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45. セレル村に立ち寄る

 ずっと懸案だったクラープ町の俺の持ち株が子爵に取り上げられた件は、家宰が譲渡先の伯爵には敵わないと判断したらしい。


ただまだ決定ではない。この領は、というより領主とその取り巻きはとにかく非常識だから何をしでかすかわからない。



 伯爵の部下のアンドレアン氏は子爵領都ゼーランで家宰と面会する予定だったが、それがこちらで実現してしまったらしい。


ただそれでもゼーランを見ておきたいとのことで、こちらで別れることにする。司教府付き司祭もクラープ町や周りの村を見て回るとのことだ。



 俺の方は久々にセレル村に帰ってみることにした。まずは教会に行って育ての親のロレンスに会う。


「お久しぶりです」

「よく帰ってきました。今日は何かこちらで用事でも?」


「ええ、クラープ町のドナーティ商会でごたごたがありまして、そちらの件で来ていました」

「えっ? それは大丈夫なんですか? マルクとはときどき会いますが、何か心配事でもあるのでしょうか?」


「いえ、事業の方は順調なのですが、領主が目の敵にしていろいろ嫌がらせをしています」

「それはまた困ったものですね。まずいことになりそうなのですか?」


「ええ、これまでも何度も嫌がらせをされて全部跳ね返してきました。クルーズンの伯爵様の部下の方に助けていただいて、今回も何とかなりそうです」


本当に何とかなったかどうかはわからない。アンドレアン氏は大丈夫と言ったが、それは伯爵がらみだけだろう。


たぶん向こうには手出しはできない。だがそれだけに俺にはさらに圧力をかけてくる可能性は高い。


全部跳ね返してきたのはその通りだが、だんだんエスカレートしている。よほど面白くないのだろうが、そもそも向こうのやることが間違いだらけだからだ。


旧種の貴族で領民など自分の思い通りにしていいと思っていそうだ。ちょっとこのままだとどこかで破綻が来るかもしれない。


まさかいきなり暗殺というのはないと思いたいが、本当にあの馬鹿どもは何をしでかすかわからない。


「伯爵様ともやりとりがあるのですか」

「ええ、伯爵様とも司教様とも交流があります」


「そういえば司教座に行ったときにいろいろあなたのことを聞かれましたね」

「司教様には色々助けていただいています」


「そうですか。なかなか難しいお方でしょう」


やっぱりロレンスもそう思っているのか。ロレンスがそこまで言うのは俺相手という安心感もあるだろうけど、たぶん本当に司教が面倒な人なんだろう。


もちろん子爵のようなろくでなしともやり合わなくてはならないとなると面倒な人間でないとやっていけないとは思う。



 ロレンスはクロを触りたいと言うのでギフトでクルーズンの俺の家に連れていく。他に人はいない。神はいるが、ロレンスには見えない。


俺だけセレル村に帰って他の人たちに会うことにする。




 食堂の仔鹿亭ではエミリがクルーズンの食品製造現場で活躍していることを彼女の両親に話す。町はずれでロザリンドとロッコとはブドウの出来について話す。ワインづくりのアンナはいまは留学中だ。



 それからシンディの父親のレナルドと話す。剣術師範だ。俺についていえば相変わらずシンディには道場に来いと言われているが、最近ご無沙汰気味だ。


「お久しぶりです、レナルドさん」

「おう、クルーズンの大商人のシルヴェスタ氏だったな」


「いや、フェリスでいいですよ」

「ははは、でも活躍しているそうじゃないか」


「ええ、おかげさまで」

「シンディは元気でやっていけているか?」


商会で活躍しているかというとちょっと他のメンバーに水をあけられて苦しいのだが、間違いなく元気にはしている。


「ええ、元気にしていますよ。体力が有り余っているみたいで」

「まあ、それがあの子の取り柄だからな。商売にはあまり向かないかもしれないけど、あの子のいいところを見つけてやってくれ」


やはりレナルドは見るところは見ているようだ。彼女があまり商売向きでないことをわかっている。


「連れて来ましょうか?」

「まあいい、修行中は親の顔なんか見ないものだ」


そうか、レナルドやシンディにとっては修業のようなものなのか。しばらく話して辞去する。


「じゃあ、また何かあったら伺います」

「ああ、いつでも来てくれ」



 あとは前に俺を脅したワルス改めヨシヤ君にたまたまあったり、俺が整備した郵便の事務所を見たりする。


一通り村を見て帰ると、ロレンスがクロを抱きかかえて座っている。それをあまり愉快でなさそうに神が見ている。そこでロレンスに気づかれないように神と念話で話す。


「なんかあったの?」

「この男がクロ様を独り占めするのじゃ」


「この男って、だれか覚えていないの?」

「はて、誰じゃったかな?」


「俺の育て親のロレンスだよ。あんたの宗教の司祭だ。あんたが俺を彼に預けたんだろ」

「ああ、そうじゃったな」

忘れていたのかい。相変わらずクロのこと以外は興味がないらしい。


そんなしょうもないことはさておいて、しばらくロレンスとも話していたが、ロレンスも向こうで仕事があるとかで帰ることになった。もちろんギフトで送っていく。なんとも平和だ。


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