるときに、小さいのにたくさん詰め込めたり軽くなるような魔法のかばんはないの?」


さっそく砕けた話し方で、転生系でよくあるマジックバッグはないものかと聞いてみる。


「そういうのがあるといいが、見たことも聞いたこともないな」


俺自身いままで聞いたことがなかったが、かなり上まで行った冒険者でも知らないようだ。ということはたぶんないし、あったとしてもめったに手に入らないのだろう。


それは必ずしも残念ではない。俺のギフトはマジックバッグ代わりに使えるので、他人より優位に立てると言える。




 夜も更けてきてそろそろ眠くなってくる。


「この辺りは危険な魔物や危険な野獣が出ないからいいが、出るところなら交代で寝ずの番が必要になるからな」

うげぇ、聞いただけで嫌になる。やはりその場合はチートで帰らないといけないな。




 テントは俺とシンディの組、スコットとマルコの組に分かれた。まさか8歳で何かするわけでもない。ただ横になったときにときどき足が当たったりするのにドキドキするくらいだ。


とりとめのない話をして話が尽きたころ、俺はチートで教会に戻った。別にホームシックでもなければ1人だけ何か食べたいわけでもない。


ただ単にクロに会いたかっただけだ。わざわざ帰ってきたけれど、興味なさそうに触りたいなら勝手に触れとばかりにしている。


クロの好きな耳の付け根や首元や口の端などをかいて、そろそろよいというところでテントに戻って寝ることにした。





 朝起きて、火をおこし山菜入りのお焼きを食べる。それからきょうは渓流に行ってつかみ取りだ。


川の中に入るのでズボンは脱いでパンツ1枚になる。俺とマルコはともかくシンディも平気で脱いでいる。


少しは恥じらおうよとこっちの方がドキドキする。気を取り直して、つかみ取りのような形で魚を探して取りはじめた。


石を積んで水たまりを作り、そこに魚を入れる。それぞれ食べる分だけ取ると、あとは水遊びだ。


いい感じの時間になり、また絞めないといけないが、今度は昨日よりスムーズにできる。


首のエラあたりにナイフを入れて動かなくしてから、串を通して焼いて食べた。




 午後はロープの縛り方の講習会となった。偶然ではほどけず、ほどこうとしたら楽にほどけるような固結びでない結び方が理想である。


2つのロープをつないだり、木にロープをかけたり、人を縛ったりなど、スコットの手本をまねて3人とも練習する。


マルコはこれも結び方の部分を中心に絵入りのメモを取っていた。何かちょっと危ないが、実際にお互いに縛りあってほどこうとしてもほどけないのを体験する。


「これでどう? 動けなくなった」


シンディはこちらを後ろ手にしてぐいぐい引っ張って少し痛いくらいに縛る。じたばたしても動きが取れない。


それを確認した後、ほどいてもらい逆に縛る。まだ男の子と大して変わらない体つきだが、意識してしまいうまく縛れない。


「弱っちいわね」


そんなこと言われても、と思う。スコットの方は何か困ったような顔で見ている。


俺の希望で……、と言ってもこういうことを考えてというわけではなくて、前に脅してきたワルスみたいに悪人を縛るための講習なんだけど、変なことになってしまった。たどたどしく何とかやり遂げる。


「いちおうこれで動かないみたいね。だけど悪人相手にこれじゃあねえ」


わかっています、わかっています。わかっていないのは、あなたですって……、とは言えなかった。





 そのあとは岩場、と言っても大人の背丈2人分くらいの岩場で、ロッククライミングを行った。くさびを打ってロープを通し落ちないようにしながら登っていく。


別にロープなしでも登れるのだが、もっと大がかりな岩場で落ちないようにするための訓練だ。


そういえば日本で子猫がこれくらいの岩場をかけあがっていたことがあったなと思い出す。クロもここに来たらしたがるかな。それともあれはおうちでゆっくりしている方がいいかな。




 いい感じに日が傾きかけて、コースが終わりになる。荷物をまとめて4人で村中の方に歩いていき、さいごにスコットにあいさつする。


「2日間ありがとうございました」

「本当に楽しかったぁ」

「かなりいろいろ勉強になりました」

「今回教えたのは基礎の基礎だ。他にもいろいろ技術はあるが、それらを組み合わせて、全く新しい価値を見つけるのが冒険者なんだ。

ぜひともいい冒険をしてくれよな」


あとは手を振って、それぞれ家に向かう。教会に帰ってロレンスに話すと、興味深そうに聞いてくれる。


せっかくだから書き留めておきなさいと言われ、ノートに書いているとクロが来る。


ふだんは近づいて行っても逃げていくこともあるのに、仕事をしていると邪魔しに来て、鼻で腕をつついてきた。


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