冒険事始その後(上)
冒険の実習の午後はまず地図の見方を習う。スコットはこの辺の地図を持っているようだ。
航空写真があるわけでもないし、たぶん測量技術も未熟だろうから、地図はあくまでも歩いた人が作ったものだ。
その地図もいろいろな形態がある。都市などの地図は印刷で作られているが、村あたりの地図は村長の家などに元があり、そこから手書きで写したり、木版を作って刷ったりしている。主だった地図は冒険者ギルドや都市の専門店で買えるという。
スコットの持っている地図はセレル村付近のものでいろいろと書き込みがある。
個人の書き込みのある地図は場合によっては重要情報で簡単には見せてくれないものもあるそうだ。
今回はそこまででもないので見せてもらう。
そこで地図の記号や地形の読み方などを習う。地図には間違いがあるようでスコットが修正した部分もある。
そのあたりのことについてマルコはメモを取っている。はがきくらいのサイズの紙の束を閉じて皮のカバーを付けたメモ帳だ。
スコットからは村長の家に行って入手して、いろいろ必要な情報を書き込んでおくように言われる。
シンディはそう聞くと、今にも村長の家に行きたいようだ。マルコは何をするべきかきちんと記録する方に興味が行く。
「書いておくのは結構役に立つぞ」
そうなのだ。人はすぐに忘れるし、細部の記憶が勝手に変化してしまう。だからきちんと書いておくべきなのだ。そういうわけでフェリスもメモを取っている。
野原を歩きながらいくつかの地点で足を止めて草をとる。
「この草は傷にいい。こちらは煎じて内服して咳止めにする。こちらは下痢止め。この辺りは料理に入れると肉の臭みがとれたり風味が出たりする。この辺は食べることもできる」
そんな感じに説明が加わる。
「俺はそんなに詳しくないが、薬草ばかりを集めている冒険者に聞くともっといろいろ聞けると思う」
マルコは説明を聞きつつ興味深そうに草を採取する。そして押し花にして標本を作っているようだ。さらに説明などを書き留めている。
ついでに近づかない方がいいような毒草についても説明があった。かぶれたりトゲでけがをしたりする草について注意された。
「痛っ」
マルコが茂みでひっかき傷を作った。みんなで駆け寄る。
「じゃあ、次はけがの手当てだ。けがをしたときはどうする?」
「フェリスが回復魔法を使うわね」
「フェリスは回復魔法が使えるのか。そりゃいいが、フェリスがいないときはどうする?」
「うーん、どうしようか。家に早く帰るかな」
「とりあえず血は止めるかな」
「安全なところに身を寄せるのも血を止めるのも正解だ。それからその場でできる処置をこれから教えるから覚えておくように」
スコットは水でけがを洗い、布で抑えて血止めし、バンダナで縛って仕上げ、説明を始めた。
「水で洗って布を当てて血を止める。ここで使うのは清潔な水と布でなくてはならない。それらは冒険のときは持ち歩くように」
次第に日が暮れてきて薄暗くなってくる。
「明け方や夕方は野生動物や魔物が動き回るのであまり出歩かない方がいい」
カブトムシもそうだったが、夜行性の動物は多いらしい。そういうわけで野営の準備を始める。
夕食は本当に干し肉と乾パンだった。ただ食べ比べ用に干し肉を複数種類用意してくれていて、ややしょっぱいものや甘さのあるものや辛みのあるものなどがある。
4人でそれぞれ好みが違うのも面白い。さらにそれだけじゃさみしいだろうとお焼きを作ろうということになった。
鉄板と小麦粉と油を持ってきてくれている。冒険中に変わったものを食べるのは楽しいのだが、荷物が多くなったり手間がかかるという。
調理器具や材料を持ち歩くのは馬車なら容易だがそうでないとつらい。また安全な野外なら調理もしやすいがそうでないとにおいで魔物をおびき寄せるという。
なおお焼きなのは、パンやナンやお好み焼きはイーストかふくらし粉か長芋かその類がないとうまく膨らまないからだった。
油を敷いて鉄板の上で粉を練り、表面をきれいにした後に、薄く伸ばして焼く。水で戻した干し肉とさきほど集めた山菜も入れて包んで食べる。確かにこちらの方がずっとおいしい。
「ゆるい冒険ならこういうこともできるが、きつくなってくるとそんな余裕はなくなるんだよな」
冒険でもブラックはいけない。ホワイトを確立するためにもギフトでおうち泊が必須だな。
後はテントを張る。テントは2つ。テントを張る場所についても説明がある。川べりは増水の危険があるのでダメ。崖下も落石の危険あり。軽量のポールやシートがあるわけではないのでけっこうな重量だ。
まずはスコットの手本を見た後、同じことを繰り返す。
下に布を敷き、ポールを立てる。なかなかうまく刺さらない。
上にかける布にはひもがついていて、それをポールに縛り付ける。あとはチェックしてもらう。少し手直ししてもらい形になった。




