しばしの里帰り ロレンス・ロッコ・ロザリンド
都合があってセレル村に帰っている。ロレンスとも会って、シーフードを渡したりした。
「そうですかマルポールですか。むかし行きましたよ。なつかしいですね」
「いまは外にはいかないんですか?」
「ええ、治療もあったりするので、なかなか出にくいですね」
そう言えばロレンスは村人に治癒魔法をかけていた。そう言うことがあると出にくいのはわからないでもない。
ただ少しくらい出てもいいように思う。教会もたまには出られるように代わりをよこしてもよさそうだ。
なおそれを頼むとなると、またあのクルーズン司教に頼む必要がある。それはそれでかなり面倒そうだ。
とは言え、少しくらい面倒でもそのうち実現しようかと思う。
いろいろな話をした。こちらはお金にはけっこう余裕があるので寄付なども申し出るが、特に必要ないという。
「教会の修復などお金が必要でしたら言ってください」
「ええ、何とかやれていますから」
「なんとなく古ぼけてきているから、いっそ大改装するとか」
「こういうものは1人1人が少しずつ出して少しずつ変えていくのがいいんですよ」
そういうものなのかもしれない。ただ村の教会はクルーズンの銭ゲバ司教の教会と違って裕福なわけでもない。前など台風被害からの回復にお金が足りないくらいだった。
だがロレンスは何とかやっていけていますからと言って断ってくる。俺に出させたくないというのもあるのかもしれない。
だけど孤児だった俺を育ててくれて、返すのも悪くないと思うのだ。
俺がもし貧乏でやっと生活しているならともかく、どの村人よりも裕福なんだし。
とにかく寄付はまたこっそりマルクを通じて、いまはその息子でマルコの兄のマルケを通してかもしれないが、続けよう。
この辺はお金大好きのクルーズン司教殿とは違う。聖職者としてはロレンスの方がありがたいように見える。
もちろん司教ともなれば組織人としての側面とか、経営管理者としての側面とか、いろいろあって聖職者というだけではうまくないこともわかる。
だが逆にこだわったことがある。
「クルーズン市に連れて行ってくれますか?」
何か見たいものでもあるのだろうか。もちろんギフトがあるので簡単なことだ。
「ええ、お安い御用です」
そうしてクルーズンに連れて行くと、その場でクロをもふもふしだした。
クロの方はちょっと驚いている。しばらく会っていなかったので忘れてしまったのだろうか。
はじめはやや警戒モードだった。ただそれでもまったく他人相手とは違う反応だ。
警戒しながらも何か感じているのか近づく感じだった。
しばらくしてロレンスだと気付いたのかおとなしく抱かれていた。
その後はロレンスはちょっと本屋に行ったりしている。
クルーズンの家に帰るとまたクロをもふもふだ。
俺の滞在中にもう一度クルーズンに来たが、その時は猫もふだけだった。
ロレンスにはクロの近くにいてもらいたいが、俺は村に住むつもりはない。ロレンスもそれは希望しないだろう。
かといってロレンスが村を離れるのは難しいと思う。もう村にすっかりなじんでいて本人もその気はないだろう。
やはりあの神が猫を増やすのを待つしかなさそうだ。
ロッコとロザリンドに頼んでいるブドウの栽培の方は順調のようだ。ロザリンドは俺より2つ下だから、11歳か12歳くらいで、ロッコはその祖父だ。
2人にあいさつして、状況を聞いてみる。
「久しぶりだね」
「フェリスさん、いらっしゃい」
「おう、フェリスか」
「ブドウもずいぶん増えたね」
「ええ、かなり苗も植えたの」
「ワシらだけじゃないぞ。他のみなも植えている」
「そちらの収穫は?」
「さすがにまだ無理ね」
「でもずいぶんと収量が増えているみたいじゃないか?」
クラープ町で商売していたころに扱う量が増えたのを覚えている。
「元からあった木の方でかなり枝も伸びたの。それに前はなったまま放置していた実もけっこうあったけれど、いまはそんなことはないわ」
「じゃあその調子で増やせるね」
「でもあまり伸ばすとブドウが大きくならなかったり甘くならなかったりするらしいわ。だからやはり植えていく必要があるわね」
初めのころはロッコとロザリンドだけでしていたが、ブドウで本格的に儲かることがわかると、村の有力者たちもどんどん参入してきたとのことだ。
この調子なら順調に発展していきそうに見える。
「ブドウの質もずいぶん上がったみたいだね。クラープ町にいたころ、うちの村のものは他の村のよりずっとよかったよ」
「たくさんなっていいものだけ外に出しているわ。みんなで選別して、形のよくないものはジュースにしたり家で消費しているから」
「そうか、それでうちの村のものだけ断トツに良かったんだな」
「それに収穫や輸送の技術も上がっているの。箱も専用の物を作っているし、途中で傷みにくくなっているわ」
「まあそれで一儲けしようとしていたのがいたけどな」
「どうしたんですか?」
「さすがにみんなわかっているから抑え込んだよ」
「もういつものあれが出たって感じよね」
前は自分だけ儲けようとした奴には俺が介入してやめさせたが、さすがに対応できているようだ。
「まあそうですよね」
「フェリスさんがいなくなっても村はちゃんとやっているわ」
「村の収入もずいぶん増えたしな」
どうやら順調に行っているようだ。
俺がギフトのホールで輸送していたものも、クラープ町の商売を任せているマルクとの相談になるが、近いうちに冷蔵庫での輸送に切り替わると思う。
ずっと村にいられるわけでもないし、だんだん俺の手を離れていくのはいいことだと思う。




