マルクと撤退の相談
クラープ町で領主が俺の出資金を狙っている話をパストーリ氏から聞かされた。予想はしていたが来る者が来た感じだ。
シルヴェスタ・ドナーティ合同商会の社屋に戻り、マルクと相談する。ふだん俺はクルーズンの家に住んでいて、合同商会の社屋にギフトのホールで来ている。
だからクラープ町での拠点は合同商会になる。
この辺はクラープ町の情報が得やすくて助かる。クルーズンにいたままなら、パストーリ氏は情報をくれたかどうかわからない。
顔を合わせていると出てくる類の情報もある。だいたい手紙も高いので、あやふやな情報だと出すことをとどまることも多いと思われる。
直接やり取りしていると意思決定も速くなる。
とはいえ、冷蔵流通関係でレーヌやマルポールにその力を使いたいということもある。俺のギフトはクロのいるところと1カ所としか行き来できない。
そろそろこちらを手放して、もっと未来のある所に行きたい。
「パストーリ氏から、領府が出資金を狙っているとの話を聞きました」
「まあ、来るだろうとは思っていたが、やはり来たか」
「ええ」
そこでうっかり失笑してしまう。昔々前世の日本でインベーダーゲームというシューティングゲームが大流行していた。
リアルタイムでは知らないが、動きが単調で読みやすい人をインベーダーみたいと上の年代の人が馬鹿にしていた。
領主とかウドフィとかそういう意味でも侵略者という意味でもインベーダーだと思う。
そんなことをマルクに言えるはずもない。
「なんかあったの?」
「いや、本当に動きが単純だなあと思って」
「確かにな」
「とはいえ対策は考えないといけません。パストーリ氏も私が手を引くのをやむを得ないと言ってくれました」
「まあそうだろうね。こっちとしては残念だが仕方ないね」
「ええ、持っていても、領主に取り上げられるだけですから」
「売るのは仕方ないとして、2つ問題がある。まずクラープ町の商人にも断っておかないといけない。それから売り先だ」
「クラープ町の商人の方にはちゃんと説明します。パストーリさんも助けてくれそうですし。
多分あの調子だと、もう領府の取り上げ方針は商人の方にも漏れているんじゃないですかね」
「漏れているかもしれないな。それで表向き手を引くのは仕方ないけど、商売の方は協力してほしい」
「ええ、それはそのつもりです。ただ領府の方がまた何かして来たらどこまでできるかわかりませんが」
「本当にあいつら、領の利益なんか何も考えないからなあ」
「どうにかならないものですかね」
「領主だってあんまり無能だと引きずり降ろされることもあるんだけどね」
そうか、そう言うこともあるのか。もはやマルクはバカは死ななきゃ治らないと思っているのかもしれない。
「あ、あと商会の名前も変えておいた方がいいでしょうね。シルヴェスタの名前があると領主に睨まれそうだから」
「そうだなあ、そうしないといけないか」
あまりマルクが乗り気でない。ドナーティ商会の名前に戻すのだからマルクにとっては愛着があると思ったのだけれど。
「何か問題でもありますか?」
「まあ、仕方ないな。いや、そちらで入った従業員たちも、行商のお客さんたちも、シルヴェスタの名前を気に入っているみたいだからな」
そうか。そういえばいろいろ苦労もあった。なんとなくシンディと2人で商売を始めたころを思い出す。
そんなにみんな支持してくれているのは感慨深いことだ。やめたくない。だが残っても結局は取り上げられるというもっと悪い形でやめさせられるだけだ。
上手くすれば俺が抜けるだけでいまの体制は続けられる。
だけど最終的には領主の影響力を排除して、元に戻してやりたいと思う。そんなことを口にすれば、それこそ介入の口実となるので言うことはできない。
さてそこで、先ほどマルクらか言われたことで、クラープ町の商人たちへの説明もしなくてはならないが、その前に売り先を考えないといけない。
商人たちは反領主の気風が強いが、それでも弱みを握られたり、鼻薬をかがされたりして、俺が商売を手放そうとしているのを領主に通報する者もいるかもしれない。
そんなことになれば売る前に先手を打たれてしまうかもしれない。内輪もめしているうちに譲渡先を探して譲渡してしまった方がよい。
先に言わないのには別の理由もある。今回はクラープ町の商人に俺の持ち株を売るつもりはない。
だいたい彼らは領都系商会の営業を買ってしまってあまりゆとりがないし、それだけでなく俺の商売を買ったら財産隠しに協力したかどで領主にまた嫌がらせされそうだ。
それにクラープ町の商人たちの希望する外部との取引を活発にするとなると、領外に買い手を求めた方がよいと思う。
となれば売り先はクルーズンをおいて他にない。レーヌやマルポールではクラープ町は視野に入りそうにない。
やはりクルーズンで何とか出資者を見つけるのが先決だと思う。




