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冒険事始初日(上)

 冒険者の第一歩を踏んだ時の話をする。9歳になる前の春に、俺たち3人は冒険者の師匠につくことになった。


はじめはシンディの父親のレナルドの道場に行っていたとき、冒険者の話になった。


「前に冒険者の人から、冒険者体験コースがあるって聞いたの。あれ、あれ、誰だっけ、クラープ町にいる人」


本当はクルーズン市のギルドで聞いたのだが、そこに行ったのは秘密だ。


「スコットさんだよ」

「そうそうスコットさん」

「ほう、スコットか」

「父さん知ってるの?」

「あいつはすごかったんだぞ。若いころから技術は圧倒的だったし、難しい冒険に挑戦し、快速で昇級して20代半ばのときにはA級も目前と言われていたんだ」

「へえ、じゃあなんで今はクラープ町にいるの? クラープ町じゃ大した冒険はできないでしょ」

「それはな、あるときダンジョン攻略をしたときに、仲間をかばって大けがをし、左手に障害を負ってしまったんだ。

その後に長年かけて左手はほとんど元の機能を回復したが、家族の意向もあっていまはクラープに住んで主には別の仕事をしているはずだ」

「そうなんだ。けがは回復魔法やポーションで治ったりしないの?」

「自然に治る範囲だったら割とよくなるのだが、欠損が出るとなかなか難しくなる。そういうのはロレンスの方が詳しいかもな。

エリクサーを使えば、四肢欠損でも治ったりするらしいが、信じられないくらい高いというし、見たこともない」





 冒険者はたいてい冒険者ギルドに登録する。登録するとランクに応じてギルドにある依頼を受けることができるし、またギルドの講習なども受けることができる。


日常での紛争が起こったときにギルドの助けを借りることもある。また冒険者の仕事がメインの場合にはA級からE級のギルドランクが社会的な信用にもつながる。


ただギルドの扱うような仕事をしない探検家のような者は冒険者でもギルドに登録しないものもいる。



 登録は12歳から可能である。それ以下だと体力が追い付かなかったり、冒険の危険に耐えられないため、この年齢になっている。


ところが登録開始年齢の12歳が問題となった。10歳から徒弟になるのがふつうの社会であるため、ギルドに登録せずに冒険者の下働きをする子どもたちが多く出てしまった。


けがや死亡事故が多発し弊害が大きくなったため、例外扱いとしてF級と称する子どもの登録を行い、安全のための講習や保護を行うことになっていた。




 だからフェリスたちの冒険はじめも実はギルドによる子どもたちへの安全講習の一環だった。


ギルドの冒険者体験コースの謝礼は1日6000ハルクで、1人増えることに2000ハルク加算とのことだ。なおギルドの公定料金である


後でこの金額はかなり安いことがわかる。まったくの奉仕ではないもののそれに近い。


謝礼が金銭で、村のように麦や野菜ではない。ちなみにクラープ町の教会の謝礼は金銭と現物とどちらもあるようだ。


子どものおもりに料金を取るのは当然だと思うが、村の感覚は違うらしい。


助け合いであるべきだというのだ。ただ村の中でも助け合いがうまくいっている場面も多いが、そうでもない場面も見受けられる。


打算か身勝手で、もたれかかっているだけの者もそれなりにいる。これが顔見知りでない他人が多くなる町ではますます無理になるだろう。


ただスコットはけがをしていた時にレナルドにずいぶん世話になったことがあるようで、それほど杓子定規ではなく、そのあともずいぶん面倒を見てくれた。





 シンディが冒険者体験コースを受けたいといい、レナルドがそれならスコットにあったときに頼んでおいてやると引き受けてくれた。


レナルドが町に行ったときに話してくれたようで、スコットが村に来てくれることになった。


指定の日の朝にフェリスとシンディとマルコはレナルドの道場に集まる。


レナルドも含めてしばらく4人で話していると、40過ぎくらいのやや長身で引き締まった男がけっこうなザックを背負って現れた。


「クラープ町の冒険者のスコットだ。今日と明日よろしくな」

「はじめまして、フェリスと申します」

「シンディよ」

「マルコです。よろしくお願いします」


レナルドはスコットに支払いをしてから少し話す。それからスコットは俺たち3人についてくるように言った。





「今日は……、何かしておきたいことはあるか?」

「ロープの使い方が知りたいです」


前にチンピラのワルスを捕まえたときに必要だったものだ。


「狩りがいいわ」

「薬草の種類と取れる場所を教えてください」

「どれも重要なことだから2日のうちにすることにしよう」

今日と明日の一泊二日のコースである。




 まずは荷物の詰め方と持ち方からだ。事前にザックに指定されたものを入れてくるように言われていたので、その中身を全部出す。


その上で詰め方を教わる。下の方にあまり使わないものを、中の背中側に重いものを外側にはやや使うものを、さらに一番上にはよく使うものを入れるとのことだ。また体に固定して疲れにくい背負い方も習う。



 それが終わると出発だ。まずは歩き方や魔物からの逃げ方について説明がある。


全速で走るようなのは体力の消耗が激しいので、本当に緊急のときしかしてはならないし、逃げるときでももう少しうまい逃げ方をしないといけないそうだ。


ギルドとしてはこれが一番伝えたいことらしい。とにかく手に負えない魔物からは逃げることだ。


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