シーフードを取られてレオーニ氏が反撃
冷蔵流通ルートを立ち上げつつある。氷魔法使いを雇い、主に船便で冷蔵品を運んでいる。
川下からシーフードを持ってきて、司教と領主に提供したところ、彼らが見せびらかしたからか、評判になりつつある。
とは言え、それほど大量にあるわけでもないし、調理法もまだまだだ。
シーフードははっきり言って品不足になっている。ブームになってしまったからか、どうしても買いたいという人が多い。
取引先だとかよくわからない伝手を伝って回してくれとの声があちこちからくる。そうは言っても足りないことは足りない。
マルポールまでギフトのホールが通じていれば買ってくることもできたのかもしれない。ただやはりどうやって運んだのか疑われる。
それにいまからマルポールに行くとなると、また5日くらいはつぶさないといけない。この程度のことはきちんと正攻法で対処した方がいいようにいもう。
回してくれという注文は取引先だけではなく、司教や領主からも来る。もちろんそれははじめから織り込み済みで仕入れはしている。
ところがたまに大きな会を開くとか何とかで多めの注文が来ることがある。断りにくいのでうちの店で売る分を減らしたり、レオーニ氏に頼み込んで回してもらう。
店の担当者もレオーニ氏も渋い顔をしている。そのたびに言い訳に行かないといけない。
あるとき本当にほとんど全部よこせとの注文が来たことがある。
「そこまで全部よこせと言われても困るよ」
レオーニ氏から苦情が出る。ごもっともです。それはよくわかります。ですが断れないところからの要求なんです。
「それがうちの店で売る分もゼロなんです。なんでも王都から大臣一行が来るとかでどうしても回せとあちらから」
そう言いつつ領府の政庁の方向を指さす。だがレオーニ氏は引き下がらない。
「だけど契約は契約だよね」
それはもっともだ。前世の日本だとわりと権力者の言うことが無理でもまかり通ってしまうが、先約の方が優先なのが本来だ。
それはそうなんだが、ちょっと事情が特殊だということもある。政庁の方からも何とかならないかと頼まれている。
「それはもっともなんですが、何とかなりませんかね」
「そりゃ僕だって、事情は分かるよ。だからさ、埋め合わせをして欲しいんだ」
確かにそれはわからないではない。一方的に権利を取られるのは許せないだろうし、それを許していたらいくらでも無理を言ってくる。
「何がお望みなんですか?」
「いや、君が出すべきものじゃないだろう。無理を押し通してきたあちらが出せばいいことで」
それももっともだ。俺が出すべきじゃないし、無理を言ってきた者が負担しないといくらでも無理を言ってくるようになる。
「あちらには何をお望みなんですか?」
「僕が交渉するからさ、担当者を紹介してくれない?」
何かすごく不安だ。ただ無理を言ってきているのは向こうだし、政庁の方もトップが直接言ってきているわけではないから会わせるくらいはいいかもしれない。ただふだんの彼の行動からすると何か不安なのだ。
「あまり無茶なことはしないでくださいね」
「大丈夫だよ。それに僕だってふだんはけっこう偉い人たちの相手もしているんだよ」
確かにその通りだ。このままじゃらちが明かないし、会ってもらうか。
そう言うわけで政庁の調理の担当者とと会ってもらうことにした。
しばらくしてレオーニ氏は話がまとまったという。それでシーフードもその時は政庁の方に持って行っていいとのことだった。
「何を要求したんですか?」
高額の金銭をよこせなどとは言いそうにない。何かまた料理がらみなんだと思う。変な特権とかでなければいいのだけれど。
「いや、大したことないよ。伯爵家伝来の食器セットがあってね。あれを使ってみたかったんだ。今度客がいないときに使わせてもらうことになった」
まったく転んでもただでは起きない人だ。まあその程度ならいいのかもしれない。政庁の方は面白くないかもしれないが、無理を通したせいもある。
ただ俺が中に入ったことでこちらに何かとばっちりが来ないといいのだけれど。
「ところで、それって運んでいる途中に壊れたりはしないんですか?」
「それで渋られてね。けっきょく政庁の晩餐室が空いている日にそこで使うことになったよ。客もそこに来てもらう。入れる客は向こうで審査するとは言っていたけどね。君なら大丈夫だろうから、ぜひ来るといい」
何かすごく行きたくない。いや料理はおいしいだろうけど、政庁の担当者が怖くて会いたくない。
「ええ、時間に余裕があれば行きます」
たぶんその日は余裕はないだろう。たとえ余裕があったとしても何か不都合があるはずだ。
レオーニ氏もうらやむ食器セットは見たい気もするが、それもそのうち見られる気がする。
結局、大臣の訪問もその後のレオーニ氏の出張営業も無事終わった。俺は出張営業の日は残念ながら「所用で」行くことはできなかった。
「どうでした?」
「いやあよかったよ。あの雰囲気。君も来ればよかったのに」
行った人の話を聞いたところ給仕は政庁の者が行ったらしい。たぶん食器をできるだけ他のものに触らせたくなかったのだろう。
それでピリピリした雰囲気があったというから、行かなくて正解だった。
ところで大臣のいる王都は内陸でクルーズンまでの途中経路も内陸だからここで出せば自慢になるのかもしれない。
だけど大臣はマルポールに行かなかったのだろうか。行くとすればそんなもの出したって仕方ないように思う。
教会の方からも枢機卿が来るとかでねじ込まれたことがある。枢機卿はマルポールには行かないのだろうか。
いずれにしてもお偉い方たちのすることはよくわからない。振り回されずに平和に過ごしたいだけなんだけれど。




