クラープ町の商人と冷蔵流通について話す
俺のことが気に入らない領都系商人の意を受けて領主が嫌がらせを始めた。ウドフィを使って出頭命令を出してきたのだ。
だが俺はもうクルーズンに移っていてそんな命令は無視している。そこでウドフィは俺がクラープ町の合同商会でついている取締役の報酬を差し押さえることにした。
大した金額ではないので差し押さえられてもいいと持っていたが、マルクをはじめクラープ町の商人たちはそれも出したくないという。
仕方ないのでマルクから辞任を勧告してもらい、辞任を受け入れて報酬をなくしてしまった。
それでしばらくはウドフィたちは黙っていた。その間に俺はクルーズンで冷蔵庫を開発し、クラープ町からの輸入の実験をすることになった。
主にブドウなどの果物だ。常温で運べるものは常温で運んだほうが安い。
ついでに言うと冷蔵庫はけっこう大きくて重い。荷馬車で運ぶのもややつらいところがある。実験ではまず荷馬車で運んだが、後から水運も検討することになった。
ただクラープ町からクルーズン市への水運は、東から流れてきた川がクルーズン市のやや南でダーフ川に合流するため、遠回りとなる。
だから急ぎのものは負担が大きくても荷馬車で運んだほうが良かったりもする。この辺は一長一短でいろいろしてみないとわからない。
俺自身は前世でも水運や鉄道貨物などを見直すべきだと思っていた。自動車による陸運よりずっとエネルギーの効率もいいし、人手もかからない。
いやそんなことは前世の官庁でもいくらでも研究はされていた。それでもやはり難点もあってなかなか利用が広がっていなかった。
ただ運転手不足になれば、おそらく自動車の方の利点が減って、そちらも増えていったのだろう。もう帰れるかどうかわからない前世のことではあるけれど。
実験的にクラープ町とクルーズン市の冷蔵流通をしてみたが上手くないところもある気がしてきた。冷蔵で運ぶという実験自体は上手く行っている。
ただルートとしての魅力に乏しいのだ。まずブドウしかないのではそれが実る秋しか流通できない。
それから冷蔵庫の片道輸送は避けたい。そうするとクルーズン市からクラープ町にも何か運ばないといけない。
いちおうそれはクルーズン市に集まる産物を運べばいいのだが、もちろん割高になるためにそれなりにクラープ町や周辺の村でも家計に金がないといけない。
金についてはセレル村ではブドウを売った代金で割と潤うようになっている。しかし周辺の村のブドウははるかにそれに及ばないものだった。
その辺のことをクラープ町の商人たちと話す。
「いまクラープ町とクルーズン市の冷蔵流通の実験を始めています。冷蔵で運んで向こうで高く売れる物があれば持ってきてください」
「どんなものがいいか、よくわからないのだが」
「この箱に食べ物を入れて上に氷を入れると、中のものがずっと長持ちします。それで例えばブドウなどを運んで悪くせずに向こうで高く売れます」
「なるほどな。ではそのままでは悪くなるが、冷やしておくといいものだな」
「はい」
「逆にどんなものはダメなんだ?」
「冷やしてはいけないものはもちろんダメですが、冷やさなくてもいいものもだめです。よけいに経費が掛かるので。冷やしても高く売れない物もだめです」
「なるほどな」
その後に具体的にどんな商品がいいかなど相談を受けた。
「ブドウはどうなんだ?」
「ええ、まだ売れるとは思います。ただセレル村でどんどん技術が上がっているので、追い付くのは大変でしょうね」
クラープ町の商人がブドウを作るとなるともうセレル村では村の中で管理しているので入り込みにくい。そうすると他の村となる。
気候が似ているので栽培は可能だろう。俺は村出身だが、競合になる物を止めるべきでもないと思うし、だいいち止められるとも思っていない。
俺の持っている冷蔵流通ルートを止めたってよそがルートを作ればそちらに流れるだけだ。
ただ同じことをしていてもいずれ頭打ちになるし、人まねばかりでなく、何か新しいものを探してほしいと思う。
前世では白いタイ焼きも高級食パンもワンルームマンションもコインランドリーも流行り出した後に投資した人はひどい目に合っているケースが多かった。
「どうすればいいでしょうねえ?」
「いろいろ試してみることです。それも小さい規模で。上手く行ったら増やせばいいでしょう」
「結構時間がかかりそうですね」
「ええ、木を植えても取れるのは3年後ですからね。でも将来を見据えて投資しないと儲けられませんよね」
「シルヴェスタさんの言うこととも思えませんね」
俺が行商や郵便では短期で儲けているからそう言うのだろう。だがブドウなどはわりと長期を見据えている。
「すぐに儲けられるものはまねされますよ。俺の行商や郵便もまねされました。それを跳ね返したからあれは儲かっているんです」
「なるほど。楽に儲けられる話はないということですか」
「ええ」
「じゃあやはり果物ですかね」
「果物ならここで取れるものをとりあえず冷蔵でクルーズンに送ってみて様子を見るのもいいでしょう。青果商に知り合いがいますから、そちらで聞いてみることもできます」
「なるほど。考えておきます」
そんな感じで、クラープ町の商人も冷蔵流通ルートに興味を示していた。




