株主総会が始まる
クラープ町のドナーティ商会で領主が俺の持ち株を取り上げたと称している。
そこで領府が株主総会の開催を要求し、他の株主にも手を回してとうとう総会の開催日になってしまった。
総会はドナーティ商会の社屋で開く。日本の大企業と違い株主も何十人もいるわけでもない。商会の会議室で十分に行うことができるし、従来からそうしてきた。
俺も出たいのだがもし出ると、子爵領府の官憲が身柄拘束してくる可能性がある。陰から見ているほかなさそうだ。
隣の部屋に隠れて様子をうかがう。マルクにカテリーナにパストーリ氏にクラープ町の商人たちなどが来ている。それからクルーズン司教府の司祭と伯爵領府の商務部長アンドレアン氏が入る。
クルーズンのシルヴェスタ商会の幹部たちも株主だが委任状を出して参加はしていない。俺ほどではないがやはり危ないからだ。
昨日あらかじめ、アンドレアン氏やマルクと打ち合わせをしておいた。
俺の方は冒頭で俺の譲渡先が司教や伯爵であることを明らかにして子爵領の役人を排除することを勧めた。
だがアンドレアン氏は最終的にはそうするにしてもとりあえず様子を見たいという。
そう言うわけでとりあえずは子爵が株主ということで総会を進めることになった。
時間ギリギリになってウドフィとモナプがやってくる。このまま来ないでくれればよかったが、そうはいかなかった。
モナプについて係りの人がどのような立場で来たのかと質問したところ、子爵の委任状を持ってきたという。
ウドフィはいちおう領府の役人だが、モナプなど見ようによっては総会屋でしかないような気がする。
総会が始まり、マルクが挨拶を始める。総株数や出席分の株数や委任状などについての説明からはじまる。
定足数に達していることが確認されたのち現在の営業の状況を説明がある。特に問題はなく、順調な業績となっている。
ウドフィはあまりよく理解できないようで、モナプにいろいろ聞いている。他が静かだけに耳障りだ。
「ふん、儲けているのか。領府で受け取る金が増えるな」
いつもながらずいぶんと横柄な言い方だ。
一通りの説明が終わり、質疑に入る。この辺は前世での順番と違うかもしれない。商人たちがいくつか質問をしてマルクが答える。
そうしているうちにウドフィも何か聞きたくなったらしい。質問をしてきた。
ところが何を言っているのかわからないのだ。仕方なくマルクがこういうことですかと聞き返している。マルクは何とか把握しようと努力しているが、その反問についてウドフィが理解できない。
だんだん付き合わされている他の株主の空気が悪くなる。モナプすら少し居心地が悪いようだ。なかなか収束せず、最後は声を荒げていた。
「お前の言うことはよくわからん。もっと素人にもわかりやすく説明しろ」
ここにいるのは出資者だ。つまり事業に金を出したものだ。それを素人扱いするのは逆に失礼だと思う。
仕方なくマルクは子どもにでも説明するように話し始めた。とは言え、やはり難しいところは出てくる。
事実に忠実であればそれは仕方ない。いい加減でもいいからわかりやすくという要求もわからないではない。ただ出資者の会議の席でそれはないだろう。
けっきょくみんなの白い目を浴びて、ウドフィはおとなしくなった。司教府の司祭や伯爵領の役人もいて見事に恥をさらしている。
それでようやく済んだかと思ったら、また馬鹿が現れた。モナプが質問をしだしたのだ。
こっちは用語は一応間違っていないのだが、いちいち質問の内容がピント外れなのだ。
そんなことを聞いても経営に何にも関係のないことばかり聞いてくる。しかも何か難しい言葉を使いたがる。
マルクは答えているが、あまり生産性のある質疑応答とも思えない。モナプはいくつも質問を続けて、みんながウンザリした頃にようやく質問が終わった。
次に議案に移る。これは経営側の提案と事前に募集していた株主提案が出される。もう配当を止める理由もないので、配当の復活を復活することが提案される。
そこでまだ質疑でもないのに、ウドフィがまた口をさしはさんできた。
「なんだと。株主に金をやるだと? 半数以上の株で決議して金はぜんぶ領主様のものになるんだ」
発言にはいくつか間違いがある。まず内容面でこの時代だって財産権というものはある。領主が勝手に取り上げていいはずはない。
それに決議したからと言って他の株主の分の配当まで取り上げられるはずもない。次に形式面で、そもそもまだ質疑の時間ではない。もちろん形式的な面で突っぱねる。
「ウドフィ様、まだ質疑の時間ではないので、後にしていただけませんか?」
「どうせ内容が決まっているのにこんなことをしても無駄だろう。商人の時は金なりではないのか? 早く結論を出してやっているのだ」
「とにかく、今は質疑の時間ではありません。後ほどお願いします」
「何の意味があるというのだ?」
無意味な言動をしているのはウドフィだが、それがわからないようだ。
「いずれ落ち着くところに落ち着きますから、どうかいまは進行を見守ってください」
「ふん、まったくくだらないことをしているな。まあ待ってやるか。どうせ御館様のものになるのだし」
落ち着くのはウドフィが大恥をかくところのつもりだが、とりあえず議事を進行することになった。




