5. ウドフィ相手の対応の相談
元いたクラープ町で領主が取り巻きの商人のために俺を呼び出そうとしていて、手下のウドフィがマルクのところに何度もやってきて呼び立てている。
俺がいつまでも出頭しないので、とうとうウドフィは俺の取締役としての報酬を差し押さえると言ってきた。
取締役と言っても非常勤だ。だから報酬もそれほど高くない。月に5万だ。本当に単に商会の中を見るためについただけの地位だ。完全に元中の人なので社外取締役には当たらない。
そういえば前世の日本には社外取締役制度があった。
多くの企業では従業員から出世した人間が社長や役員に取り立てられて取締役になっていたが、そうなると上に物も言えなくなるからと取り入れられたらしい。
理念は立派なのだが、実際にそう運用されていたかは怪しい。天下りとかいつまでも地位や肩書が欲しい老人がうようよしていた。
しかもろくに仕事もないのに、報酬は高額だった。
経営者は法制度で押し付けられてしぶしぶ社外取締役を採っていて、余計な口出しをされたくないので、金を出す。
つまり金をやるから余計なことは言わないでくれという寄生虫みたいなものだ。もちろんそれが全部というわけではないけれど。
お役所がらみで押し付けられると往々にしてそう言うことが起こる。考えたらお役所は天下り先ができて露骨に利害関係者だったんだ。
ああ、また前世の愚痴になってしまった。
それはともかく、俺が取締役についていたのはそんな卑しいものとは違って本当に経営を監督するものだった。そもそも出資者なのだ。
とは言え、それほど長い時間仕事をクラープ町で仕事するわけにもいかないので、それに合わせた手当にしていた。
大した金額でもないので、実は子爵領の役人に取られてもさほど困らない。
ところがマルクも他の取締役つまり町の商人たちだが、彼らは1銭でも役所に出したくないらしい。
よほど領府に腹を立てているらしい。とにかく一銭だって出したくないと言う。
ただ、俺の分の給料を差し押さえると言ったのに、拒否したとなればどんな仕返しが待っているかわからない。
「あの馬鹿、逆らわれるともっと馬鹿なことするんじゃないですか?」
「可能性はあるな。馬鹿だから」
「本当に何であんな馬鹿が上にいるのだろう?」
馬鹿馬鹿馬鹿とみんな言いたい放題だ。とは言え、やはり権限や権力や影響力のある者が馬鹿なのは有害としか言いようがない。
ところでふつう人は利口か馬鹿かなど評価されたくないだろう。もし権限やら権力などがなければいちいちそんな評価はすべきではないと思う。
もし身近で家族や友人のことを有能だとか無能だとか評価していたらいやらしい。だが権限や権力や影響力があればそのように評価を受けるのも仕方がない。
それでやはりウドフィは権限があって馬鹿なのだ。
とにかくマルクも他の町の商人も一銭でも領府には出したくないそうだ。
ただ差し押さえつについては上まで裁判で争えば勝てるかもしれないが、とりあえずは領府の言うことなので有効になってしまう。
それではどうするかということで考える。
「それではいっそのこと、俺を取締役から解任するか、無給にしてしまえばいいのでは?」
「なるほど。それなら領府に払わなくて済むな。だけどそれでいいのかい」
「前も言ったようにお金の面でいえば月5万では大したことはありません。
権限についてもかなり大きい組織で制度的に動いているなら取締役の役職がないと困りますが、今は実質個人商店なので、それも必要ないでしょう。あなたと話せばいいだけのことですから」
「まあそれはそうかもな。それでどうする?」
「どうするというのは?」
「報酬辞退とか、無給とか、解任とかいろいろありそうだけど」
「報酬辞退だとその分よこせと言ってきそうです」
「確かにそうかもしれないな」
「そうすると無給か解任がよさそうですね」
「じゃあ無給にするか」
「それも何か理屈がつかないように見えますよ」
「どういうこと?」
「つまりウドフィがなんで無給なんだと聞いてきたときに答えにくい」
「確かにそうかもな」
「いっそのこと解任してしまって、それも領府の言うことを聞かずに商会に迷惑をかけたことを理由にすればよさそうです」
「なるほど。それなら向こうも文句がつけにくい」
そう言うわけで俺を解任することになった。そう言う言い方もかなり変だけれど。
ところがこれについて商業ギルドのパストーリ氏と相談するとまずいのではないかと言われる。
彼は以前に俺が前世から持ち込んだ株式の制度を絶賛していた。
彼が言うには株主総会が経営者のお目付け役としてつけた取締役を代表取締役や取締役会が解任できないのではないかというのだ。
よくよく考えるとそれはもっともだ。株主総会なら解任も可能だが、俺が大半の株を持っているので、自分自身を解任するというあまりに変なことになる。
俺の方がうかつだったが、パストーリ氏の方が俺が持ち込んだ制度のことをよく考えていたようだ。
仕方がないので、マルクから俺に辞任を勧告し、それを受け入れることになった。




