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クルーズンの譲渡先への説明

 クラープ町のドナーティ商会への俺の出資分について、子爵がとうとう取り上げに動いた。


配下のウドフィがやってきて、商会長のマルクに取り上げを宣告する。


3か月以内に譲渡された者も、財産隠しに協力したとして、取り上げるとのことだった。



 確かに保有していた全株式を譲渡したが、そのうち3千万分だけクルーズンの商人に譲渡した。


残りの約5億についてはクルーズン司教とクルーズン伯爵に半分ずつだ。


ウドフィは譲渡先を不届き者だとかいろいろ言っていたが、自分の親分より名実ともに上の者だとわかっていないのだろう。



 とはいえ、譲渡先には知らせる必要がある。子爵の決定は司教と伯爵に対してはまさか有効にならないだろうが、商人たちには少なくとも一時的には有効になりうる。


俺から買ってくれた商人たちに不安や損害を与えるわけにはいかない。信用問題もあるし、それ以上に信頼関係もある。



 さっそくギフトのホールでクルーズンに戻る。とは言え、即日で知らせては、ギフトのホールのことがばれてしまうことになりかないので、すぐには知らせられない。


2日ほどは待ってすぐに商人たちに手紙を出す。いちおう対応策について文面だけでもわかるようにするが、必要なら口頭で説明することにする。



 その対応策は、最終的な決着がつくまでは持っていてもらうことをお願いし、またもし万一本当に取り上げとなったら、俺が補償するとの内容だ。


ウドフィは俺から譲渡された商人たちの分を取り上げると息巻いているが、おそらくクルーズン伯爵からの抗議で撤回に追い込まれると思われる。


もし換金が必要ならば、うちからごく低利で融資することも申し添える。



 それで大半の商人は納得してくれたが、ごく一部の商人は不安がって買い戻してくれと言ってくる。


ただそういうわけにもいかない。決着がつく前に俺に戻してしまうと、下手をすると子爵に完全に取り上げられる可能性がある。


説明してなだめすかす。それでも引き取って欲しいと言われることもある。


「やはり、これを持っているのは不安なんだが」

「何度もご説明したように、もし何かあれば私の方で補償します」


「それならいま買い取ってくれてもいいのではないか?」

「いえ、私の持ち株となると、子爵に取り上げられたときに後から伯爵様が抗議しても取り返しが難しくなってしまいます」


「そうは言ってもな。本当に伯爵様が抗議してくれるのか?」


少し面倒になってきたので、以前にもらった書付を見せる。


「この通り、伯爵様は私の事業を応援してくださっています。実は伯爵様は皆さんよりずっと多くの株を買い取ってくださいました。」


やや強く出たので向こうも折れてくれた。

「まあ、そう言うことなら」


あまり納得していないようだが、何とか話は収まったようだ。


もしどうしてもだめなら、ブリュール氏当たりに頼んで引き取ってもらうことも考えたが、それはそれで面倒だ。何とかかたがついてよかった。



 後はもちろん司教と伯爵にも知らせてある。ただそちらの方は特に何も言ってこない。譲渡のときに説明したし、おそらく初めから織り込み済みだということだろう。


だいたい子爵が取り上げをしてとしてもあの2人相手に勝てるとも思えない。



 ただ子爵が次にどういう手を打ってくるかだ。マルクとも打ち合わせないといけない。通告に逆らって、子爵の取り上げを無効として扱うこともありうる。いちおう配当はしばらく出さないことになっている。


つまり配当も出さなければ、株主総会にもよばないなどだ。とはいえ、そんなことをしたときに、これだけ無茶苦茶をする領主だけに、逮捕や闕所をしてきかねない。


そうなると早いうちに司教や伯爵という権威にぶつけてしまった方がいいのかもしれない。




 ここのところ、子爵対策ばかりしていてクルーズンではまともに仕事をしていない。まあ優秀な部下たちが勝手にしてくれるからいいけど。


俺がいなくてもちゃんと動いているようだ。一人欠けたくらいで組織が動かなくなるのはよくない。とはいえ、金が割とあって、しかも拡張する時期だから上手く行っているとは思う。


というわけで俺がいなくても大丈夫だ。シンディなどは「どうせクロと遊んでいるんでしょ」などと言っている。確かにその通りなのだけれど。



 そのクロは最近食卓の上に座り込んでいることが多い。外には出さないようにしているが、土足の場所でも座り込んだりしているから、あまり食卓には上がってほしくない。


もちろん猫だから言うことなど聞かいのだけれど。しかも神は甘やかし放題だ。俺が下ろそうとすると文句を言ってくる。


「何でクロ様が上にいたいというのに下ろすんだ?」

「さすがに土間を歩いている猫を食卓の上には載せられない」

「いーや、クロ様はきれいだ」

「ふつうはダメなんだ」


そんなやりとりをしつつ、クロをテーブルかどける。ただクロもおとなしくはどかない。


いやおなかの下に手を入れて、椅子のところに持って行かれるまではおとなしいが、椅子に置くと、こっちを噛みついたり引っ掻いたりしてくる。こんなに逆らうのは珍しい。



 クラープ町では子爵一派にいじめられて、クルーズンでも生暖かく見守られ、そして家でもクロと神に逆らわれる。


だけどクロにだけは具体的な暴力を受けても、むしろかわいく思えてしまう。やはり他とは全く異なる最上位の存在らしい。

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