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ウドフィ、出資取り上げに襲来

 かつて事業をしていた子爵領で子爵に目の敵にされ、出資分を取り上げられそうになっている。


移住した先の伯爵への株式譲渡話をまとめて、マルクのところへ急ぐ。取り上げが近くありそうで伯爵相手にはかなり強引に迫ってしまった。


あわただしくクルーズンの家に帰り、クロの前からギフトのホールでクラープ町のかつてはうちの商会でいまはドナーティ商会の役員スペースに移動する。


あまりにもあわただしいからか、神が半ば呆れたような目で見ていた。あれは暇でうらやましい。




 なんとなく胸騒ぎがしていたのだが、半ばは正しかった。


「いつもとは違う時間だがどうしたんだ?」

「ええ、たったいま残りの株式について伯爵への譲渡が決まりました」


「そうか、よかった。実はこちらも伝えないといけないことがあったんだ」

「なんですか?」


「さっき手紙が来て、明日ウドフィがここに来るとのことだ。とうとう出資の取り上げが来るのかもしれない」

「間一髪でした」


ウドフィの用向きが出資取り上げとは限らないが、そうである可能性は低くない。伯爵が3日後に買い取ると言っていたが、無理やりに献上してしまったよかった。


とりあえず商会が把握している株主のリストについて、俺の残りの分を伯爵の名前に書き換えた。これで準備万端だ。




 俺の持ち株はクルーズンの商人たちに3000万分くらいを引き取ってもらった以外はおよそ半分の2億5千万ほどを司教にまた半分の2億5千万ほどを伯爵に引き取ってもらった。


ただ一つ懸念がある。子爵があまりにも愚かだということだ。俺の分を取り上げるだけでも投資しようとする商人を不安にさせて愚かなことだ。


だがもしかするとさらに愚かで俺が譲渡した先まで取り上げることも考えられる。さすがに司教や伯爵の分は取り上げるのは難しいだろうが、商人たちの分はわからない。



 クルーズンの商人たちはうちとの取引があるからというのもあるが、俺が困っているのを見て手を差し伸べてくれた。


もちろん利にさとい商人だけにそんな者は多くはなく、金額にして3千万ほどだけだったが、それでもこういうことは金額ではない。


誰もが無視するところで手を差し伸べてくれるのはうれしいことだ。だからもし子爵に取り上げられたら、約束はしていないが補償しようと思っている。



 とりあえず家に帰り、翌日に備えることにする。クルーズンの冷蔵流通はこれから発展していくというのに、あまりにもくだらないことに捉われている。


金額からすれば捨て去っても構わない程度だが、クラープ町は商会のみんなの故郷でもある。故郷が悪くなるのを黙って見過ごすわけにはいかない。最大限邪魔なしくてはならないだろう。



 翌日はいつものように隣に隠れ部屋がある応接室で応対してもらう。10時ころになってウドフィが来たとのことなので、さっそく隠れ部屋にこもる。


マルクはウドフィを迎え入れて隣の応接室で話し始める。相変わらずウドフィは居丈高のようだ。


「さて今日はご領主様からの通告をその方とその方の商会に渡しに来た」

「さようでございますか」


「その方、シルヴェスタと組んでお上に何度もたてついてきたが、今度こそは年貢の納めどきだ」

「私どもご領主様にたてつこうなどと恐れ多いことは考えたこともございません」


「ふん。口だけは何とでも言えるわ。さてここにある書状の通り、申し渡す」


そう言ってウドフィは書状を読み上げ始めた。ただ何となく口ぶりが怪しい。


読み方が何か変なのだ。本人が意味を解って読んでいるとはとうてい思えない。しかも専門用語の部分の読み方がところどころ間違っている。ふだんろくに法律関係の文言を使っていないのではないかと思う。


長々と意味不明の文言をはいた後に、ウドフィは口ぶりが滑らかになる。ふだんからこういう言葉しか使っていないのではないかと思うほどだ。


「どうだ、恐れ入ったか。その方、さんざん工作してきたが、すべて無駄になったな」

「大変に申し訳ございません。私ども無学なものでして、難しい法律の用語がわかりません。私どもでもわかるように学識あるウドフィ様からご説明いただけないでしょうか」


マルクはまともに相手にせずに当てこすりをする。ウドフィはろくに書状の内容をわかっていないとみて、嫌がらせしているのだろう。自分が無学で学識あるウドフィ様と言われればウドフィも断りにくい。


なお俺もなんとなくはわかるがよくわからない。書状を見ればまだわかるのかもしれないが、それほどウドフィの読み上げが無茶苦茶だったのだ。


たとえるなら前世で日本に来て日が浅い外国人が何とか日本語で何か言おうとしているようだった。


「ふん、そうか。その通り、ろくに法もわきまえない商人だったな。ワシが説明してやろう」

「大変ありがたいことでございます」


「つまりだな。要するに、シルヴェスタはけしからんから、出資分を取り上げるということだ」

「はあ、それはどのような形になりますでしょうか?」


「いま言った通り、とにかく取り上げだ」


どうやらウドフィは詳細をわかっていないらしい。領府もよくもこの程度の人間を出してくるものだと思う。


ただ家宰や役所のスミス氏などを見ているとたぶんそうだろうが、ウドフィが極めつけでおろかなのだろう。


つまりこんなバカな処分に積極的なのはウドフィだけなのかもしれない。


とはいっても、それに一番積極的なのが領主なのだから仕方ない。


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