シーフードの輸送量を増やしたい
冷蔵流通について水運のルートを確立しつつあり、それを用いて川下の港町から魚を輸入している。
初めのころは取扱量が少なく、しかも司教と領主が手に入れて客に出したりして自慢していたので、なかなか街の人々は入手が困難だった。
そこで怪しいつてをたどって販売を要求する者がいたり、店に行列ができたり、転売されたりといろいろ面倒があった。だがそれらも今は落ち着いている。
それはともかく、流通が増えて来てその手の怪しい人は来なくなった。ただ熱狂はなくなっても供給は続いている。
政庁も教会もレオーニ亭もうちの高級店もそれ以外のレストランも熱狂が終わっても相変わらず魚を必要としている。。
政庁や教会は何か会を開くときに突然欲しいと言ってくる。うちの店とレストランは毎日一定量必要だ。
以前の全く足りない頃から比べるとずいぶんと供給も安定したのだが、それでもときどき足りなくなってしまうのだ。
家でシンディと話していた。
「なんでシーフードを毎日仕入れることができないの?」
「船が来ないんだよ」
「船なら毎日水路を行き来しているじゃない?」
「いつもいるのは小型船だよね。うちは大型船しか使ってないから5日に1回になっちゃうんだ」
「小型船じゃダメなの?」
「だってさ、小型船じゃたくさん載せられないだろ。だけど氷は必要だから氷魔法使いは載せる必要がある。
だけど冷蔵スペースも積荷も少なくて氷の需要も少ないから氷魔法使いはあまり仕事できずに暇になってしまう。
氷魔法使いは船に乗っていて時間をつぶすばっかりになる。ただでさえ氷魔法使いが足りないのにそんな無駄な使い方できないよ」
「ああ、そうかあ」
「そうなんだよね。いまのところ氷魔法使いがボトルネックだから。つまりそこの使い方をいちばんよくしないといけないから大型船になるんだ」
「それで大型船だと5日に1回になっちゃうのか」
「うん」
「氷魔法使いが増えれば小型船でもいいの?」
「確かに氷魔法使いの数の問題は解決するけど。でも結局船の上で暇な時間が長くなってしまう。
暇でもそれなりに給料は出さないといけないから、輸送にかかる費用がものすごく高くなって、商品も値上がりしちゃうよ」
「じゃあどうするの?」
「2つくらい方法を考えている」
「やっぱりフェリスはいろんなことを考えているのね」
「それで1つの方法は……」
言いかけるとシンディに止められる。
「わ、わかったわ。後はみんなのいるところで話しましょう」
あれ? 何かしつこくなってきたか? まあいいや。みんなの前で話そう。
そう言うわけで役員が集まったときに話をすることにした。
「……そう言うわけで、氷魔法使いは大型船にしか載せられないけれど、大型船は5日に1回しか来ない。だから仕入れがその時しか来なくなっているんだ」
「そうか困ったな」
「でも仕入れもまだまだ足りないよ」
「飲食の方でもシーフードは扱いたいんだよな」
「それに関してはフェリスが2つも方法を考えていてね」
なぜかシンディが自慢げに話しだす。
「どんな方法なんだ?」
「さっさと話して進めよう」
なにかみんな乗り気だ。
「うん。1つはすぐにはできないけれど、大型船を増やす方法だ」
「え? もう全部使っているんじゃないのか? 他にあったっけ?」
「つまり大型船を建造すればいいんだ」
「え?」
「そりゃすごい」
「だけどうちでできるのか?」
「ほら前に株式会社方式をやったよね。あれと同じ手で、資金を集めて大型船を就航させる手はある」
「だけど大型船なんか作ってそんなに積荷があるのか?」
「確かに需要がないと苦しくなりますね」
「いやだって今後は氷魔法使いも増えて冷蔵流通が増えるからね。そうしたらますます増えるよ」
「そうかあ。それなら行けるかもしれないな」
「確かに今の船も少し余裕がなくなってきていますな」
「だけど冷蔵がそこまで伸びなかったら危ないですね」
慎重論が出る。それはその通りだ。株式会社なら出資分の損にしかならないが、それでもかなりの出資はしないとそもそも成立しないだろう。
もしそこまで積荷が増えなければ、たぶん新商会の船は運賃を値下げして、既存の舟運商会と競争になる。
値下げ合戦でぎりぎりのところまで下がって、後はどこかが潰れる可能性もある。
「まあただこちらのアイディアはまだ先の話だから。やろうとしたって関係者との調整が無茶苦茶大変だし、すぐにはできっこないよ。そのうちに需要も見えてくるだろうからさ」
「でも舟運商会なんて夢が広がりますね」
「ほんとう。絶対実現させましょう」
確かに何となく自前で舟運をするというのも楽しい気もする。
「それでもう1つのアイディアは何ですか?」
「もう1つは小型船を使うことだよ」
「確かに小型船なら毎日のように行き来していますが、ただ店主も言っていたように氷魔法使いを乗せきれませんよね」
「氷魔法使いなしじゃ、シーフードはダメになっちゃう」
「さすがになしじゃ困りますよ」
「うん、だけど必要なのは氷であって、氷魔法使いは別にいなくてもいいわけだ」
「え? 氷魔法使いなしで氷なんか用意できるのか?」
「そんな技術ないよな」
「あ、わかりました」
カミロが何か思いついたようでニヤニヤしている。俺だけが思いつくような突飛なアイディアでなく、他の人も思いつくもののようだ。




