冷蔵流通の小型船利用策
冷蔵流通で河口のマルポールからクルーズンにシーフードを運んでいる。
だがいま使っている大型船は5日に1回しか来ない。これでは間が空きすぎだ。ぜひとも輸送量を増やしたい。
小型船を使うとなると、途中の輸送に必要な氷を作る魔法使いを置くことができない。大型船を増やすアイディアはまだ先のこととされた。
そこでやはり小型船を使う別のアイディアがあったが、カミロも同じことを思いついたようだ。
「何がわかったんだカミロ?」
「俺にも教えてくれ」
「船はマルポールからクルーズンまで直行ではなく途中の町に泊まりますよね。だからそこで氷を積み込めばいいんです」
「はあっ?」
「あ、そうか」
「ちょっと待てよ。途中の町には氷魔法使いがいるのか?」
「フェリスさん、正解ですか?」
「うん正解」
「なんでそうなるんだ?」
「途中の町に氷魔法使いを置くのか?」
「フェリスさん、説明してください」
「わかったよ。途中の町には氷魔法使いを置く。それで港で氷を作ってもらって船に積み込めばいい。
小型船が大型船の5分の1しか冷蔵庫を積めなくても、5隻が寄港して氷を積み込めば、氷魔法使いの効率は同じになる。荷運び分少し余計にかかるかもしれないけどね」
「確かにその通りだな」
「でも途中の町に氷魔法使いを置くんですか?」
「そう途中の町にも氷魔法使いを置く。だってさっきも言ったように効率は大型船に置くのと変わらない。だいたいはじめから検討していたんだ。
途中の町の魔法塾とも契約していたし、そちらの伝手でその町でうちの氷魔法使いの候補も募集していたよ。
彼らは大都市に来たいかもしれないけど、地元にいたいかもしれないだろ」
「そりゃまあ。そうだな」
「僕なんかクラープ町よりクルーズン市の方が楽しいけどな」
「でも親や兄弟の面倒見ないといけない人もいるじゃない」
「まあ、そうだな」
「途中の町に氷魔法使いを置く理由はそれだけじゃないんだ。もともとクルーズンとマルポールだけでなく、途中の町とも交易するつもりだったんだ。
クルーズンから特産品を持って行って、一部の積荷を途中の町で降ろして、代わりにその町の特産品を積んで、それを繰り返して、最後にマルポールで全部売る。
今度はマルポールで買い付けて、やはり途中の町で降ろしたり積んだりして、最後はクルーズンに持ってくる。
冷蔵品を降ろすとなるとその町にも氷と補充するための氷魔法使いは必要だよ」
「なるほど。確かにそうだな」
「ずいぶんいろいろなことを考えているんだな」
「確かにどうせ立ち寄るんだから、商売ができるならした方がいいな」
「氷魔法使いを置くのは川湊の近くですか?」
「とりあえずはそうなるだろうね。ただいつまでも町に1人ということもないだろうから、川湊に最低1人は置くにしても、そのうち街中にも置くようになると思うよ」
「そうだよな。確かに流通するところにいるのが自然だよな」
「そうか、考えたら馬車で運ぶなら道沿いでもいいわけか。今回は舟運だったから川湊におくということで」
いろいろ道筋が見えてきた。小型船に河口のマルポールでシーフードを載せて、クルーズンまでさかのぼる途中の川湊で氷を積む。
ただこういうアイディアはけっこう絵に描いた餅となることもある。途中の町での氷魔法使いの配置がそううまくいくとは限らない。
実は積荷の出し入れと氷の積み込みは都合のいい場所が違うのかもしれない。途中の川湊での氷の積み込みがけっこう手間がかかるということも考えられる。
単純に人が足りないこともありうる。あるいは人を十分につけようとするとコスト高になってしまうこともありうる。
そういうことはやはり実験してみないとわからない。なんとなく偉くなるとアイディアを思いついて無理やり現場に押し付けたりしたくなる。
もちろん十分な費用をかけて実験して、見込みがなければ諦めて、困難があればそれを解決する費用なども出して、やっぱり上手く行かなければやめる、
それくらいのつもりでいるなら新しいアイディアも悪くない。だがそれを「できるはずだ」と金もたいして出さずに押し付けるのはよくない。
それでしょせん思い付きのアイディアが失敗すると、チャレンジ精神が足りないとか、何が何でも達成しようという意欲に欠けるなどと評するのは害悪だ。
ああ、また何か前世の記憶がよみがえってきている。
「そうしたら、どうするんだ?」
「とにかく実験してみよう」
「まだ途中の町の氷魔法使いは実力が十分じゃないんじゃないか?」
「だから実験なんだよ。いきなり売り物になるものを運ぶのは怖い。実験だったら失敗したっていいわけだから。
そりゃ食材にはちょっと申し訳ないけど。それは贖罪すればいい。実験は早めにした方がいいから」
と自分の中では駄洒落だが、聞いている人には言語が違うのでちっとも伝わらない演説をしてしまった。
「いまフェリス何か変なこと言ったの?」
「いや別に。なんでそう思うの?」
「なんか顔がにやけていたから」
シンディは妙なところで鋭い。
「ともかく早めに実験しよう。そうすれば実力がどれくらいかも測れるし、実力が付いたらすぐに実現に移せる」
「そうだな」
「じゃあさっさと進めるか」
そんなわけでまたアランに行ってもらうことにした。行きに途中の各町で氷魔法使いに手紙を出す。
必要なら川湊で降りて相談したりする。大型船だと次に来るのは5日後だが、小型船ならその日のうちに次の船が来たりする。
そうやってマルポールまで下って行って、シーフードを仕入れて、冷蔵庫に入れて小型船に積み込む。
後はクルーズンまでさかのぼり、その途中の川湊で氷を補充していく形だ。
初めはやはりうまくいかなかった。シーフードが少し傷んでいる。前に競合の商会が出していたのはこんな感じだったのかもしれない。
残念だが肥料にしてしまう。ただいろいろと記録して難点が見えてきた。それを一つ一つ潰していけばいい。
そんな風にしてシーフード交易拡大策を図っていた。




