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40. 原案否決とウドフィの動議

 クラープ町で領主が俺を目の敵にして株式を取り上げたと称している問題では、株主総会が続いている。領府から来たウドフィは横暴で不規則発言を繰り返している。


出席者みながウンザリしながら議事は進み、ようやく採決に移った。まずは現行の役員を継続するかどうかの議案からだ。


「それでは採決に移ります。まずは役員の選任について決を採ります。賛成の方は挙手をお願いいたします」

「反対だ!」

さっそくウドフィが反対しだした。別に反対などという必要もない。議長が挙手を求めるからその時に挙手しなければいいだけのことだ。


「賛成が半数に至りませんでしたので、原案は否決されました」

「ふん、これでようやくこの商会もまともになるな」


だからお前の演説の場ではない。


「それでは次に先ほど説明した配当の案について決を採ります。賛成の方の挙手をお願いします」

「反対だ!」


「賛成が半数に満たないため、原案は否決されました」

「ふん、商会の財産はすべて領府のものだ。他の株主などにやれるはずもない」


それもできる話ではない。たとえ解散しても平等に分けることしかできない。


その後の議案についてもウドフィはことごとく反対を続けた。しかもまるで反対するのが目的のような代物だ。


通したとしても特に領府の損にならないようなことでも反対している。たぶん何もわかっていないのだろう。けっきょく経営側が提案したすべての議案が否決される。


「ふん、これでその方らの横暴も終わりだな!」


どうしてこう芝居がかった余計なことを言いたがるのだろうか。ただこのままだとまずい。いい加減にウドフィにお前たちは株主ではないと知らせないといけない。


考えられることは2つあって、1つは否決されたマルクが暫定の経営者となってその間に領府から新たな役員選任案などが出されることだ。


もう1つはこの場でウドフィの方から新たな役員選出の動議が出されることだ。いずれにしても今のままだと領府の思い通りの経営者になってしまう。


ところがその後が続かない。ウドフィも何をしていいかわからないようだ。マルクはとりあえず議長として休憩を入れる。その間に俺やアンドレアン氏と話し合うことにする。



「ちょっとこのままだとまずいですね」

「ええ、そろそろ彼らに株主ではないと伝えないと」

「どのようにまずいのですか?」


「このままだと役員の入れ替えになってしまいます。そうなると商会も財産も彼らの思いのままです」

「正確には財産の処分には手続きや制限がありますが、彼らはそんなことは無視するでしょうね。領内の法は領主の思いのままに運用されるでしょうし、もっと上に訴えたとしても時間がかかって解決は相当先になります」

「なるほど。役員の入れ替えはどのような手続きですか?」


手続きのことが知りたいのか。確かに総会を見たいというからそれもわからないではない。結果だけを見ているウドフィとはできが違うようだ。


「2つ考えられます。1つはこのままで私が暫定的な経営者になります。その間に子爵側が新たな役員選任案を出して総会の開催を要求することです。もう1つはウドフィがこの場で役員選任の動議を出すことです」

「なるほど、動議を出すこともできるのですね」


「ええ、ただし議題の範囲内の議案でなくてはなりません。出席しない株主もいるので予告しておかないといけないのです」

「なるほど。よくわかりました」


「それで、いつウドフィたちに彼らの取り上げは無効だと通告しますか?」

「ええ、実は彼らができるだけ横暴にふるまってくれた方がいろいろ都合がいいのですが、このままだとまずいわけですね」


横暴にふるまってくれた方が都合がいいというのはどういうことだろう。貴族や政治の世界のことでよくわからない。ともかくこちらは商会のことを考えないといけない。


「ええ、商会の財産などが取り上げられてしまう可能性が高いです。そうなると商売も続けられなくなりますし、各方面にも迷惑が掛かります」

「わかりました。それでは動議が出ないならまた後日にしましょう。もし動議が出たら、その決議の前に伝えることにしましょう」


休憩が終わると、ウドフィがまた発言も求められていないのに大声を張り上げる。せめて挙手くらいはしろよと思う。

「おい、ここで緊急の動議を出すぞ!」


どうせウドフィは動議が何かも知らず、休憩中にモナプに入れ知恵されたのだろう。


「動議の内容をお話ください」


「まず役員はご領主様とワシとここにいるモナプにする。それからクラープ町での店舗の営業は領都の商会に譲渡する。それから……」

「役員の選任については議題の範囲内ですから動議を認めます。ですがその他については議題にありませんから認めません」


ウドフィはまったく考える能力がないことはわかるが、モナプの方も実はろくにわかっていないのではないかと思う。しかしちゃっかり自分の名を入れているあたりせこい。


「なぜだ! 大株主だぞ」

「何を議題とするか事前に提示されて株主は出欠を決めています。それに事前に内容の精査がなければ議案としては適切ではありません」


「まったく下らんことばかりほざきおって。まあいい、経営者になればどうにでもできる」


領主の子爵は経営者と言っても名目だけで実質はウドフィとモナプが動かすつもりなのだろう。


「本来ここでいうことではありませんが、経営者と言っても権限には制限があります。そちらをお忘れないよう」


「いちいちうるさいな。まあいい。こちらが経営者になれば済む話だ」


他の株主にも抵抗してほしいのだが、みな押し黙っている。領主の脅しが聞いているのだろう。


「それでは役員の選任の議案についての決議に移ります」


ウドフィとモナプは喜びを隠しきれない。だがここでマルクが目配をする。そしてアンドレアン氏が立ち上がった。


「ちょっとお待ちください」

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