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(家宰)ウドフィの無茶を止める

 私は子爵領の家宰のイグナシオ。先日、クルーズン伯爵領の商務部長アンドレアン氏より信書を受けた。なんでもクラープ町で仕事があり、ゼーランにも来るという。


商務部長と言えばかなりの重職だ。ましてこう言っては何だが、領としてはあちらの方がはるかに広く経済力もずっと大きい。


ウドフィは戦争などと抜かしていたが、そんなことをすればあっという間に蹂躙される。もっともそうなる前に王府に介入されるだけだが。


クラープ町で仕事というのが何か不安になり、私自身クラープ町に向かうことにする。ゼーランでの面会日の3日前にたどり着けばよいだろう。そう言う心づもりだった。




 クラープ町の役所で係の者と話などしていると、ひどくやかましい声がする。よくよく耳を澄ませてみると聞きなれた声だ。


何でこんなところまで来て、あの阿呆のウドフィの声を聴かなければならないのかと思う。すぐに収まるかと思ったがなかなか収まらない。


しかもスミスがウドフィを何とかしてくれないかと呼びに来る。なんでも逮捕したい者がいるから手勢を出せとのことらしい。またずいぶん穏やかでない。


アンドレアン氏と会う準備もあったのだが、仕方なくウドフィの相手をする。


「何をしておるのだ?」

「あ、これは家宰殿」


最近は御館様に気に入られて私と対立することが多いが、あくまで彼の方が格下だ。何をしているのか問いただす。


「どうしたというのだ?」

「そ、それがクルーズンの役人の某というのがやってきて、当領の商業政策に容喙しようとしているのでひっとらえようと」


ウドフィに商業政策なんてものがあったのだろうか。それに容喙とはずいぶん穏やかではないが、具体的にはどういうことなのだろうか。


「具体的に何があったのか話せ」

「はあ。例のドナーティ商会の株主総会に行って、御館様の召し上げたシルヴェスタの株により、役員の選任などを進めようとしたところ邪魔が入りました」


「ほう、どんな邪魔だ?」

「クルーズンの役人の某というのが御館様の召し上げた株はクルーズン伯爵のものだというのです」


それはまた穏やかでない。御館様と伯爵殿が正面からぶつかるというのは当領に取ってはかなりうまくない。


「なんでそんなことになったのだ?」

「そ、それが、何でもシルヴェスタが株を伯爵に売ったとのことです。そんなこと、御館様の命令で財産隠しの協力者として召し上げられるだけだというのに」


それはいくらなんでもまずい。シルヴェスタが株を売却することは想定していたがまさか伯爵相手だとは思わなかった。


実は商人相手だとしても伯爵に抗議されたら本当に押収できるかはかなり微妙だった。それが伯爵相手では全く敵わない。


「そ、それはいくらなんでもまずい。押収などできるはずもない!」

「お言葉ですが、ここは御館様、子爵様の領土。伯爵ごときが大きな顔をしていいものではないでしょう」


まったく何も法を知らないというのは幸せなことだ。貴族同士の争いになれば王府の貴族院に付されて審理される。


よほどシルヴェスタが悪徳で、伯爵がそれを知っていて財産隠しを手伝ったというなら、うちの御館様が勝てるだろうが、それとは全く異なる。


それどころか、取り巻きの商人に目をかけて、不当に商人を圧迫しているなどということが王府に知られたらいったいどうなることか。下手をすれば領がお取り潰しになる。


「わかっておるのか? 伯爵と財産争いなどになれば、伯爵は王府の貴族院に話を持って行くだろう。そうすれば今回の経緯が全て調べられる。それで勝てると思うのか?」


そう言われてようやくウドフィはまずいことに気づいたらしい。ところがさらに素っ頓狂なことを言い出した。


「伯爵と財産争いになったら兵を進めればよいではありませんか?」


まったく信じられないような馬鹿だ! ここまで馬鹿は領府には御館様くらいしかいないのではないかと思うほどの馬鹿だ。


そもそも領の力が違う。伯爵領の方が圧倒的に強力だ。騎士の数も兵器も向こうの方が圧倒的に上だろう

もし奇襲で緒戦を勝ち取ったとしてもあっという間に押し返される。しかも王府が介入して王軍までが派兵され、わが領は朝敵となりかねない。


「伯爵領にかなうと思っているのか! そもそも今回のことだけでもお前の首が飛びかねないのに、そんなことになればお前の首が胴体から離れるだけでは済まんぞ」


そう言われても、まだ気付いたのか気づいていないのかよくわからない。ただ取り巻きのモナプの方は気づいたようで、素知らぬ顔をしている。


思い付きで政策をいじり、失敗すれば素知らぬ顔で逃げる。まったく何で、こんな者が領府に出入りするのか。それもお館様の徳のなさのせいとしか言いようがない。



 そうしてウドフィを押さえているうちに、ドナーティ商会の使いの者というのが現れた。


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