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35.伯爵と株主総会の相談

 クラープ町で領主の子爵が俺の出資分の取り上げようとして、配下のウドフィが株主総会を要求している。


主人のマルクは断ったがいずれ開かれると思われる。俺の出資分はすでに司教や伯爵やクルーズン商人に売ったが、ウドフィはそれも取り上げだと称している。


そこで俺は売った先に事情を説明する。とは言えあらかじめそういうことはありうるとは言ってあった。司教とは話したので次は伯爵だ。




 伯爵にも手紙で知らせたところ、向こうから面会時間を設定してきた。それに合わせてこちらも向かう。


よほどの用事以外はすべてお断りするしかない。政庁に行くといつもながら機能的な執務室だ。


「わざわざお時間をいただき、大変に感謝いたします」

「忙しいときに来てもらって悪かったな」


「いえいえ、もともとはこちらが持ち込んだトラブルですから」

「まさか子爵殿がそこまでするとはな。うわさは聞いていたが、当惑した」


子爵が強硬手段に踏み切ったと伯爵が判断したのは、俺の情報だけからではなさそうだ。おそらく他にも情報筋はあったのだろう。


以前から出資取り上げのうわさは向こうの領内に流れていた。クルーズン商人あたりもキャッチしていた可能性は高い。


ただ子爵が横柄で下の者には平気で無茶をすることは知っておいてもよかったと思う。もちろんあれは伯爵にはそんな態度は示さないだろう。


というより示せないだろう。そう言ううっぷんもあるのか、下にはやたらとひどいあたりだ。


「実は商会の主人から聞いた話ですが、どうやら通告してきた担当者は威圧的で主人の話を聞かず、譲渡先が伯爵様や司教様とは知らないようなのです」

「知らぬからと言って許容できるものではない。わが領の商人の者だったとしても抗議して撤回させるほかない。ましてや私や司教殿のものだ。まったく何を考えているのか?」


伯爵はかなりおかんむりのようだ。俺から見ると予想通りでしかないのだが。とはいえ、猛抗議してくれた方がありがたい。



 常識を持っている人間は相手も常識で動くと思い込んでいることが多い。その点、俺は前世でのブラック経験が長いので非常識には慣れている。


とは言え、どんな社会にだって非常識な者はいる。ただ割合が違うのだ。ブラックだらけの社会となると、非常識なことをされてだんだんすさんでくる。


そして非常識なことをしても当たり前だと思い始める。もちろん踏みとどまる者もいるがそれが損になってしまう。


さらにそう言う非常識に耐えられない者はどんどんとその場所から逃げ出していく。そんな風にしているうちに普通の社会なら2~3%しかいない非常識が、2割3割と濃縮されて行くのだ。


「それでどのようなご対応をされるのでしょうか」

「とりあえずは何が決定されたか確認する。確認が取れれば子爵殿に正式に抗議する。貴族間の争いなので貴族院とも相談しておこう」


やはり貴族となると正式なルートがあるようだ。ということはもしかすると、司教の方も同じことをしているのかもしれない。


俺に対応方法を聞いてそれをするなどと言って、おくびにも出さなかったけれど。たぶんそれはそれ、これはこれでしているのだろう。まあ、あれはそういうお人だ。


「なるほど。貴族の方ともなると我々庶民には思いもよらない方法があるのですね」

「何かその方の考えていたことはあるか?」


「はい、実は総会を開くので、どなたか代理の方を総会に出していただけないかと」

「ああ、そのことだがな。総会には配下の者を出そう。いやちょっと考えていたことがあったのだ」


「はて、どのようなことでございましょうか?」

「前に言ってあっただろう。その方の考えた株式の制度を本領で導入したいと思っておってな。

詳しくは商務部の方で検討させるが、実際に総会というのも経験してみるのもいいかと思う。商務部の方から人を出そう」



 その後、係りの人に従い商務部に立ち寄って、商務部長アンドレアン氏とその部下の人とも話すことになった。


アンドレアン氏は40代くらいで顎ひげを蓄え、見るからに仕事のできそうな雰囲気を漂わせている。


「ご領主様よりあなたの商会の株式制度が素晴らしいと伺っております」

「ご評価いただき光栄です」


「早速ですが、詳しいお話をお聞かせください」

「私でわかることでしたら何なりと」


そう言って話し始めたが、すでにいろいろと調査をしているようで基本的なことは押さえてあった。


隣とは言え、他領でごくわずかに行われているに過ぎないというのに、それをきちんと調べ上げているのだ。


俺が話したのはまだクラープ町のドナーティ商会でも実施はしていない、日本にいたころの制度の話が中心だった。


やはりクルーズンが栄えているのはそれなりに理由がある。商人が活躍できる制度が整えられているのだ。そして早晩、ここでは株式制度が導入されそうだ。


クラープ町の商業ギルドのパストーリ氏は株式制度を高く評価して進めたがっており、氏もけっして無能ではないが、領主の子爵が無能だけに先を越されそうだ。


「不明確なところがよくわかりました。今後ともご協力お願いします」

「私で可能なら、協力させていただきます。ところで、近く開かれる総会の件ですが、ご参加いただけるでしょうか?」


「私どもでも参考になると思っております。ぜひ参加させてください」

「ご協力ありがとうございます」


総会に向けてだんだん準備も整いつつある。

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