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総会でのウドフィの横暴

 クラープ町のドナーティ商会での株主総会が続いている。領主である子爵は俺を目の敵にしている。


俺の持ち分については大半をクルーズン司教とクルーズン伯爵にいくらかをクルーズン商人たちに譲渡した。


ところが子爵領府の無能で横暴な役人のウドフィは譲渡した分も領主である子爵によって取り上げだと言っている。


ウドフィは経営者のマルクが説明しようとしても聞かず、譲渡先がそんなに力のある相手だと思っていないらしい。相手に力がなくても不当は不当だが、この時代はその辺は力関係でうやむやになることも多いようだ。



 俺は株主総会の冒頭で譲渡先は司教や伯爵で子爵では手が出せないと説明してウドフィを押さえつけたいと思っていたが、総会に出席した伯爵領府の商務部長のアンドレアン氏は子爵の役人の応対が見たいとのことだ。


しばらくは放っておくことになった。その中で総会の議事が進んでいくが、やはりウドフィは不規則発言を繰り返して会議を混乱させる。出席者はみんなうんざりしている。




 経営者で総会の議長であるマルクは議題と議案を説明する。役員は現員を留任、配当を出すなどだ。上手く行っている商会でこれまで通りに営業を続ける内容だ。


ところがまたこれにウドフィが食って掛かった。


「そんなもの全部ダメだ。役員はワシが選ぶ。経営の方もワシが主人になって好きにさせてもらう」


また不規則発言だ。完全にルール違反で摘まみだしたい。子分のモナプの方は腕組してふんぞり返っている。


親分が馬鹿丸出しのことをしているのだから、もう少し居心地悪そうにしてもよさそうなものだ。とりあえずマルクは形式的にいなす。


「後で質疑の時間はありますので、そちらでお話しください」


「何だと?」

ウドフィは声を荒げる。役人というよりチンピラみたいだ。あ、総会屋か。


「これ以上、不規則発言を続けられるようでしたら、退場いただくことになります」

マルクは強めに注意する。しかしまた馬鹿が現れる。モナプだ。


「ふん、退場させたところでまた総会を要求すればいいだけのこと。そんなことになればまた集まらなくてはならない。それでいいのか?」

モナプは丁寧な話し方をすることもあるが、立場が上だと思うと威圧的な口をきく。小物なのだろう。それだけでもうんざりしていたが、またウドフィが余計なことを言う。


「ああ、それからな街中の商売の方は別の商人に譲渡するからな」


またろくでもないことを言っている。まず議題の提出は事前にすることになっている。それは総会の前に文書で送付している。そんなものも読んでいないのか。


それから街中の商売の方は十分に利益を上げている。基本的には総会は株主の利益を図る場所だ。


ウドフィはおそらく領主子爵の取り巻きの商人に渡すつもりなのだろうが、それで株主の不利益になるなら受け入れられるはずもない


「議題は事前に提出いただくことになっています。お受けできません」

マルクは形式通りに処理するしかない。


「あれもだめ、これもだめとは何と下らない会議だ」


いや、ふつうの会議はそうだろう。前に役所のまともな役人のスミス氏にウドフィのことをこぼされたことがあるが、役所でもトンチンカンなことをしているとしか思えない。


だいたい思い付きで経営方針を左右したがるウドフィにとって意義のある会議をしたら、他のメンバーにとってはまったくくだらないものにしかなりそうにない。


「だいたいなんでお前がルールを決めるのだ?」

「いえ、会議の進め方は商会設立時とその後の総会で決めてまいりました。それに従っているだけです」


設立時と言っても実は元に商会があって株式制度を導入して組織を作り変えたときだ。その後にいろいろ修正を加えている。


「だったら、ワシからその方法の変更を提案する」

「そもそも議題の提出は事前ですし、今回変更となったとしても次回の会議からの適用となります」


「まったく、ああいえばこういう。もっとまともな対応ができないのか」


ウドフィの言うことが無茶苦茶だからダメというしかないだけだ。基本的にウドフィがこちらに勝手な言い分を聞かせればいいと思っているからこうなる。


まさかウドフィだって上役相手にそれはしないだろう。ともかくその辺で収まったのでマルクが議事を進める。



 議案の説明が終わり、質疑応答に入る。ところが相変わらず、ウドフィとモナプがトンチンカンな質問をしたり意見を述べるだけだ。


意味もよくわからない。いや身勝手に他の株主を差し置いて自分だけ何かもらおうという意図だけはわかるのだが、意味は不明だ。


「商会の財産を全部、領主様のものにできないのか」

「議題は事前に提出いただくことになっておりますのでできません」


「では終わってすぐにまた新しい総会を開くように要求すればいいのだな?」

「いえ、商会を清算したとしても株主に平等に資産を配分することしかできません」


「ワシの言うことはご領主様のご意向だぞ」

「いまはそれを話す場所ではありませんし、巡回裁判所で王国法に基づいて処理されるでしょう」


「何だと!」



 その後も全部役員を入れ替えられないのかとか、商会のルールである定款や王国法を読んだほうがいいことを聞いてくる。


さすがにそろそろ、お前たちは本当の株主ではないと言い渡せないかとクルーズン市の商務部長のアンドレアン氏の方を見るが、楽しそうに眺めているだけだ。


最後まで事実を言わないつもりだろうか。そんなことになり、商会の清算などになると困る。だいいちクルーズン市にとってもよくないはずだ。マルクの方も説明はしているがかなり困り果てている。


「いえ、それは無理です」「そもそもできません」「規定を読んでから発言してください」「他の方はいませんか?」

そんな意味のない回答ばかりだ。いや意味のない質問だから意味のない回答をするしかない。


「さっきからできないばかりで、何を言えばいいんだ!」

ウドフィが激高する。他の出席者は震えあがっている。


「なに、採決で全部反対して、役員入れ替えの動議を出せばよいのですよ」

モナプがウドフィにアドバイスする。相変わらず身勝手な内容だが、いちおう形式は整っている。それでウドフィはおとなしくなった。

議事が進むことについてはありがたいが、そんなことをされたら商会は持たない。


そうして採決に移ることになった。



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