パストーリ氏と株主総会の相談
子爵領では領主が俺の出資金を取り上げたと称して、取り上げた株で株主総会を開こうとしている。
俺がクルーズン市で株主総会の多数派工作をしている間にクラープ町の方でも動きがあった。クラープ町の商人から総会の開催要求があった。
取り上げた株について経営者のマルクがそれを認めないので、おそらく子爵筋が商人たちに圧力をかけたものと思われる。
総会を開いた商人たちにマルクが話を聞いてくれたが要領を得ないという。とにかく話したいことがあるの一点張りのようだ。
中にはすまないなどという者もいたという。たぶんウドフィに脅されたのだろう。ウドフィはマルクに対しても相当高圧的だった。
マルクはのらりくらりとかわしていたが、ああいうことをされてそんな風にかわせる人間ばかりではない。威圧に押さえつけられる者も一定割合はいるはずだ。
事情を聴きに商業ギルドのパストーリ氏を訪ねに行く。彼も株主だ。
「街の商人から総会の要求がありましたが何か事情はご存じですか?」
「ええ、それがウドフィがかなり脅しつけたようです。営業できなくしてやるとか、お前の親兄弟がどうなるか楽しみだとか、お前だけじゃないぞとかひどい言葉をかけたとか」
やはりそうか。
「まったくろくでもない役人ですね」
こんなことだからクラープ町からは人が逃げ出すのだ。しかも俺が言うのも何だが、逃げられる者からばかり逃げていく。
「本当にろくなことをしない。あんなのが上にいたら、下の者もやりにくいだろう」
実はスミス氏のように町民のために働く者もいるが、領主がろくでもないだけに上に変な者が取り立てられる。
そうするとそれに迎合する法を曲げるような者しか上に行けなくなるし、まともに町民に向き合う者はだんだんと邪険にされる。嫌になってやめてしまってよそに移る者も少なくないという。
「あんな政治では商業の方の発展も進みませんね」
「ああ、以前のパラダたちが跋扈しましたが、あれも元をたどれば領主のせいですね」
権力者に迎合して便宜を図ってもらうことをお得だと考える商人もいるが、とんだ浅知恵だ。だいたいそういうことをしているとまともな商売ができなくなる。
商人は客相手に物を売っているのだから客の意向をくみ取らなくてはならない。別に客の言うことならなんでも聞くということではない。それは対価に合わせてすればいい。
権力者の顔ばかり見ていると、それすらできなくなり権力者に迎合して客の方を見なくなる。
「ともかく総会は開かないといけないのでご協力願えますか?」
「ええ、それはもちろん。私自身も参加しますし、他の商人たちにも呼び掛けます」
ありがたいことだ。ところでここで例のクルーズンでの株式制度がスタートしそうであることを話さないといけない。
「ところで、ちょっと申し上げにくいことなんですが」
「なんでしょう?」
「実はクルーズン市の方で株式の制度が始まりそうです。向こうのご領主様に話したところ、いたく感心されて商務部長と話の席を持ちました。商務部でもずいぶん調べているようです」
「残念ですがそれは仕方ないですね。こちらでいくらでも機会はあったのに実現できなかったのですから。私も役所とも話していたのですが」
「パストーリさんはずいぶんご尽力くださいました。もう少し上に見る目があれば、もういくつも株式会社があったでしょうに」
「向こうは領主様が有能でうらやましい。クルーズン市の方はどんどん栄えて、水をあけられるばかりです」
パストーリ氏と別れ、またマルクに会う。総会の日程を決めたようだ。そうは言っても株主たちに手紙が届くまで時間がかかるので、まだもう少し先だ。
ところで手紙はうちの商会が運ぶ。なんかこれって結構危ない気がする。郵便事故と称して都合の悪い手紙を握りつぶしたらいろいろ操作できそうだ。別にそんなことはしないけど。
家に帰ってまたクロと遊ぶ。抱き上げられるのが好みのようだが、同じく人の服に爪をひっかけるのも好きなようだ。
そしてひっかけておいて抜けないと言ってじたばたしている。こっちは抱き上げて両手がふさがっているから、抜くことができないのに。降ろそうとしても爪が引っかかって下ろせない。
それで次回からはできるだけ爪をひっかけないように手を前向きにして抱き上げる。それは気に入らないのか、届かない猫パンチをしてくる。
まったく何を考えているのかわからない。やっぱり爪を切った方がいいのかもしれない。
その様子を神が見て、また非難めいたことを言う。
「クロ様に面倒をおかけおって」
そう言われても、こちらはできるだけクロのしたいようにさせている。
「仕方ないだろ、クロがひっかけるんだから」
「だまらっしゃい。その方が悪い」
何か面白くないので、神がクロに引っ掛けられたときにどうしているかを見てみる。
そうすると、やはりひっかけられているのだが、しばらくするとスッと抜けてしまう。神通力でも使っているのだろうか。
「何だよ、いまのは」
「驚いたか。如意素材だ。こちらの意のままに服の編成がいくらでも変わって爪が抜ける。ワシが作ったのじゃ」
あ、こいつは暇神だった。だが、ちょっと頭の方が抜けているのではないかと思う。
「あのさ、クロはひっかけたいんじゃないのか? それをかってに抜いたらクロは気に入らないんじゃないのか?」
「そ、そうなのか? そうでございますか? クロ様」
まったく暇神は悩みが単純でうらやましい。そんなことを思いながら、眺めていた。




