ウドフィが配当を狙い、対策する
もう後にしたはずのクラープ町で領主の子爵が俺を目の敵にして、下僚のウドフィに命じて俺の財産を狙っている。
俺が残している財産は、マルクに貸し付けている形の資金だ。いちおう内部的には株ということになっている。
ウドフィはその配当、つまり貸付金の利子を狙っている。
ウドフィが一度取り立てに来たが、マルクが形式が整っていないといって追い返した。ただその形式くらいはすぐに整えてくると思われる。
どう考えてもおかしい取り立てだが、この領では領主の意向が優先される。それで動いているウドフィに逆らう者もいるとは思えない。
早めにまた対策を取らないといけない。
「よくもまあ、領主だのウドフィだのは次から次に金をとることを考えるよな」
「金をとることしか頭にないんでしょうね」
「前は取締役報酬で今度は株の配当か」
「理屈なんてどうでもいいからとにかく金をとることばかり」
「ウドフィは一度は追い返したけど、どうしたものかな」
「さすがにそろそろこちらからも手を引きたいんですが」
「そうはいかないよ。例の果物の冷蔵流通のことで、ますます君を手放したくないってパストーリさんも町の他の商人たちも言っているよ。取締役辞任だって、みんな惜しがっていたし」
「やれやれ」
正直なことを言うと事業を売り払ってクラープ町と無関係になってしまった方が楽だ。クルーズン市の事業ではまだいくらでも資金が必要だ。だから株を売り払って向こうに持って行くのも悪くない。
もちろん完全に見放すというのもいいことではないが、政治が悪ければ努力しても無駄だと思う。
「その代わり、多少の無理は聞いてもらえるよ」
「なるほど、どの程度の無理でしょうか」
「いちおう理屈がつかないとうまくないと思う」
「それはそうですよね。ところで領主のしていることは全く理屈がついてませんね」
「だからこの領はダメなんだよ」
「もっともですね」
権力で無理を押し通しているが、その結果として商業は衰退するし人は流出している。
「それでどうする?」
「いちおう手は考えてあります」
「どんなのだい?」
「ええ、無配と言って、つまり利子を払わないことです」
「借金の利子を払わないというのはちょっとまずいんじゃないか?」
「いろいろ理屈はつきます」
そこで無配をすることもありうる理屈をいろいろ説明する。
「じゃあ、近いうちにうちと関係する町の商人が集まるからそこで話そう」
「わかりました」
しばらくして商人が集まる機会があった。その中の多くはシルヴェスタ・ドナーティ合同商会の株主でもある。
配当のことは正式には株主総会で話し合うべきことだが、その前に感触を探ってみることにする。
一通り挨拶するが、見知った顔だし、最近も冷蔵流通の説明で顔を合わせている。
「実はまた領府から無理難題を言われています」
「え、またか」
「前は取締役報酬をよこせと言ってきたんだっけ」
「今度はどんなことを言ってきたんだ?」
出席した商人から聞かれる。
「ええ、俺が出頭しないので、代わりに合同商会が俺に払う株の配当、つまり出資金の利子を役所に収めよと」
「まったくあいつら、次から次にくだらないことを考えるな」
「本当にあいつら、自分の金だと思っているんじゃないかと思う」
「金をとることしか考えていないな」
「いや使うことも考えているぞ。ただ自分たちと仲間内だけで使うことだな。何か生産性のある使い方なんてことは全く考えない」
みんな考えることは同じだ。
「前の取締役報酬は額が月5万でしたからあきらめてもよかったのですが、今回はちょっとそう言うわけにもいきません」
「けっきょくあれも払わなかったもんな」
「ああ、ざまあみろだ」
「今回も何とかして払わないで済ませたいな」
「領府の要求に対しては、どう対抗したんだ?」
「ええ、また来たのはウドフィで、マルクは形式が整っていないということで断ったとのことです」
「ああ、またあれか」
「本当にあいつは話が通じないな」
「手続きというものが何もわかっていない」
「ええ、でも次は形式も整えてくるでしょう」
「馬鹿のくせにマメだからな」
「マメというより暇なんだろうな。他の仕事ができないから」
「だが領主の意向とあると理屈が整っていなくても他の役人は認めてしまう」
「ただ領府に収めたいとは思いません」
「そりゃあんなのに金を渡しちゃダメだろ」
「ああ、出せば出すほど悪くなる」
「できればそろそろ手を引きたいんですが……」
「いや、それは困るな」
「ああ、シルヴェスタさんにはまだやってもらいたいことがいろいろある。この前の冷蔵流通の話もまだまだこれからだ」
「まあ一蓮托生ということで」
「あの取締役辞任だって、本当はもっと続けてほしかったんだ」
正直言うと勘弁してほしいところがある。
「ただ対策は考えないといけません」
「困ったな」
「確かに面倒だな」
「あんなのでもいちおう領主だからな」
「何かいい方法はないのか?」
「いちおう無配という方法はあります」
「それはどんな方法なんだ?」




