他業者がうちの氷を使う
冷蔵流通ルートを確立しつつあり、氷魔法使いもだんだん増えてきた。いまは南部の河口の町マルポールのシーフードをそれを使って輸入している。
途中の町の川湊にも氷魔法使いを配置しつつある。うちばかりがこのシステムを独占するのもあまりいいことではないように思えてきた。
一定の費用を取ってほかの商会にも使ってもらった方が結局はうちにとってもいいことになるのではないかと思う。
ただまだ氷魔法使いが十分でないことや、あとから値上げはしにくいことから、初めはかなり高くしておいて後で値下げする方向で話を進めている。
いちおう案が固まったので、商業ギルドで説明会を開くことにした。会議室を借りて説明を始める。
数十人が目の前にいる。本当にこれだけ交易ができる人がいるのかわからない。
もしかしたらやじうまもいるのかもしれないが、それはそれでいいかと思う。
「みなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます。私どもシーフードの輸入により市民の皆様のご好評をいただいておりますが、このたびほかの商会の皆様にもうちの冷蔵流通ルートをお使いいただくサービスをスタートさせることになりました」
「お、これはすごいぞ」
「なるほど、それを使えばうちもマルポールから魚を輸入できるのか」
「でも高そうだな」
「どんな風にするんだろうな」
「さて方法でございます。当商会ではクルーズン市とマルポール市の間の町の川湊に氷魔法使いを配置しつつあります。
そこで皆様が当商会と契約していただき、冷蔵庫を積んだ船で川湊に立ち寄れば、氷を供給する仕組みです。それで皆様は氷魔法使いを用意することなく、全行程で氷の供給を受けることができます」
「なるほどな。それならうちの船でも冷蔵庫が使えるわけだ」
「うちもシーフードの輸入ができるわけか」
「ひとかみしたいよ」
「そこで契約いただいた商会は、供給を受けるおおよその日程と量を当方に出していただき、それに基づいて当商会が責任をもって氷を供給します」
「値段はどうなっているんですか?」
「実はまだ氷魔法使いの人数が十分ではありません。そこではじめはかなり高い金額での提供となります。もちろん氷魔法使いの人数が増えるとともに、使いやすい値段に下げていく所存です」
消費者相手ではないので、はっきり高くすることを言いきってしまう。ついでに将来値下げの余地があることも言って期待がしぼまないようにする。
もしずっと使えないということになったら、それこそ何としてでも対抗してくることになりかねない。
それにせっかく集まってもらったのに、高すぎてまったく使えないサービスとなると宣伝の効果がなくなってしまう。
そこで、氷の量と冷蔵庫の大きさ、それに契約費用などをまとめたパンフレットを配布する。
「うちは当面無理そうだな」
「うちもだ」
「まあそのうちな」
残念ながらその日に申し出てきた商会はなかったが、1週間ほどすると詳しい話を聞きたいという商会が現れた。詳しい内容を話し、金額なども詰める。顧客の第1号となった。
1回目の顧客の輸送については、川湊での氷の供給自体はもう慣れているので、特段の問題もなく氷を提供することができた。
たださすがに気になって初めてクルーズンの川湊につくときには見に行ってしまった。
積んでいたシーフードの方も特に問題がなかったようで、把握している限り品質の問題なく運ばれたうち以外の初めてのシーフードとなった。
小型船だったからふつうは同乗しないのにさすがに初回なので注文主である業者も同乗したとのことだった。船から降りてくる主人と話をする。
「お疲れ様です。首尾はいかがでしたか?」
「ええ、おかげさまで無事に運べました」
「それはうちとしても大変によかったです」
「今後もよろしくお願いします」
どうやら飲食関係に卸しをしている業者のようだ。うちもしているが、大都市でぜんぶの店に卸せるわけでもない。そうやって少しずつ広がってくれるといい。
そちらの業者の成功を見たためか、またいくつかの業者がうちの氷供給のサービスに申し込んできた。まだ余裕があるので引き受ける。
氷の供給自体はけっこうな高値で、うちとしても十分に儲かっている。もちろん儲けすぎると他の業者が参入してくるのでどこかでは値下げの必要がある。
そうは言っても供給に失敗すると積荷がダメになってしまうなど信用問題につながるので、対応できないほど顧客が増えない値段にする必要もあるのだ。
危ない業者が時々失敗することを見越して、というより失敗するかもしれないことをろくに考えに入れずに参入してくると、苦しい戦いになるかもしれない。
ただ参入と言っても数か月かかる氷魔法使いの養成からしなくてはいけないのでなかなかハードルが高い。しばらくは大丈夫だと思う。
とにかく氷魔法使いが育つのを待とう。それでまた新しい展開があるはずだ。




