表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
399/638

25. 伯爵と株式制度の話をする

 クラープ町の商会への出資分について子爵に取り上げられそうな株式を伯爵に引き取ってもらう交渉をしている。



 伯爵領の領主であり、30代と若年だ。それだけに司教のように一癖も二癖もある人間ではない。


とはいえ無能とは程遠いし、やや理想肌のところがあり、交渉も一筋縄ではいかないだろう。


ただうちの商業の拡大とシーフード輸入や冷蔵流通は評価してくれていて、対応を誤らなければ交渉はまとまると思われる。



 そこで一度伯爵に売って買い戻す件については何とか納得してもらった。


ただまだ買い取ってくれるとは言ってもらっていない。


「聞いたところでは出資の方法が特殊で何かややこしい話だったな」

「はい。株式という形をとっております」


「またその方のことだからずいぶん斬新なものなんだろうな」


冷蔵流通やそれを使ったシーフードの輸入の件で、期待されているらしい。確かに株式はこの世界では斬新なやり方だ。


「発想自体は出資の方法を整理したものです。例えば、商会の方針や役員は株数の多数決で決めることです。他にもありますが……」


「なんだ、申してみよ」

「商会がつぶれても出資者は株が紙切れになるだけでそれ以上の責任は負わないことにしたいのですが、そこまではまだ実現来ていないのです」


「なるほどな。商会が潰れたときに、出資した分だけしか責任を負わないで済むのは安心して出資できるな」


「はあ。ただ法律の裏付けがないとそれが実現するかどうかわかりません。いちおうクラープ町の商会の方は融資を受けるときに株主に求償を求めないことを条件につけています。

ですから商会がおかしくなっても金融業者から株主が追及されることはないのですが、ふだんの売買での一般の債権者からはわかりません」


前世の株式は会社がコケても持っている株が紙切れになるだけの制度になっていた。こちらでも出資だけならそうだが、経営に関わっていると追及されかねない。そこまで法制度が整っていないのだ。


「なるほど株を持っていると商会がおかしくなったときに金を出せと追及されるかもしれないのか」


「いちおう大きな方針を決めたり役員を決めるときに経営に携わっておりますので。とはいえ実際はさほどは関わらずそこまでは追及できないかと思います。

ただ当領のように公平なご領主様なら安心ですが、あまりにご無体なことをいう領主様だとおかしなことが起こるかもしれません」


要するに子爵は無茶苦茶だから、取り巻きの利益のためならとても通らない要求をしてきかねないと注意する。


「ということは、この株式をその方から買うと、商会がおかしくなったときに私も責任を追及されかねないということだな」


「はい、その通りです。ただそちらについては、もしそうなったらうちで補償します。それはこの売買に関する契約で条項を入れてあります。ですからその不安はありません。

ただクラープ町のその商会は十分に将来性のある経営をして資産も増え、そんな条項がなくても子爵様がよほど無茶をしない限り経営がおかしくなることはありません」


「そうか、ところでそんなこちらに都合の良い契約をしてもよいのか」

「領主様にはご無理をお願いしていますし、だいいち司教様にも同じ条件を出しております」


そういうと、伯爵はふと笑みをこぼす。


「あの方もなかなか要求が多いからな。『信者の皆様からお預かりした大切な浄財をお守りしなければなりません』などと言ったのではないか?」


伯爵が司教の口ぶりをまねる。一言一句同じではないが、ほとんど似たようなことを言っていた。つい吹き出してしまう。


「はっ、はい。ほぼそのようなことをおっしゃっておられました」


「ふっ、そうだろうな。ともかくその条件なら、こちらで引き受けるのに一つ障害はなくなるな」


冗談をさしはさんだが、あくまで慎重な物言いだ。一つ障害がなくなるということはまだあるということだろう。いちおう前進したが、まだ何かチェックしたいというところか。


一つ一つ疑問点をつぶしていくようだ。どうもメモを見ているようで、事前に部下と質問を作っていたのかもしれない。出たとこ勝負の直感で物事を決めるトップではない。


「そう言っていただけると、大変ありがたく存じます」


「ちょっと話はずれるがよいか?」

「ええ、もちろん私で対応できることでしたら」


「その株式の制度とやらを当領で検討してみないか?」

「と、申しますと?」


「先ほどその方の言によると法制度の裏付けが必要ということだったな。だったら当領で実現できないのか」

「もちろん可能ならそうしていただけると、私にとっても、商業の発展にとっても大変ありがたいところです」


「それならその方が法務部の方と話をしてもらえるか」

「わかりました。ぜひ実現したいと存じます」


正直言うと面倒なのだが、ここは断れない。まだ課題が片付いていないのに、また課題を増やされてしまった。やれやれ。とはいえ、将来的には必要な制度だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ