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35. クルーズン市観光(上)

 クルーズン市にはじめてブドウを売りに行った翌日に、せっかくホールがつながっているので、シンディとマルコを連れてクルーズン市を巡った。


ただフェリスはクルーズン市に実際に行ったからみんなにそれを話すことは構わないのだが、シンディとマルコはフェリスのギフトで行ったので人には話せない。


ギフトのことは秘密魔法で他人には話せないが、ややこしいことになるのでクルーズンに行ったこと自体を絶対に話してはいけないことにした。




 クルーズン市は王都から南方に伸びる南部大道沿いにある人口数万の都市である。


またこの都市から東西に道が走り、その東方にクラープ町があり、その近郊にフェリスたちの住むセレル村がある。




 さて、クルーズン市でどこに行くか、観光ガイドブックもなければ、旅行会社もなさそうだ。


見聞記くらいはあるかもしれないし、旅行会社は聖地巡礼のガイドなら地球でも古くからあったらしいから、この辺商売のタネにできるかもしれない。


とにかく今回は口コミだ。マルコの父親のマルクやブドウを売りに行ったブリュール氏に聞き、行くところの目星をつけてあった。




 シンディはこの都市には冒険者ギルドがあると聞いて、一度は見てみたいとまずそちらに向かった。


冒険者ギルドは2階建てで教会よりずっと大きく武骨な作りの建物だった。


剣を腰に下げた男やロッドを持った女や荒くれっぽい男などいろいろな冒険者が周りにたむろしている。


中に入るに気おくれしていたが、シンディが「入ったもの勝ちよ」と言って、さっさと入ってしまったので仕方なくついて行った。ふつうオッサンの方が図々しいのだが、どうもシンディには敵わない。


右手が窓口になっており、案内と仕事のあっせんと資材の買取を行っている。中央には依頼内容が貼られた大きな掲示板がある。


左手は飲食のできるスペースのようだ。シンディは案内の窓口に向かい、受付のお姉さんに話しかけた。


「こんにちは。冒険者になりたいのだけれど、どうしたらいい?」

「こんにちは、お嬢ちゃん。年はいくつ?」

「今は8歳よ」

「ごめんなさいね。冒険者の登録は12歳からになるの。でも子ども向けの冒険者体験コースがあるから、お父さんかお母さんと一緒に来てね」

「あたしたち、クラープ町の近くのセレル村からきているから、親を連れてくるのは無理よ」

「あらあら、ずいぶん遠くからきているのね。でも親御さんは一緒じゃないの?」

「うん、私たちだけ」

「子どもだけで大丈夫?」

「クルーズンまで来るのは問題なかったわ」

「あらそう。それなら大丈夫かな。冒険者体験コースの方は、クラープ町にギルドの支部があるから、そこの支部長のスコットに聞いてみて」

「わかったわ」


お姉さんとの会話を切り上げて、今度は仕事の依頼の掲示板を見ることにした。


この掲示板にはA級からE級までの区画があり、それぞれ小さな紙が貼られている。上級の区画ほど面積が狭く紙もわずかで、E級が圧倒的に広く多数貼られている。


それぞれの紙には依頼内容と報酬が書かれいる。A級となるとワイバーン退治のような危険なものがあり、報酬も1匹100万とある。


C級だと商隊の護衛などがある。E級はドブさらいやお使いや荷物持ちや届け物や草むしりなどで報酬は数百から数千くらいのようだ。


掲示板を見ていると、40くらいの男から話しかけられた。


「おやおや、坊主たち仕事探しかい?」

「いえ、俺たちは、まだ8歳なので見学だけです」

「そうか。この級分けは仕事の難しさで、冒険者の級と連動している。冒険者は自分の級までの依頼しか引き受けられないんだ」


俺たちがA級の掲示板を見ていたからだろうか。男が続ける。


「だからC級の冒険者なら、C級以下の仕事だけだ。これは下級の冒険者に難しい依頼をさせても失敗するし、けがや死亡の危険も多いからと制限されているんだ」

「なるほどそうなんですね」


いちおう依頼に配慮があるらしい。というより過去によほど失敗や死傷が多かったんだろうな。


「坊主たちもA級になれるといいな」

そんなことを言って、男は依頼を持っていった。




マルコは少し離れたところから掲示板に入れ替わり来る冒険者の様子を見てあることに気づいた。

ちょっと口には出しにくいので、フェリスとシンディによく見ておくようにという。


ギルドを出てマルコが2人に聞く。

「何か気づいた?」


請負仕事だから労働者の諸権利がないことはわかるが、ここでそれを言っても仕方ない。成功報酬制で失敗すれば何ももらえないし、けがをしても何の補償もないのだ。


フリーの仕事だとかなり報酬が高くないとソロバンが合わない。もっともこの社会では勤めの仕事も、商売がうまくいかなくなったり、雇い主とけんかになるとすぐに首になったりするのでどっこいどっこいなのだが。


「上級の仕事は少なかったわね」

「そうだね。上級冒険者はそんなに多くいないだろうしね」

「それもあったね」

「ほかに何かあるの?」

「文字の読めない人が結構いたみたいだ」

「そういえば隣の人に聞いていた人がいたわね」

「それもいたし、パーティのメンバーに見てこいと頼んでいた人もいたよ」

マルコは周辺まで見ていることがわかる。

「文をきちんと読まないと依頼内容を取り違えちゃうかもしれないわね」

「人任せにしておくと、文の読めるメンバーの好みだけで仕事が決まっちゃうな」


もう見るものもないのでギルドを出て別のところに行く。




 次は神殿に行く。ロレンスが司祭をしている宗教で例の神を祭っている。丘の途中にあり、大理石で高い柱のある白亜の建物である。


坂を上っていく。途中には簡易な作りの土産物屋や茶店などがいくつかあり、観光客がうろうろしていた。




 この世界に写真があれば3人で写したいと思っていたところ、ちょうどよく似顔絵描きがいる。どこの世界でもみんな同じことを考えるようだ。


1人なら2000ハルク、1人増えるごとに1000ずつで、色を付けるとさらに2000ハルク増しだ。そこで3人でカラーで描いてもらうことにした。


神殿を背景に3人並んでベンチに座る。絵描きはけっこうな高齢の男で、フェリスたちに「にこやかに」などと話しかけ、すでに背景がスケッチされた紙に3人の絵を描いていく。ぽかぽかと暖かく気持ちのいい日だ。


そういえばクロの絵も欲しいな。神にでも記録させておくか。


30分くらいで出来上がり、絵を見せてもらう。みんな微笑みつつも精悍そうに見える。


支払いをすると、絵は丸めて保護用の紙でくるんで渡された。マルコは絵描きにいろいろと絵について聞いていた。

ブックマークありがとうございます。


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