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幼子の日々(下)

評価といいねありがとうございます!

反応なしだと誰も読んでくれてないかと心配でしたが、安心しました。

 俺は赤ん坊だが授乳期は過ぎているようで、大人のものではないが手とスプーンで食べる。

どうも麦を煮た粥のようなものだ。味がないのであまりおいしいとは思えないが、離乳食はこんなもののような気がする。


それ以外にタンパク質は乳製品や卵がある。ラーメンとか肉とかないのかなと40過ぎでは思ったりする。



 クロの方は麦粥以外に村人が犬に与えるような動物の内臓あたりを持ってくる。クロは最初のころおっかなびっくり爪でつついていたが、もともと野良だからか、食べるようになった。


とはいっても食べ残したり他の物をよこせと言ったりしている。古くなると見向きもしない。だがそんなに裕福なわけでもないので、ロレンス司祭はそれを食べるまではやらないと、放置している。



 ところがクロにはとんでもないタニマチがいるのだ。神がやってきて、残り物を上等のキャットフードのようなものに変えている。


一度、うまそうだったので子どもの特権で横から手を出したことがある。ただどうもダシはきいているようなのだが、塩味が足りない。


そう日本でもふつうキャットフードは猫に合わせて塩分が人のものより少ない。神は地球のキャットフード事情でも研究しているのだろうか。






 さて生きていくためには言葉を覚えたい。ところがロレンス司祭は独身である。教会の規定によるらしい。


ロレンス司祭は俺のベッドのところに来て、話しかけたりするが、それだけでは言葉を覚えるのには十分でないと思う。


なお神相手には、たぶん日本語でしかも発声器官を使わずに念話か何かで話している。猫オタでもいちおう神は神なんだと妙なところで感心する。




 言葉の習得に話を戻すと、さいわい村人が多くロレンス司祭のところに来るのでそれを聞くことにする。村人が来たとき、初めのころはできるだけそこにいたいと泣き声をあげて主張していた。


また居住スペースに置きっぱなしにされると泣いたりして、できるだけ一人で放置されないようにした。そこで初めに俺たちの入っていたゆりかごに入りホールにいる時間が長くなった。

もちろん横にはクロが一緒に寝ていた。




 村人の話は分からない。泣いていたり、暗い顔をしてたり、悩み事があるから教会に来るのだろう。もしかしたら別れ話や亭主や嫁さんへの愚痴など話しているのかもしれない。


それだとすると情操教育上はどうかと思うが、とにかく早く言葉を覚えたい。いちおうロレンス司祭はまともそうだし、たぶんまともな答えを返しているのだろう。


村人に慕われているのか、それとも村人の暇つぶしなのかは知らないが、けっこう多くの人も来ているようだ。




 初めのころはきちんと聞くようにしていたが、何もわからないとつらい。そのうち眠りはしないが、大人の意識を眠らせるように工夫してみた。


正直言えば文法を教えてくれると楽なのだが、それを要求することもできない。子どもの特権でひたすら長い時間をかけて言葉を覚えることにする。




 いくつか単語を覚えて復唱してみたりする。うまく言えていないのか、ロレンス司祭が聞き返したり、言い直したりして、言葉を教える。中にはあまり教えたくない言葉もあるようで、そのときにはどうやら、それは今はまだいいと言っているようだ。


横ではクロがなでろとばかりに頭を擦り付けている。そうするうちに少しずつ使える単語も増えて、さらには少しまとまった言葉をつかえるようになった。半分は寝ているとはいえ、一日数時間で何年もの修行しているのだ。





 クロについて困ったことが起きた。猫だけに家具や壁で爪を研ぐのである。ロレンス司祭にはクロが犬に見えているが、ふつう犬はそんなことはしない。


家の中のあちこちに傷がついたのをロレンスが見とがめた。

「神の家である教会において何たる罰当たりなことを」


横ではその神が「クロちゃん、いい仕事してますね」などと言っているのだが、ロレンスには聞こえない。


そしてロレンスはクロに首輪と縄をつけて外で飼うべきだと言い出した。さすがにそれは猫の飼い方ではない。


俺はどうしても一緒にいたいと駄々をこねるが、ロレンスにとっては預かりものである教会が大事である。


俺は仕方なく、神にクロが傷つけたところを直すように言った。どうせ暇人なんだし、それくらいしてもいいだろう。



 それ以来、神は猫が爪を研いだ後を修理するようになった。ただいくら暇人でも神は常駐しているわけではないので、爪とぎと修理にタイムラグがある。


猫が爪とぎしているのを見つけたロレンスがクロを外に出すと俺にいう。俺はあれこれと言い訳して時間を稼ぐ。


半日もおかずに神が来て直しているので、ロレンスにどこを傷つけたのかと問い直してみる。

ロレンスは自信満々でクロが爪を研いでいたところに俺を連れていくが、そこはすでに直っている。


そんなことを何度か繰り返すうちにロレンスもあきらめたようだ。




 俺は神に「あんたの敬虔な信徒をだましていいのか」と問うが、神は何事もなかったように「猫の福祉が最優先じゃ」などと言っている。


ただ神が修理した後をよくよく見ると、直っているだけでなく元よりよくなっている。それはそれで、幼児である俺にできるはずがないわけで、ロレンスが気づいたとしても悩みが増えるだけなのだろう。

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