シーフードが広がっていく
冷蔵流通のためにクルーズンの下流の各町の川湊に氷魔法使いを置いている。いろいろあってうちだけで使わずによその業者にも有料で提供し始めた。
シーフードの価格もだんだん落ち着いてきた。前はうちだけで輸入していたが、うちが冷蔵流通を提供し始めたので並行で輸入する商会が出てきたのだ。
実は前にも自前で冷蔵流通しようとする商会はあったのだが、商品をダメにしてしまい見事に失敗してしまっていた。
今回はうちが氷を供給することになっているために上手く行くようだ。
うちの冷蔵流通ルートを使う業者は1つまた1つの増えていった。それに伴って見た覚えのないシーフードなども売られるようになった。
「あれはいままで見たことがなかったよね」
「でも気になるね。一度買ってみよう」
そんな風にして新しい魚を買ってみたりした。ただ俺自身は簡単な料理しかできないので、リアナに頼んだりする。
「また変わったものを持ってきているな」
「街で売っていたんだよ。何か作れそう」
「まあだいたいある程度材料の性質があるからそれに合わせればできると思う」
そんな風にしていろいろ新しい料理も作ってもらった。
レオーニ氏も以前ほどはよこせよこせ言わなくなった。前はまるであいさつのように「いい魚入ってない?」などと聞いてきたが、それもなくなった。
それは供給が安定してきて黙っていても手に入るようになったからだろう。もっとも卸している量自体は前より増えていて、付き合いがなくなったわけではない。
わざわざ来なくても済むようになったということだ。
それに伴ってレオーニ氏の店くらいでしか出してなかったが、他の店でも出すようになった。クルーズンにはマルポール出身者もいるようで彼らが集まる店もあるらしい。
レオーニ氏の店は高級店だから庶民がしょっちゅういくわけにはいかないから、安いというほどでもないがほどほどの値段の店でも食べられるようになったのは歓迎されているようだ。
マルポール出身の料理人を前面に出して宣伝している店もあったりする。
小売りの方もうちのデパートだけでなく、街の少しいいモノを売っている食料品店でもシーフードを扱いだした。
さすがに冷蔵庫が必要なのでどこでもというわけにはいかないが、市民がシーフードに触れる機会も増えてきたように思う。
ただやはり冷蔵流通なので肉より少し高く、なんとなくお高めの店で少し生活に余裕のある人が買う感じだ。
休みの日にシンディとマルコとにぎやかなあたりに遊びに行く。そこでシーフードを扱う屋台を見る。
屋台と言っても少しお高い屋台のようだ。それはシーフードが安くないためだろう。マルポールでは完全に庶民向けだが、こちらではやはり輸送費がかかるのでそうもいかない。
道行く人が話をしている。
「見ろよ。シーフードの店があるぞ」
「最近見るようになったな」
「食べたことあるか?」
「いや、けっこういい値段なんだよな」
「まあでも一度くらい食べてみるか」
「ああ、そうだな」
そんな感じでエビやイカの串焼きなどを買っている。
「俺たちも買ってみようか」
「いいわね」
「店に行けばいくらでもあるんじゃない?」
「こういうところで食べてみるのもいいじゃないか」
「そうよ」
「まあいいか」
そう言うわけでみんなで1本ずつ買って食べてみる。ただやはり高くてエビが5匹の串とかいか1匹の串とか1本1000ハルクくらいする。
近くに座って食べる。味自体は素朴な味でリアナやレオーニ氏の料理とは比ぶべくもないが、ただなんとなく雰囲気が楽しい。3人で適当にシェアして食べる。
「やっぱりけっこう高いな」
「そりゃ観光地価格だし」
「うちが儲けている分も入っているからね」
それはそうだ。ただ以前のようにあまりにも供給が足りないので客を追い返すために無理やり値段を釣りあげるようなことはしていない。
あくまでかかった経費に正当な利益を載せているだけだ。そうは言ってもやはり結構な経費が掛かっていると思う。
珍しいものを食べたいのはそれはそれでいいことだと思う。ただ前世でフードマイルとか地産地消と言われていたことにも理がある気がする。
よほど新しい流通技術が開発されない限りは、しばらくは何となく高級な食べ物として定着していくのではないかと思う。
「前にマルポールで食べたよね」
「そうそう、あのときはシンディが5串くらい食べていたっけ」
「あっちは安かったわね。ちょっとこっちではそこまで手が出せないわ」
そう言えば向こうでは3分の1くらいの値段だった気がする。こちらのは輸送費に観光地価格が加わっているのだろう。
それにしても5串はなかなかすごいとは思う。
そうして思い出に浸りつつ、シーフードが普及していく様子を眺めていた。
そろそろこの章は終わりになります。




