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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
4章 13歳~ 領主との争いとクルーズン事業の伸長
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レーヌ行きの準備

 冷蔵庫を使った流通で、青果商のブリュール氏と合弁することになった。


近くの町との交易を考えていたが、ブリュール氏の案は想定外のものだった。


水運を使い、船で4日も離れた大都市レーヌと交易するという。



 第1印象としてはよさそうに思えるが、いちおう商会に持ち帰って役員と相談する。


「そんなわけで、ブリュール氏との合弁で水路を使ったレーヌとの交易の話が出たんだ」

「レーヌ?」

「レーヌなんか行ったことある奴いるのか?」

「私はないわ」

「私もです」


誰も行ったことがないようだ。船では4日というが、荷馬車だと10日以上、歩けば荷馬車より速いかもしれないが、気軽に観光で行けるものでもない。


「だけどレーヌなんて遠いところの商売は大丈夫なのか?」

「ブリュールさんはすでに向こうと取引があって、冷蔵品を増やすだけだからそんなに難しいことはなさそうだよ」

「だけど、やっぱり新しいことをするとなるとね」


「もちろん初めは小さく実験してみよう。それでどんな問題が起こるか情報を集める。それから大きくすれば失敗の可能性も少なくなるよ。

しかもブリュールさんと合弁だから彼は上手く行くと思っていそうだよ」


「まあ、それならいいけど」

「実験というのは何をするの?」


「冷蔵庫を向こうに持って行って、実際に向こうからの産物を持ってくる」

「4日もかかるんじゃ途中で氷魔法が必要だ」

「そう、だから1人は同乗してもらう」

「冷蔵庫を持って行くときに、こちらの産物をついでに持って行けば、こちらから持って行く実験にもなるね」

「そうだね。向こうの商会へのあいさつがてら持って行った方がよさそうだ」



 そんな感じでとんとん拍子で話は進む。


あまり大きいことを準備もなしに進めるのは愚かしいが、小さいことで特に危険のないことでも躊躇するのもまた愚かしいのだ。


役員の了承が取れたので、さっそくブリュール氏に話を持って行く。


「商会の中でレーヌとの交易を進めることの了承が取れましたので、さっそく実験を始めたいと思います」

「実験というのはどういうことですか?」

「小さい規模で産物を運んでみて、実際に起こりそうな問題を洗い出そうと思います。その経験をもとに、少しずつ規模を拡大するつもりです」

「なるほど慎重でいらっしゃる。とても若い商会とは思えませんな」

「やはり若い商会は冒険をしがちですか?」

「ええ、やはり経験が少ないとどうしても前のめりになりがちで、私どもも協力先を抑えるのに難儀したこともあります。シルヴェスタさんはとても成人前とは思えません」


久しぶりに言われたが、生きた年齢は前世も入れると50年以上だ。こちらの社会ではもう老人の域に達する。


「それで具体的な話ですが、冷蔵庫を何台かとその中に産物を入れて次の交易のときにレーヌに送ります。ただし途中で氷の補充が必要なので氷魔法使いを同乗させます」

「なるほど」

「その途中で魔法を使う間隔や問題点なども把握します。そして向こうに着いたらあちらの商会にクルーズンの産物をお披露目し、冷蔵庫の効用を説きます」

「そうですね。それが必要ですね」

「それから私は向こうでちょっと用事があります」

「ええ、ぜひレーヌの街も見てきてください」

「それから向こうの産物を持ち帰り、やはり帰りでも輸送について問題点を把握した後に、こちらにお持ちして検分しましょう」

「今から楽しみですね」



 クルーズンとレーヌ間の定期船は2つの船が行き来していて5日に1回だそうだ。次の回には間に合いそうもない。次の次の回となる。


ただブリュール氏が先方に次の船に乗せる手紙を書いて向こうの商会の人に話を通してくれるとのことだった。


「少し多めの冷蔵庫と産物を用意してもらえますか?」

「はあ、それは構いませんが」

「せっかくですから、大きくお披露目しましょう」

「わかりました」


そう答えたが、その意味が分かったのは先方についてからだった。




 レーヌとの流通を役員に相談したときアーデルベルトから、レーヌでも特許取得が必要だと指摘された。


向こうは別の伯爵の納める伯爵領で、領が違えば国が違うようなものだ。なおまた高位の貴族であるのは向こうも大都市だからだろう。


ともかく前にお世話になった特許専門の代言人のところに相談に行く。


「なるほど、わかりました。向こうの代言人のところに手紙を書きましょう。そこでうちの者も向かわせて、向こうの代言人と共同であちらの特許を取得しましょう」


「はあ、大変なんですね」


「ええ、法律が微妙に違うんですよ。元は同じ制度を参考につくられましたが、やはり土地土地によってギルドなどの要求で変わっていて難しいところがあります」


領邦間で条約でも作れば別なのだろうが、法が変わってしまうこともわからないではない。


だいたい他領の発明など保護したところで、その領には利益などないのだ。


もちろん自領での発明が他領で保護される利益や特許の保護でそもそも発明自体を促す利益を含めれば得にもなるだろうが、そこまで産業が成熟はしていない。


あのゲルハーの子爵領など特許制度もないくらいなのだから。


ともかく予想外だが同行者が1人増えてしまった。




 役員たちから、レーヌに同行したいとの声が上がる。


「あたしもレーヌを見てみたいわ」

「僕も」

「行ってみたいよな」

「ぜひ後学のために」

「うまいものあるんだろうな」

「一度くらいは見てみたいものですな」


みなそれぞれに行きたがる。


「俺1人だけ行けばいい。ギフトで連れて行くから。船旅なんかつらいだけだぞ」


そう言うと、まあそうか。とみな引き下がった。


ただ旅は面倒でも移動もセットのような気もする。それで日常と引き離されるのだ。


そうなのだが、全員に仕事から離れられても困る。そのうち落ち着いたときにそれぞれ行ってもらえばいいと思う。


ともかくレーヌ行きの準備が整っていった。


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