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(家宰)出資金の取り上げ政策が出てくる

 私は子爵領の家宰のイグナシオ。ウドフィの失態の処理の最中だ。




 御館様の執務室に私だけでなく複数幹部の同席する中にウドフィが呼び立てられた。


私だけでなく誰もがここから出たいが、残念ながら退出するタイミングがつかめない。


みな顔を合わせ何とかならないものかと苦渋の顔を浮かべるが誰もよいアイディアは出ない。


そして御館様のウドフィへの叱責が始まり、その後2時間にわたる怒号が続く。


「あれだけ大見え切って、何だこのザマは!」

「どうして報告しないのだ!」

「この無駄飯ぐらいが、お前にどれだけ払っているかわかっているのか!」

……



 御館様は声を張り上げるばかりだ。ウドフィは押し黙ってうなだれたままである。


人前で叱責するのがいいとは思えないし、だいたい居心地が悪くて仕方がない。


叱られているわけでもないのに同席する幹部たちも立たされたまま、みな苦虫をかみつぶしている。


早く終わってくれないか、そればかり考えている。




 最後は御館様がくたびれて、空しい見世物は終わりになった。


これだけでもうんざりだが、さらにもっと情けないことがある。これだけ下らない時間をかけて、結局何の結論も出ないのだ。


私はウドフィなど首にしてしまってもいいと思う。何か月もまともな仕事もせず、報告もせず、そしてこの事態だ。


いなくなってくれた方が助かる。だが御館様はそう言う決断はできないのだ。




 しばらくするとまたウドフィは名誉挽回とばかりに、シルヴェスタの出資金を取ってやればいいなどと言い始めた。


もしクラープ町の商人どもが邪魔をするなら、そちらもまとめて取り上げてやると息巻いている。


もし商人から出資金を領府が奪えば、そのような領は危険視されて、もうどの商人もこの領には投資してくれなくなるに決まっている。


しかも長年の領都優遇でクラープ町は反領主の気風が強い。長年かけて融和策を取らなくてはならないのに、ますます収奪に走ってどうするというのだ。


だが御館様に注進すれば、この下らない思い付きが実現に移されるのだろう。またこの馬鹿に振り回されるかと思うと、うんざりしてくる。




 いくらなんでもそれは実現してはならないと、ウドフィを御館様に近づけないことにする。


さすがにウドフィも御館様もあれだけのことがあったからには容易には接近できないようだ。


ウドフィは御館様が怖いだろうし、御館様も御館様でいくら無神経とは言え簡単には呼べない。


こればかりは助かったとしか言いようがない。




 最近の御館様は期待していたシルヴェスタへの嫌がらせが不首尾で面白くないようだ。


シルヴェスタのことについては彼がいなくなったことは中長期的には領の損失だと思う。


しかし当面は大した問題でもないのだ。まして彼への嫌がらせが失敗したのはよかったこととしか言いようがない。


それよりずっと重要な問題がいくらでもある。だがそういうことは長い時間かけて関係者ともいろいろ調整しながら解決するしかない。


そんな面倒なことは御館様は興味がない。別に御館様自身が携わらなくてもよいのだが、経緯くらいは知っていてもよさそうなものだ。


それより簡単な思い付きですぐに結果が出るようなことばかり好む。今回も結局はそう言うことだ。




 ウドフィが御館様に近づけないので良しとしていたが、思わぬ方向から面倒がおこった。


モナプというろくでもないコンサルが御館様のところに出入りしているが、それが同じことを言いだしたのだ。つまりシルヴェスタの出資分を取り上げればいいと。


モナプはクルーズンの有名な学校を出ていて、それを鼻にかけている節がある。だが正直な話大した知恵はない。


こすからく目先の儲けを追求することばかり長けている。それもたいていは他に迷惑のかかる方法でだ。ようするに制度や習慣の穴をついて人を出し抜くのだ。


さらに先々のことは何も考えていない。物事には短期的にはよくても、中長期的にはまずくなることは多々ある。だがモナプは目先のことだけ考えて大声で言いふらす。


一商人が己の利益を追求するのは勝手だが、それを実現するために領全体の制度をいじろうとするのはなしだ。


だが御館様も目先のことばかり考え、こんなくだらない者を近づけてしまう。あれの利益は領の他の者のいや領全体の不利益だというのに。




 ろくでもない人間にはろくでもない者がつるむらしい。ウドフィとモナプが接近したのだ。


それは当然あり得たことだ。モナプはクラープ町の領都系商人たちのコンサルをしていたが、その商人たちはシルヴェスタに煮え湯を飲まされた。


もっともモナプは上手いこと逃げ回って大した被害にも会っていない。まったく安全なところにいて他人に博打をさせてその上がりを持って行くなどろくでもない。


こうなるとウドフィがシルヴェスタの出資金を狙いだしたのももしかするとモナプの入れ知恵だったのかもしれない。


まったくどうしようもないことに、モナプはシルヴェスタの出資分を取り上げるにあたり、今度こそウドフィの出番だと勧めたのだ。



 さすがに前回の大失敗があるので御館様も渋る。

「いや、あいつは失敗している。どうにもうまくない」


ところがそれに対してモナプは自信満々で答える。

「いえ、失敗すればこそです。きっと次は挽回しようと死に物狂いで働くでしょう」


「そうか、そういうものか」


そんなことがあってたまるかと思う。政策を決めるのに挽回するとか死に物狂いとかそんな不確かなものに頼らないでくれ。


さすがに出資金の取り上げはまずいので意見するが、一度名案だと思い込んだ御館様は頑として聞き入れない。


そんなものが実現に移されたら、この領に投資してくれる人はいなくなってしまう。他の幹部たちともため息をつきながら、どう止めればいいか話し合っていた。

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