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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
4章 13歳~ 領主との争いとクルーズン事業の伸長
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大型船乗船拒否

 冷蔵流通を広げて行く中で、氷魔法使いを増やしていった。冷蔵のシーフードは人気で高値のため、同業の業者も狙っている。


そこでよその業者がうちのアンセンという氷魔法使いを高給で引き抜いてしまった。


アンセンには翻意を促すが、高給に目がくらんで言うことを聞きやしない。しかも競業避止契約をしているが、他領では有効性が微妙だ。


訴訟も考えたが手間がかかりそうなので躊躇している。というより本人が嫌な奴過ぎて関わりたくない。もはや追い出したいくらいなのだ。




 話しをしているのも義務感でしかない。とにかくあとくされのないように関係を終わらせたいとしか思っていない。


同僚がアンセンは身勝手と言っているだけあってなかなか身勝手だ。しかも領主とかそういう権威が大好きだ。その割には、というよりそうだからか、卑屈なところがある。あまり言いたくないが顔もまずい。


正直な話、いなくなってくれるとすごくうれしいのだが、簡単にやめて同業に就かれるとこちらとしても商売が成り立たなくなる。


彼以外を引き留めるために、しぶしぶ彼を引き留めているような状況だ。




 クラープ町の騒動で身勝手な人間にはなれているつもりでいたが、改めて目の前にすると腹が立つ。


だが声を荒げたりはしない。もはや彼は仲間でないと思っている。いずれ訴訟を争う相手になるのかもしれない。


その時に彼が何かを主張する足掛かりになるような言動は避けておきたい。つまりもはや仮想敵モードだ。


「けっこうなサラリーを提示されているみたいだけど、怪しいよ、それ」

「お宅が私の実力を十分に評価できていないだけです。再就職先はきちんと評価してくれています」

「契約内容を調べなおした方がいいと思うんだけど」

「従業員の実力も測れずに引き抜かれたのが悔しいんですか」


いや、正直言うと氷魔法使いとしては大したことがない。それは魔法学校の教員もそう言っている。


再就職先はアンセンを評価したのではなくて、片っ端からエサをぶら下げてみて、たまたま食いついたのがアンセンだったのに過ぎない。


評価しているというより簡単に引っかかるダボハゼくらいに思っている可能性が高い。本人に教えても信じないだろうけれど。ただもう説得はあきらめることにする。



「奨学金だけはきちんと返してね。予定された利子付きで」

「そんなものすぐに返せますよ」

「じゃあすぐに返してくれ」


とにかく長く関係を持ちたくない。さっそく人をやって商業ギルドで手続きを取る。どうせ引き抜いた業者が払った準備金だろう。


利子の方は民事より高い商事のレートで取るが、半年くらいなので大した金額でもない。


「これで返すものは返しましたからね。これでお宅とは関係ありませんね」


それについては微妙だ。奨学金は競業につかなくても退職しただけでも返させるので、別に返させたからと言って競業につくことを認めたわけでもない。


訴えることはできるが、面倒なのでしないだけだ。いや、面倒でもした方がいいような気もするが、やはり面倒なのだ。




 対応はいろいろ考えるが、なんとなく放置気味だ。幸いに他の氷魔法使いが引き抜かれたという話はない。ただ他の氷魔法使いに聞いてみると、やはり打診はあったそうだ。


それは仕方ない気もする。とは言え、うちの待遇は決して悪くない。うちは他の従業員もよその商会よりよほどいいが、それに比べても5割増しくらいある。


アンセンに声をかけた商会の提示する額がよすぎるだけだ。しかもそんな給料を払っていたらとても続くとは思えないのだ。




 しばらくしてうちが契約している大型船を動かしている舟運商会から連絡があった。どこかの商会から例のアンセンを氷魔法使いとして乗せたいと打診があったそうだ。


だが大型船はうちの商会がかなりの金額で契約していて舟運の商会ではうちは大得意先だ。それどころか船を増やすために近いうちが出資までする話が持ち上がっている。


舟運の商会を新設することを考えていたが、既存の商会に出資した方が簡単だということがわかってきたのだ。


そのような状況で完全にうちとトラブルを起こした商会や氷魔法使いから申し込みがあって警戒したそうだ。そしてすぐに拒否したという。


「さすがにひどい話ですからね。うちではお断りしましたよ」




 大型船を持つ商会は少なく、すべてうちと取引している。結局アンセンは大型船では仕事ができなかったようだ。


それならばと小型船で仕事しようとするとまた別の問題が起こる。小型船に乗りっぱなしだと氷魔法を使う回数が少ないわりに拘束時間が長くなり効率が悪い。


そうするとあまりにもコストが上がってしまうのだ。


そうかと言ってうちのように小型船に川湊で氷を供給する形式は、途中の複数の川湊に同時に氷魔法使いを置かないと上手く行かない。


氷魔法使い1人ではできない方法なのだ。そうやってアンセンはにっちもさっちもいかなくなってしまった。



 もし大型船に乗れたとしてもすぐには仕事ができなかっただろう。彼は川湊付きの氷魔法使いだったので、そちらのノウハウしか教えていない。


実はノウハウの方も多方面にわたっていて、新入りには限られたものしか教えていない。大型船は大型船でまた別のノウハウがある。


もちろん実験を繰り返してノウハウを自ら確立すればできるようになるだろうが、バカ高い金で1人だけ引き抜いた商会がそんなことをできるとも思えない。


あちらは初めの障害でつまづいたようだが、実は二重三重の罠があるのだ。


とりあえず、引き抜きでつけられた傷は広がらない見込みだ。

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