無配の説明をする
子爵領の領主に睨まれている俺が出頭しないことについて、領主の配下のウドフィが俺が出資しているクラープ町の商会から何とか金を引き出そうと画策している。
前は取締役収入を狙ってきたが俺が辞任してとん挫した。そこで次は株の配当金を狙ってきている。
これについて俺もだがクラープ町の商人たちももちろん払いたくない。そこで相談をしている。
「いちおう無配という方法はあります」
「それはどんなものだ?」
「配当金を払わないことです」
「それはつまり借金の利子を払わないことだよな」
「ええ、そうです」
「利子がないんて、うちは金を貸しているわけだが、いったい何の得があるんだ?」
「いくら領主に払いたくないからと言って、返すべき金まで払わないのはなしだぞ」
「確かにそうなんですが、一般に株は額面以外で取引されるものです。この株の表面には1万ハルクと書かれていますが、売買される値段は別です」
「はあ、そういうものなのか」
「その値段はどうやって決まるんだ?」
「市場がないと売買価格を決めるのは難しいですが、例えば資産を株数で割ってその価格だと考えます。
そうするとお持ちの株が額面で1株1万ハルクを100株持っていて100万となっていても、実際の価値は150万だったり80万だったりするわけです」
「なんかよくわからんな」
「原理的には株を売りたい人と買いたい人の合意できる価格です。ただそれではあまりにも基準がないので、例えば資産が目安になるわけです」
「他にも目安があるのか」
「ええ、例えば大儲けしている商会なら、もっと配当金が出せるでしょうから、資産が少なくても高い値段で買いたい人もいるかもしれません。だから利益も目安になります」
「たしかにそうだな」
「でも逆もあるわけか」
「ええ、資産が多いのに上手く行っていない商会だと、配当金が出せないので、株を高い値段で欲しがる人はいなくなります」
「なるほど、そうすると株の値段は下がるわけか」
「だけど今回配当を出さないとなると、株の価格は下がるんじゃないのか?」
「配当を出せないときに下がるのはもっともですが、うちは配当が出せるのに出さないだけです。商会がダメなわけではないことをみなさんご存じです。それで配当を出さないので、商会の資産が増えると考えられます」
「つまり配当をもらわないと株の価格の目安になる資産が上がるわけか」
「一般的にはそうなります」
「一般的以外だとどうなんだ?」
「別の考え方もできます」
「どういうことだ?」
「経営者がもっと事業を広げたいと言った時に、商売が上手く行っていればさらに貸し付けることもあるでしょう」
「まあそりゃそうだな」
「あるいはここを乗り切れば何とか一息つけるというときも、貸し付けることはあるでしょう」
「それもありそうだな」
「つまりそう言うときに追い貸しするようなものです」
「なるほどな。それでいまは商売の具合はいいと来ている。ということはもっと事業を広げるということか?」
「事業を拡げられたら、うちら同業にとってはつらいかもしれないな」
「それはそうですが、新規事業があります。例の冷蔵流通です。冷蔵庫を買ったり、見込みのある作物を植えたり、新しい商品の開発もあります。
そう言ったものだと、必ずしも皆さんと競合するとは限りません」
「確かに既存事業を拡げられたら困るが、まったく新しい事業ならこちらにもあまり影響はないか」
「わかった。それでうちらにどんな得があるんだ?」
「極端なことを言えば得でも損でもありません。ある意味その後の成り行き次第です。商売が上手く行けば得だし、まずければ損です。
ただ今回の場合は領府に俺の配当つまり利子分を払わなくていいことになります」
「ああ、そうか。それが元の話だったな」
「あの馬鹿どもに一銭でもやりたくないからな」
「それでいかがでしょうか。この案は」
商人たちは考えている。ただ大勢は賛成の方向のようだった。
「まあいいんじゃないか」
「こちらの損というわけでもないしな」
「あのウドフィの悔しがる顔を見たいな」
ただ1人あまり賛意のない人がいる。言いづらそうだったので聞いてみる。
「いや実は配当を当てにしていたんだが」
それを聞いた回りも困っていたので、こちらから申し出る。
「株はこちらで買い取ってもいいですし、場合によっては低利で融資もします」
そう言うとそれでなんとかなりそうなので詳しい話は個別にすることになった。
それ以外は特に反対もないようだ。ただこれは非公式の集まりに過ぎない。正式には株主総会で決める必要がある。
あまりこういう根回しっぽいやり口はよくないと思うが、いきなりというのもちょっとうまくないところがある。
だいたい株主総会にかけると俺の持っている株数がほぼ半数なのでほとんどそれで決まってしまうのだ。
「ところで……」
ある商人がいいかける。
「なんですか?」
「うん、なんというか……、本当に14歳か?」
最近言われなくなったが、また少し暴走してしまったようだ。確かに誰も知らないことをよどみなく説明するのもかなり変なことだ。次からは間に誰か立ってもらった方がよさそうな気がする。
「ええ、見ての通りですが」
容姿は14歳でしかないので、そう答える。中身は50過ぎだが。
「そ、そうだよな」
だが、あまり納得している様子はない。それだけならいいのだが、他の商人も同じだ。
ともかく領府とウドフィが俺に払うべき配当を取り上げようとしていることに対しては無配で対抗することにはなった。




