クラープ町の商人たちとの話し合い
また子爵領のクラープ町の方でくだらないごたごたが続いている。どうもうちの商会にちょっかいを出して返り討ちになった商家の本家筋が領主の取り巻きらしい。
すでに決着がついている話を蒸し返して、うちから金を取ろうとしているようだ。それだけならまだしも、それに領主が加担しているのだ。
まったくくだらない話だし、そんなことをするから人が流出するのだと思う。そうは言っても封建制の中で領主の力は侮れない。
正面衝突よりものらりくらりとかわし続けるしかないところもある。
もはやクラープ町に出資している分は取り上げられたところでやっていけないわけでもないが、そんなことをしたらマルクに迷惑がかかる。
もし出資分を取り上げられたら、それを理由に紹介の経営まで介入してくる可能性が高い。特に今の制度だと株主として重要な決定はできる仕組みになっている。
その時にクラープ町の紹介を富ませることではなく、領都の商会の利益を図るだろう。
そんなことになれば、取引先や町民まで迷惑をこうむる。
前にも領主が肩入れしていた領都系商人の分家筋などさんざん取引先や町民に迷惑をかけていたのだ。
だから商売に領主がらみが入ってくることには断固として対抗しないといけない。
それにあんなアホ領主に一方的にやられるのはどう考えても許されることではない。
商業ギルドのパストーリ氏とも会う。実は町全体が領主には恨みを持っている。それは領都を優先してクラープ町の方はないがしろにし続けてきたからだ。
「また領主が何かつまらないことを考えているようです。ウドフィが何度かマルクに接触してきました」
「まったくあの人たちも凝りませんね。そんなことをするから人が逃げていくのに」
「ええ、本当に。と、逃げた私が言うことではありませんが」
「まあシルヴェスタさんは逃げてもきちんと町の商売の発展に尽くしてくれています」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「うちとしてもシルヴェスタさんに活躍してもらった方が商業の振興につながりますから、できるだけ協力はします」
「ありがとうございます」
「取引先や出資者ともよく連絡を取ってください。」
パストーリ氏にそう言われてクラープ町のシルヴェスタ・ドナーティ商会の取引先や他の出資者とも話し合いを持った。
「まったくあいつらときたら次から次にわけのわからないことを」
「せっかく領都系の商会が片付いてすっきりしたのにまた介入されても困る」
「とにかく最大限協力するから、けっして屈しないでくれ」
形としては俺は逃げ出してしまったのに、この町の商人たちは町のために領主にあらがう俺に協力してくれている。
もちろん生まれ育った町だということあるとは思う。俺は育ちはセレル村だし、しかも前世の記憶があるから村育ちの意識もあいまいだ。
だけど町で生まれ育ったものは強烈に町のことを考えるのかもしれない。
こういう風に後援されるとありがたいにはありがたいがあまり簡単に妥協もしにくくなる。
「クラープ町から撤退なんてしないでくれよ」
「いなくなるのはなしだぞ」
「事業を売ろうとしたって引き受けないからな」
正直なことを言うと、クラープ町の方は雇った従業員たちへの責任感で関わっているだけで、最終的には手放してもいいと思っていた。
少しずつ株を売れば数年後には町の商人や多少裕福な町民に引き受けてもらえる。従業員たちもその間にクルーズンに移りたい者は移り、残りたい者は残ればいいと思っていた。
マルクなら無茶な経営はしないだろうし、その間に制度を整えればいい。そう言う算段でいたのだ。
だがパストーリ氏も町の商人たちも簡単には手を引かせてくれないようだ。
ところで商会の経営者は実はマルクだけでなくその兄嫁のカテリーナもいる。彼女も無能とは程遠いし、きちんと経営のことをしている。
ただどちらかというと表のふだんの店の運営の方が主で、こういう少し後ろ暗い話は得意でないようだ。それはそれでいいと思う。
マルクがこちらに関われるのはカテリーナがふだんの業務をきちんと回してくれるからだ。それは夫のマルキが無茶苦茶な経営をしていた中で従業員から頼りにされていただけある。
人それぞれ得意不得意があって何もかもをする必要はない。あまり気のいいカテリーナが陰謀じみたことを考えているのも似合わないし。
うちの商会だったら、カミロあたりは得意そうだが、アランなんかはあまり向いていなさそうだ。
そうこうしているうちにシルヴェスタ・ドナーティ商会の取締役会ということで集まりがあった。ウドフィに漏らさないために会議日程が決まったのは直前だ。
みんな直前に日程が決まっても文句は言わない。他の予定などをやりくりしてくれた人もいたようだ。
いちおう諸表の報告などがあるがみなあまりわかっていない。俺もある程度はわかるが、細かいところはアーデルベルトに見てもらうしかないと思う。
とりあえず利益がきちんと出て配当も出せそうだということ、俺の件以外は特に大きな問題もないということで、俺の件以外については平穏に会議は終わった。




