10. ウドフィは配当金を狙うが相変わらずトンチンカン
またウドフィが無理難題を持ってきたらしい。
俺はクラープ町のある領の領主の子爵から疎まれて出頭を命じられている。それを無視しているので、その代わりに罰金を取るという。
初めは俺の取締役報酬を狙ったが、俺が取締役を辞任してしまったので、ウドフィは取りはぐれてしまった。
そこで次に狙ったのが配当金だ。俺は株主としてシルヴェスタ・ドナーティ商会の株の過半数を持っている。
残りはマルクとカテリーナ、それから元のシルヴェスタ商会の幹部たち、それにクラープ町の商人たちとなっている。
法律に株式会社の制度がなく内規で定めているだけなので、法的には貸付金だ。
そこで配当金つまり貸付金や利子を狙ってきたらしい。
マルクから聞いたウドフィとのやり取りはこんな感じだったそうだ。
「ときにシルヴェスタのことだがな、出頭しないことについて罰金を取ることになった」
「はあ、さようでございますか」
「だが奴は町には居ない。そこでその方から取ることにした」
「え? それはどういうことでございますか?」
「どうもこうもない。その方がシルヴェスタの罰金を払え」
「いえ、それはお受けしかねます」
「なぜだ?」
「さすがに公式の命令書がなければ罰金を支払うのは無理かと存じます」
「ふん、なるほどな。それではその命令書を持ってくればよいのだな」
マルクから聞かされたウドフィの相変わらずの無茶ぶりに思わずため息が出る。
「まったく役人の方が手続きについては詳しくないといけないのに」
「本当にな。なんというざまだろう」
「これじゃ嘘をつかれたらまったく見抜けませんね」
「嘘をつかれても嘘か本当か区別がつかないだろうな」
「だまされておかしな手続きを取ってしまうこともあるでしょうに」
「後で辻褄合わせればいいと思っているんだろうな」
「いずれあわなくなりそうですけどね」
「無茶苦茶を続けていると、だんだんそれが当たり前になって、みんなあきらめるからなあ」
「ただそういって帰したとなると、そうするといずれ来るかもしれませんね」
そんな相談をしていたら、実際に来ることになってしまった。
マルクによるとウドフィがまた近いうちに来るというのだ。
ギフトのホールでクルーズン市とクラープ町を行き来しているので、わりと早く情報は取れる。
「ウドフィがまた来るそうだよ」
そこでまたその時間に応接室の隣の部屋で聞き耳を立てることにした。
当日またウドフィがふんぞり返ってやってくる。
「その方、シルヴェスタに返済をしているだろう。その金を罰金として出せ」
「はあ、領府からの命令書をお見せいただけますか?」
「これだ」
「えーと、これでは私どもからお支払いすることはできません」
「なんだと?」
「これはシルヴェスタ氏に対する支払い命令です。私どもから取ることは書かれておりません」
「この前は命令書があればよいと言っていたではないか」
「シルヴェスタ氏から取る場合は命令書のみで結構ですが、私どもから取るならさらに別の書類が必要です」
「ここにシルヴェスタが罰金を支払えとあるぞ」
「そうは言っても私どもに対する支払い命令ではございません」
そう言うとウドフィはおろおろしだす。
「お主がシルヴェスタの代わりに払えばよいだろう」
「例えばご同僚が罰金を取られることになったとして、お役人の方がいないので代わりにウドフィ様から取るとなればどうされますか」
「そりゃ、断る」
「そう言うことでございます」
「だがお前の店はシルヴェスタの店ではないか?」
「いえ、あくまでシルヴェスタ氏からはお金を借りているだけでございます」
「金を借りていたら、返す金や利子をこちらに払え」
「それもなかなかできません。やはりもしウドフィ様がどちらかからお金を借りていて、貸した者が領府の何かに触れて罰金を取られるときにウドフィ様から取り立てるとなるとやはり面倒な手続きが必要です」
そういうとウドフィはますます混乱しておどおどする。どうしようもないと悟ったのか
「わかった待っておれ」
と言い残して去って行った。
ウドフィが帰ったので、隣の部屋から出て来てマルクと話す。
「あほですね」
「あほだな」
「だけどまた部下にやらせて持ってくるんでしょうね」
「こちらも対応しないといけないな。まったく面倒だな」
ここで考えられることは、株の配当に対して差し押さえをすることだ。
株式の制度は法律にはないので、法的には単に俺が金を貸し付けたことになっている。
つまり貸した金に対する利子が配当にあたり、それをウドフィが差し押さえてくることが予想される。
さすがにそちらは月に5万くらいの取締役報酬と違って額が大きい。
取締役報酬の方は取られても仕方ないと思っていたが、こちらの配当の方はさすがに看過できない。
どうしたものかと対策を考える。一番簡単なのは株を売る、つまり法的には誰かに借金の証文を買い取ってもらうことだ。
そうすればもはやウドフィが介入する余地はなくなる。
だがマルクたちもパストーリ氏もその他のクラープ町の商人たちも、まだ俺にここでの商売に関わって欲しいらしい。
そうなると株を売るという選択肢はなくなる。いったいどうしたものか、みなと話し合って決めないといけない。




