15. (家宰)ウドフィの失敗が判明する
私は子爵領の家宰のイグナシオ。御館様はクラープ町にいた商人のシルヴェスタを目の敵にしている。
ただ私があまりその取り組みに積極的でないとわかると、無能のウドフィを起用してシルヴェスタへの嫌がらせにあたらせた。
本当に嫌がらせでしかないのだ。どうも出頭させたいらしい。とは言え出頭させる名目もあやふやだ。
どうやらけしからんからということだが、それもあいまいな理由だ。御館様の取り巻きの商人の親戚筋と対立したのがけしからんらしい。
それに出頭させて何をしたいのかもわからない。まさか逮捕するわけにもいくまい。
それは以前は領主は領内ではしたい放題できたが、最近は王国からの命令で、法に基づいて手続きを踏まないといけない。
まともな領ではとっくにその制度もできている。いつまでも以前の領主専断の意識のままでは困るのだ。
起用されたウドフィは全くの無能だ。以前に部下から聞かされたことがある。
領内のある税の徴収方法で以前から検討されていた方法があった。良い点もあるが困難が結構あって誰も実現をしようとしていなかった。
ところがウドフィができますとばかりに御館様に安請け合いした。反対論も多かったが、御館様は新しい者に飛びつき実現することになってしまった。
そのときウドフィが実際に何をしたかというと、実施を発表したのちに実施部署を作ってその部署にはウドフィに逆らえない別の役人を当てたのだ。
そして後はやっておけと丸投げをした。自分は忙しいからとまったくタッチしなかったのだ。
丸投げされた者は到底できるはずもなく、かといってすでに公表してしまっているため実施せざるを得ない。
しかたなく私も含めて何人もが手伝わざるを得なくなり、あまりにひどい困難に巻き込まれることになった。
もともと計画段階で見えていたことだが難点も多くさんざんな目に遭う。しかも苦労して実現してみたがやはり以前の制度よりそれほどいいものでもないのだ。
巻き込まれた者はウドフィには散々文句を言ったが、どこ吹く風だ。
そして人を見る目のない御館様はウドフィが実現したと思っている。これでは苦労した者は報われない。
さてそのウドフィだが、シルヴェスタを呼びつけるのにクラープ町に彼が残した商会からの支払いに目を付けた。
そして出頭しなければそれを取り上げると脅したのだ。まずは取締役報酬だった。
ウドフィは御館様に兵糧攻めにすると安請け合いしたが、見事に逃げられた。シルヴェスタは簡単に辞任して逃げてしまったのだ。
それに対して御館様は大激怒したが、次はまたシルヴェスタの出資金の利子を取り上げると安請け合いした。
だがいつもウドフィの言うことはその場の思い付きばかりなのだ。何か根拠のあってのことではない。
そんなことでも御館様は簡単に飛びついてしまう。
「出資金の利子はかなりの金額になるはずですから取締役報酬とは違います。シルヴェスタめも今度こそは放棄できないでしょうな」
そんな風に言って御館様を期待させていた。
だが待てど暮らせど、吉報は来ない。
さすがに御館様も待ちあぐねて、まだかまだかと催促する。ウドフィの方はまずいと思ったのか領都を外し、クラープ町に常駐するようになった。
そうして何度、領都からクラープ町に催促の使いをやったのかわからない。御館様は期待した結果が出ずにいつもイライラしている。
「報告はまだかっ!」
聞くことはそのことばかりだ。だいたいシルヴェスタの問題など領政全体から見れば大した問題でもない。金額自体もさほど大きくない。
社会に悪影響を及ぼすような不道徳をしたわけでもない。むしろそれをしていたのは領都系の商人たちだ。
だが自分が一度思い込むとそれ以外は考えられなくなるのだ。上に立つ者の器とも思えない。
領主がそれにばかり捉われて他の政務が進まず、さすがに他の幹部たちもどうにかしてくれと言い出した。
仕方がない。また御館様に黙ってシルヴェスタかその周りと接触するほかないだろう。
とりあえず私は領都を空けるわけにもいかず、直属の部下をクラープ町にやって調べさせることにした。
そこでシルヴェスタが出資している商会の店主に話を聞いたところ、どうしようもないことが判明した。
ウドフィが狙っていた出資金の利子は支払いが見送りになり、それを取ることはできなくなったとのことだった。しかももう数週間前にそれを通告したそうだ。
それがわかる以前はウドフィは2~3日に1回は店に来ていたとのことだった。
もうダメと分かったのならばウドフィはどうしているのか役所に聞くと、その前も後も他の仕事は何もしていないという。
つまりウドフィはこの数か月間は出資金の利子を取り立てる仕事しかしておらず、それも見事に失敗したというのだ。
挙句の果てに失敗の報告もせず、ただクラープ町でぶらぶらしているという。
さすがに御館様に報告せざるを得ない。とはいえ嫌なものだ。ウドフィなど首になっても困らないが、また面倒なことになるのが目に見えている。だが報告しないとこちらの方が危うくなる。
実際に報告すると、御館様は両手を握りしめ、歯を食いしばり、真っ赤に上気して、大声を張り上げた。
「ええい、シルヴェスタめ。まんまと出し抜きおって。領主を何だと思っておるのだ」
怒る方向が違う。しかもシルヴェスタはもうクルーズンに移住している。向こうの領主の覚えもめでたいらしい。もはや御館様のことなど歯牙にもかけていないだろう。
「ウドフィもウドフィだ! すぐに呼び戻せ!」
ようやくそちらに気づいてくれた。指摘されると不愉快そうにするから、本人が気づくまで待つしかない。
ともかくクラープ町に知らせてウドフィを呼び戻す。ウドフィはしぶしぶ出頭する。もちろん御館様の大叱責となるのだろう。




