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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
4章 13歳~ 領主との争いとクルーズン事業の伸長
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氷魔法使いの引き抜き

 冷蔵流通を行っていて、氷魔法使いの大半をうちの商会で抑えている。いまは河口のマルポール市から内陸のクルーズン市にシーフードを運ぶので大儲けしている。


もともと大型船に氷魔法使いを載せて保存する方式だったが、それだけでは足りないので途中の各町の川湊に氷魔法使いを置き、小型船に氷を供給する形を始めた。


これはアランがかなり調整してくれて、だんだんと拡大しつつある。各町には複数の氷魔法使いがいて、うちの契約した小型船に氷を供給する。




 氷魔法使いについてはうちの商会で育てた者がほとんどだ。


よそに引き抜かれても困るので、うちのノウハウを教えて競業避止の契約をしている。


つまり秘密を知っていることを理由に辞めてから数年は同業他社で働けない契約だ。



 ただこの契約はやはりブラックじみたところがある。こちらの世界では職業選択の自由がそれほど意識されていないが、それでも辞めたければ辞めるのは当然だ。


いや競業避止義務があったって辞めたければ辞められる。そして同業でなければ再就職したっていい。同業につくなと言っているだけだ。


とは言え専門性が高いとやはり同業でないと就きにくかったり、同業でないとずいぶん給料が安くなったりする。


それにつくなというのはやはり秘密保持のためとはいえ制限が大きく、雇う側に都合がよすぎる。




 そこで別の領のよその商会がうちの氷魔法使いを引き抜いてきたようだ。アンセンという氷魔法使いだ。どうも話を聞くとちょっと金のことになると敏感とのことだ。


しかも損得ばかり考えて、偉い人を見るとすり寄っていくという。最近になってうちを辞めると言ってきた。辞めてどこに行くのかと聞いても答えない。


実はうちの氷魔法使いの待遇はかなりいい。だからよほど何か嫌なことでもなければ、うちにいた方が得なはずだ。

それを辞めるというのは、よそからよほどの待遇を提示されたのだろう。



「今月いっぱいで辞めます」

「まだ仕事を始めたばかりだし、もう少し続けてみたらどう?」

「仕事を辞めるかどうかは自由でしょう。契約するもしないも自由です」

「辞めてどうするの?」

「お宅には関係ないでしょう」

「あらかじめ言っておくけど同業他社への就職は契約で禁止だよ」



 そう言うと黙り込んでいる。いちおう競業避止契約をしているが、ちょっと微妙なところもある。


クルーズンのように専門の法律家が多く、判例が積み重ねられているところでは、争訟になってもどのような結果となるか予測がつきやすい。


だがそういうところばかりではない。元いた子爵領などあほ子爵のその場の気分で判断が決まってしまう。


あそこまで悪意はないにしても、それほど法制度が整わず、専門の法律家もいない領では、そこまでややこしい判断はできないようだ。


裁判までは行かなかったが、その領の役人との話の中で向こうの商会への就職を止めることができないとの感触を得た。


もちろん裁判までして、さらに上訴まですればこちらが勝つ可能性は高い。だがそこまでするのも手間も費用も掛かりそうで避けたい。



 本当は裁判するかどうかを損得だけで決めてはいけない。自分の権利が侵されたら、たとえ無駄でも闘うべき時はある。


しかも今回の場合にはしっぽをまくと他の氷魔法使いも追随する可能性もある。幸いそう言う様子は見えないけれど。それを見てもアンセンは特殊な人なのだろう。


ただ何となく躊躇されるのは競業避止義務自体がブラックっぽいことだ。ついでに言うと、彼には大したノウハウはまだ教えていない。


それらのことから裁判までしなくてもいいかなと思ってしまう。




 また次に会ったときにアンセンに対して戻るように説得したがちっとも聞き入れない。どうやら再就職先に提示されている給料の方がずっといいようだ。


それはまあ自由競争なので仕方ないところもある。ただ正直言うと、うち以上よりずっといいとすると相当無理がある。


もちろんうちは研修を受けてみて向かなかった人の分はうち持ちにしているから、それを払わなくていい別業者は少し高く出せる。ただそれでもたかが知れている。


そこまで高いのは異常だ。いまはシーフードの価格はかなり高くなっているが、単に世の中が熱狂しているだけで、いつまでもこの高価格は続かないはずだ。


値段が下がったときに向こうは報酬を大幅に下げるに決まっている。そう言うことがわかっているのか怪しい。


「辞めるのは仕方ないにしても同業に就かれると困るんだけどなあ」

「仕事は私が決めることです」

「だけど競業避止義務付きで契約したんだよね」

「それも先方の商会のある領では関係ないでしょう。領主様に訴えますよ」


どうやら再就職先に入れ知恵されたらしい。本当に関係ないかどうかは微妙だし、訴えて上まで行けばこちらが勝てそうだが、それも面倒というところだ。


アンセンは領主の名を出すが、彼が領主に伝手があるわけでもない。伝手があるのは彼を雇った商会の方だ。


しかもクルーズン伯爵やクルーズン司教からの要請があったとしたら、アンセンの思い通り動くかどうかはわからない。


もっともああいう面倒な人たちにこの程度のことで借りを作ろうとは思わないけど。だけど司教あたりは嗅ぎつけてかってに何かしてきかねないな。


かってに介入して礼を求めてきそうで怖い。何かヤクザみたいだ。


ちょっと困ったことになった。とにかく対応を考えないといけない。

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