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30. ウドフィの取り上げの通告の続き

 子爵によるクラープ町での俺の出資分の取り上げ問題で、ウドフィがドナーティ商会に来ている。応対しているのはマルクで、俺は隣の部屋から覗いている。


ウドフィは俺の出資分の取り上げを宣告してきた。とうとう来る者が来た感じだ。マルクが説明を求めるがろくにわかっていないからか、たどたどしい。


というよりも全く説明になっていない。


「とにかく取り上げだ」


そう言われてマルクは言葉を返す。

「お言葉ではございますが、ウドフィ様。シルヴェスタ氏はすでに株をすべて手放しております。取り上げは可能ではございません」


いつもならウドフィはこれで引き下がるのだが、自信満々の顔でてらてらと脂汗を光らせて反論してきた。


「あっはっは。売ったというのだろう。その方たちの策略、すでにお見通しだ。この命令書を見るがよい。シルヴェスタからここ3か月以内に株式を買った者は財産隠しに協力した不届き者としてすべて取り上げるとある」


「いえ、しかし……」


「ふん。いままでさんざんコケにしてくれたな。おとなしく取締役報酬や配当を渡しておけば失うものも少なくてすんだのにな。

お前たちが愚かな抵抗をするからこういうことになる。さんざん面倒をして、もっと金を失うとは、本当にご領主様にたてつく愚民どもの浅はかさよ」


まったくくだらない理屈だが、こういう時は生き生きと口調が滑らかになる。まともな法律用語となるとたどたどしいのに。少なかろうと何だろうと不当な金など渡すことはできない。


「愚民どもとおっしゃいますが、お買い上げいただいたのは……」


「えーい、聞く必要はない。しょせんはシルヴェスタの財産隠しの協力者に過ぎん。下衆の分際でまったく小賢しい知恵ばかり回りおって。領府をなめるな。本領ではご領主様が法である。それに逆らう者は誰であろうと容赦せん」


売った相手が司教や伯爵だとわかっていないからずいぶんと威勢がいい。わかったときにどういう顔になるか見ものだ。ふだん領民相手にこういう対応をしているのだろう。


他の貴族の財産を奪えば、貴族院に訴えられそちらでの審議になる。ウドフィの首など物理的に飛びかねないと思うのだけれど。


「別に財産隠しをしようなどということはございません」

「だまれだまれ! その方がどう考えようがシルヴェスタの財産隠しに協力していることに変わりはない。ふん、これでシルヴェスタの信用も失墜だな」


ウドフィは威勢がいいが司教や伯爵から取れるとは思えないし、クルーズンの商人たちには何かあったら俺から補償するつもりだ。


どうせ後から取り返せるだろうし、商人に売り渡した3千万くらいならお安いものだ。むしろ出した方が俺から安心して買えると信用が得られそうだ。


それより突然財産を奪う子爵の信用の方が失墜するとしか思えない。



「お言葉ではございますが、譲渡先については……」

「聞く必要はない! 商人どもはシルヴェスタに金を払って出資分を買ってみれば、シルヴェスタの落ち度で取り上げだ。これでシルヴェスタのクルーズンでの商売ももう続かないんじゃないか? まったく滑稽な話だな」


気に入らない話でも情報を少しでも手に入れておけば後での対応もできそうな物なのにどうしようもない。後で譲渡先がわかって慌てるのが目に見えるようだ。


だいたい治下にいる商人の不幸を喜ぶなんてまともな役人のすることではないだろう。


ついでに言えばこちらでの出資分を全部失ったところでクルーズンの商売は全く問題ない。



「いちおうこちらが現在の出資者のリストでございます。こちらのリストをご確認していただいたとのことでサインをいただけないでしょうか?」

「なぜそんな必要があるのだ?」


「はあ、ウドフィ様からのご通達をお知らせする先となりますので」

「ふん、そうか。では知らせておけ。誰に譲渡していようとシルヴェスタから最近譲渡されたものはすべて領府のものだからな」


マルクは司教と伯爵の名前の入った出資者リストを見せようとしたがウドフィはろくに見ずにサインをした。


サインについてはパラダたちが散々痛い目に遭ったのだが、領内では自分が無敵と思っているウドフィではそれにも思い及ばないようだ。


「いちおう命令書を書き写させていただいてもよろしいでしょうか。いえ私どもウドフィ様のように学識がなく難しい法律用語をお聞きしてもよくわかりませんので」

「そうか、そうだったな。無学のその方たちには難しかったな。ほれ、写せ」


やはりおだてると簡単に言うことを聞くようだ。マルクは人を呼んで命令書を写させ、その間にウドフィと応対する。




 書き写しも終わり、ウドフィが帰った後でマルクと愚痴を言い合う。


「一体何をしに来たんでしょうね? 何か意味のあることをしたとも思えませんが」

「決定が出たことがうれしくて、知らせに来たんじゃないか。ほら、あれのやったことは失敗続きだったから」


「こんなことしても、その後の方策がないとむしろこちらが対応してしまうだけなのに」

「こちらの悔しがる顔でも見たかったんじゃないか?」


「またそのうち何か言ってくるでしょうから、とりあえず今できることをしておきましょう」

「そうだね。しかし無駄な時間だった」


ともかくクルーズンに帰って出資者たちに知らせないといけない。


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