20. 株式を担保に出す相談
子爵領で領主が俺の出資分を取り上げようとしている。そこで出資分である株式を売り払ってしまうことにした。
ところが子爵ともめていることや株式という新しい形態のため、引き取り手に乏しい。数億分あるのに3000万あまりしか売れていない。
そこで子爵より強い司教や伯爵に引き取ってもらうことを考えた。だが彼ら相手となると、いまの実際の価値より低い額面でしか引き取ってもらえそうにない。
そこでアーデルベルトが株式を担保に出すことを提案してきた。
「担保って質だよね」
担保というのはつまりお金を借りるときなどに借主が貸主に高価なものを預けておいて、借主が返せない場合は貸主が貸金の代わりにその高価なものをもらう仕組みだ。
質も担保で質屋などはお金を借りたい人が時計などを質屋に預けて金を借り、期限までに利子を付けてお金を返せれば時計を取り返せるが、返せないと時計は質屋のものになる。
「ええ、そうです」
「質でどうすればいいのでしょう」
「司教様や伯爵様からお金を借りて、担保に株式を差し出したらよいでしょう。まさか子爵が取り上げようとしても司教様や伯爵様の質になっているものは取り上げられますまい」
なるほど。さすがに老練の商人だけあって上手いことを考える。だけど何かまずいことがある気がする。
「よさそうだけど、ちょっと何か気になるところがあるから考えてみるよ」
そう言ってとりあえず会議を終える。それからしばらく商売のことをしていたが、ようやくわかってアーデルベルトのところに向かう。
「さっき気になっていた件がわかった。株なんだけど法律的には出資金になっている。だからマルクが店主の商会の記録で貸主が俺の名前になっている。
そこに子爵が子爵の名前に書き換えろと強要して来たら、裁判はともかく対抗できないと思う。これだと株券を司教と伯爵にあずけていても紙切れに過ぎないよ」
「なるほど。それなら商人がよく使う手があります」
「どうするの?」
「はい。司教様や領主様に譲渡してしまうのです。それなら向こうの商会の記録でも貸主は司教様や領主様の名前になります」
「それだと、前に言った値段が安い点がうまくないんだよなあ」
「ええ、それも心得ています。そこで、買い戻しの特約を付けるのです」
「買戻しの特約?」
「はい、商人が担保を取るのによく使う手です。売っておいて、契約で期限以内なら買い戻せるとの特約をつけておきます。もちろん利子に当たる物も取り決めておきます」
なるほど。利子が発生するのは仕方ないだろう。俺が売って手にした金を、ギルドに預けたり人に貸したり商売をしたりすれば利益が出る。お金を預かっているということは利子の分は払うほかない。
よくよく考えてみるとこれは上手い手に見えてきた。単に株券を司教や伯爵に預けただけでは子爵がドナーティ商会の帳簿を見て俺の出資分を取り上げるだろう。
子爵とウドフィはバカだが、領府はバカばっかりというわけでもない。株式についても理解している者がいるかもしれない。
株式には議決権がある。これは出資のときに法律的な制度がなかったので出資者の皆で契約としてつくったもので、株式の多数決で商会の方針を決めたり、取締役を選任する。
株の所有権が移転したときは、後の持ち主は前の持ち主の契約内容を引き継ぐので、議決に参加できるようになる。
もし仮にでも領主が取り上げで俺の株を握ったら、俺の株は5割近くあるので、他の株主を1人2人脅したりすれば議決権が5割超になって商会を左右しかねない。
その辺は前世の経済小説にある株主総会の委任状争奪合戦になりそうだ。
あの商会は儲かっているし町のためにもなっているが、領主はそんなことには興味がない。とにかくお仲間の利益しか考えていないのだ。
5割超では解散まではできないが、取締役を何人も送り込み、代表権も取って、どんどん資産を処分していくことは十分考えられる。
それでまた裁判で領主より上の王国裁判所まで持って行って勝ったとしても、その前に資産を処分することは十分ありうる。
だけど、もし出資者が司教や領主になっていたら、子爵はとても手が出せない。
わかったとたんに血相を変えるだろう。商会には一切手出しができず、すごすごと逃げるしかなくなる。裁判だの面倒なことはしなくて済む。
「その方法ならいけそうだよ」
「そうですか、それならよかった」
ただいろいろ考えないといけないことはある。
「いろいろ細かいことは決めないといけないね」
「ええ、利子のことも決めないといけません。また配当も出る可能性がありますから、配当と合わせていくらにするとかでしょうか」
それに不安なこともある。譲渡した株式で彼らが議決権を行使して、クラープ町の不利益にならないかだ。
「利子のことはそうするとして、あの2人が議決権を行使するかのこともある」
「そうですね。子爵のように無茶なことはしないでしょうが、自らの利益になるなら何かするかもしれません」
「でも半分ずつにすれば25%弱ずつだからあまりめったなこともできないような。あの通りの仲だし」
「あのお2人は対立しているように見えて、損得勘定が合えば協力しますよ」
確かにそうだ。おかしな自慢合戦はしているが、どちらも子爵のような無能ではない。
「どうしたらいい?」
「それはよくお願いするしかないでしょう。クラープ町と商売を続けることが長い目で見て司教様にも伯爵様にも利益になることを納得していただくくらいしか」
なるほど。いちおう問題解決の道筋は見えてきたが、また面倒になった。譲渡して買戻し特約を付けて、利子のことも考えて、さらに議決権の行使にも注文を付けないといけない。
一部は献上するし、利子の部分でそれなりに色を付けるしかないだろう。一難去ってまた一難だ。
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