レーヌ見物
冷蔵流通ルートの確立のためにクルーズンから川を北部に4日さかのぼったレーヌに来ている。
冷蔵庫のお披露目会は好評で、翌日は各商会の主人と連続の面会の機会もあった。
まだ冷蔵庫や氷魔法使いの手配が十分でないのですぐには契約できないが、手配ができ次第の取引を進める予定となっている。
冷蔵庫にはブリュール氏の紹介してくれた業者から買ったレーヌの特産品を詰めて送り返した。
こちらはブリュール氏が中を検分してくれるとのことだ。
それで上手く行けば、定期的に交易することになるし、上手く行かなければもう一工夫することになる。
どちらにしろ交易することには違いがないはずだ。
俺は居残りする。役員たちがレーヌの街を見たいという。だから入れ代わり立ち代わりで、ギフトのホールで連れて来て見学してもらおうかと思っている。
入れ替わりにするのは一斉に連れてくると商会の方で部下たちが困るだろうし、ホールで行くので部下たちに行先の説明もできず、説明なしに一斉にいなくなったら疑われかねない。
ところで入れ替わりだとどうなるのだろう? 観光地近くの住民みたいに、友達が来るたびにもう飽きた観光地に行くことになるのか。
それとも彼らだけ残して俺は宿に戻るのか。なお商会は俺がいなくても動くようにはしてあるし、そうするべきだと思っている。
ギフトのホールは1日1回行き来しないと消えてしまう。
それなら毎日レーヌと行き来することも考えられるが、よくよく考えなおすとあまりうまくない。
ギフトは人にばれると危険だ。だから人前では使えない。
かといって宿屋を何週間も借りっぱなしというのもおかしな話だ。部屋だけ借りて俺がふだんいないと何をしているのかと疑われかねない。
だからもしレーヌとの間でホールをつなげておきたいなら、レーヌにも事務所を構える必要がある。
それはそれでいずれはするかもしれないが、すぐにではなさそうだ。
ついでに言うとホールはある一カ所とクロの間しかつなげることができない。もともとクロのところに帰り、そして元の場所に赴くためのものだからだ。
あの渋ちんの神から引き出すのにクロのためという理屈をつけなければならなかったのだ。そこで実はまだクラープ町の方がややこしい。
まだあの馬鹿領主はこちらにちょっかいを出そうとしているらしい。どこかで片付いてくれないかと思っている。
ともかくそれでクラープ町ともつなげる必要があり、レーヌとは当面は恒常的にホールをつなげられそうにない。
役員たちを入れ代わり連れてくるのに同じ観光地に何度も行くと心配していたが、そうでもなかった。みんなそれぞれ行きたいところが違うらしい。
シンディは道場に行くという。彼女はもちろん強いが、大都市クルーズンで最強というわけではない。女子だけならそれに近いようだが。
それでも「強い奴に会いに行く」とばかり道場に向かった。嫌もしかしたら道場の雰囲気が好きなのかもしれないし、他の道場がどうなっているのか知りたいのかもしれない。
俺は正直あまり行きたくなかったが、付き合わされて、いつもながらの負け試合を繰り広げた。
「お嬢ちゃんは強いのに、兄ちゃんは弱いな」
言われなくてもわかっている。
マルコはやはり市場が見たいという。実はリアナも一緒だった。だから一緒に連れていく。そうなのだが、どうも同じ市場でも見たいものが違うらしい。
もちろん2人ともどんなものが売られているかには興味があるようだ。特にクルーズンでは売られていないものや、クルーズンより安いものなどだ。
ただリアナは料理人だけに食材の味とか使い方とかそちらに興味があるようで店員にそれを聞いている。
店員も「おうよ」「その質問を待っていた」とばかりに答えている。帰ったらまた新しい料理を食べられるのだろう。今から楽しみだ。
ところがマルコは商人だけに売れ行きとか値動きとか購買層とかそういう方が興味があるらしい。
だけど店頭で売っている店員がそんなことを聞かれても難しい顔をして困っている。そりゃそうだ。
珍しいものや安いものなら大量に買っても構わないので、手代さんか番頭さんを出してもらう。
いろいろ話を聞いて、商品を多めに購入し宿に届けてもらうことにする。どうせギフトのホールで持って帰ればいいのだ。
アランは、案の定だが、公園で女の子に声をかけている。いや別にいいんだけど。
ついて行っても仕方ないので宿にかってに帰ってくるように言い渡して別れる。
宿に帰ってきて「楽しかったかい?」と聞くと、「ええ」と悪びれもなく答える。
だけど、他の女の子も交えて、その年代の子のはやりなどを聞いていたとのことだ。
確かにそう言うのはアランにしかできないな。
ジラルドはアランの友達だが、アランとは全く行動が違う。
あちこちの商店を見歩いている。売っているものや商売の仕方などしきりにメモを取っている。
もう少し遊んでくれてもいいんだけどな。いや実直だし大変助かっているのだけれど。
カミロは図書館に直行だった。どうやら図書館ごとに持っている本がそれぞれ異なっているとのことだ。
もちろんメジャーどころの本はクルーズンの図書館にもレーヌの図書館にもあるが、そう言う物ばかりでもないそうだ。
「けっこうクルーズンの図書館にはない本がありましてね」
図書館で一緒に居られても煩わしいだろうからと、こっちはこっちで自分の興味のある本を見ていた。
興味はないがどこにもでもあるのは聖書だ。神の栄光やら御業を讃えている。子ども時代さんざん聞かされたものだ。
そして実物を見て嘘八百だと確信しているものだ。本当の神の姿は俺の日記の中にある。
エミリは飲食店を見て回っていた。だいたい実家が食堂だったし、いまも飲食の管理運営をしている。
リアナとは異なり調理の方にはそれほど興味があるわけでもないようだ。どちらも必要な知識だし、両方共いてくれて助かっていると思う。
アーデルベルトも市場に行くが、年配の人にいろいろ話を聞いている。何度か不作や作物の病気があったときのことのようだ。
図書館にも行くが、カミロと異なり、あくまで道具として本を使っている。
そんな調子で皆それぞれにそれぞれの視点でレーヌの街を見てくれたと思う。
もっとミーハー的に遊んでくれてもよかったのだけれど、みんなまじめだ。
みんなが遊んでくれないと、俺だけ遊びづらいんだけどなあ。




